【わたし達はおとな】
インタビュー:藤原季節と木竜麻生「1割が嫌う」かつてない恋愛映画 「わたし達はおとな」
「新たな恋愛映画」とは使い古された言葉だが、あえてそう言う。演劇界で今、最も注目を浴びている若手劇作家・演出家、加藤拓也のオリジナル脚本による長編映画監督デビュー作。生々しさと切迫感、リアリズムに徹した描写力に息をのむ。「菊とギロチン」の木竜麻生と「空白」の藤原季節と、若手実力派俳優2人が恋愛の危うさを体現。これまでの恋愛映画の限界をやすやすと超えた。
同せい中の大学生、妊娠が発覚して……
優実(木竜麻生)はデザインを学んでいる大学生。知人の演劇サークルのチラシ作りをきっかけに知り合った直哉(藤原季節)という恋人がいて、2人は半ば一緒に暮らしている。ある日、優実は自分が妊娠していることに気づくが、父親が直哉だと確信できずにいた。その事実を打ち明けられた直哉は現実を受け入れようとするが、2人の関係はしだいにきしみ、やがて崩れていく。
木竜が脚本を読んだときに感じたのは「知っている人がいっぱい(脚本の中に)いる。こういう人たちを知っている」という感覚だ。「セリフが、最初から最後までずっと面白い。こういう会話をさせるんだ」と感心し、できあがった作品を見て「良さが一段と際立っている。(セリフに)匂いがする」と独特の言葉で表現した。
藤原は23歳で加藤に出会ってから、作・演出の舞台の常連だが「初の長編映画が恋愛なんだー」と思ったという。加藤はこれまでの作品でも「父親や母親という呼び名が付く人たちの〝一つ前〟をずっと描いている」と説明する。
リハーサルにカメラも入れてしっかり時間をかける手法も加藤流で、現場に入ったら撮影は「一瞬で終わるほど」と2人は口をそろえる。アドリブはなし。「加藤さんは描きたいものを100%自分で決めているので、俳優に選択肢を与えることはほとんどない。現場で監督と話すことはわずか」と藤原が言えば、加藤演出は初めての木竜も「相手に集中するとか、役者本来のことをすれば帳尻が合う」と次第に慣れていった。
「この作品は、いつもとちがう」
優実から妊娠を告げられた直哉は、現実を理解したように取り繕うが本音は異なる。多くの女性は直哉の言葉や向き合い方に嫌悪感を募らせるだろう。
「自分たちの臆病さからあいまいな関係性を持続する、という人は多いかもしれない。ただ、役者としては女性から『何て男なのか』と大いに言われたい」と藤原は役柄に徹している。木竜も「分かることも分からないことも、どっちも面白い。100人見て100人面白いものより、10人は嫌い、という方が豊かだと思う」
藤原の役へのスタンスが個性的だ。「(役を)理解できないとテンションが上がるし、キャラクターとか十分に解釈できなくてもそのまま演じてしまう。演じながら少し理解する時もある」。不安はあるが「『分からないものは分からないままのほうがいい』というセリフが過去の加藤作品にあった。ある意味、理解しないまま現場に立つことを許容するようにしている。理解してもなお不安。フリをするのも怖いし、書かれてあることをまず言ってみる」と明快だ。
木竜の本作でのアプローチは「どうして今こういう流れになっているか、この脚本はそれがちゃんと落ちてくる」。2人は声をそろえるように語った。「この作品は、いつも(の作品)と違う」
あいまいな関係性が今っぽい
今の若者の多彩な面が矢継ぎ早に描かれているのも魅力の一つだ。藤原が解説してくれた。
「2人があいまいな関係に逃げ込んでしまうのは、あまり言いたくないが、今っぽい。他者への責任を恐れて、人と深く関わらない人は実際に多い。誰かと深く関わることは、本音で話したり傷つけ合ったりすること。でも、本音をぶちまける場所は、匿名のネットなどたくさんある。デモに行かなくても戦争反対の声はあげられるように。友人といても本音で話さなくていいし、意見のぶつかり合いも避けようとする」。恋愛もストレートに「僕とお付き合いしてください」と言わず、「あいまいに続けていくこともできる」。
優実と3人の女友達の関係性もそれに近い。「優実は話すことを1回のみこんでから言葉を発する。本音を言わずに話を合わせたほうが楽」と木竜も理解する。彼ら、彼女らの〝今っぽい〟距離感が垣間見える。「それでも連絡が来たらうれしいし、デートの約束にそわそわする」と木竜が口にすると、「だから、みんなメチャクチャさみしいんだと思う」と藤原が続ける。木竜もすかさず「その通り」と応じた。
優実と直哉は避妊についての会話もする。「コンドームをつける」とか「ピルを飲む」といった言葉も普通に出てくる。木竜が言う。「一瞬ドキッとするかもしれないが、そうした事実をちゃんと分かるように描いている」。脚本からは、大人になりきれない男女に対して、性についてきちんと向き合うべきだという主張が伝わってくる。
見る側、演じる側 双方に集中力
終盤の2人の演技は格闘技のような迫力だ。それでいて、別れる間際の駆け引きをする男女の会話が、リアリティーを持って、だらだらぐだぐだとスクリーンからあふれてくる。一連のやりとりは本作の白眉(はくび)だ。木竜は「カメラがあったことを覚えていない」と言い、藤原も「存在すら全く忘れていた。そんな状態になるのはめったにない」と語った。
「見る側も集中力がいる作品」と藤原が言えば、「演じる側の私も集中力が必要だった」と木竜。藤原は撮影を振り返って「青春ができる職業って最高です」と満足げに言い放った。ただ、今回は「役に入り込んでいいのは木竜さんで、僕は客観的にシーンを見ていることがあった。僕は入り込む役割ではない。意識的に半分は役に入り込んで、半分は冷静だった」。
木竜が反応する。「藤原さんは今まで共演したことのない(タイプの)役者さん。冷静さや距離感に、こっちが引いてしまうことがない。芝居の流れに乗っかっているのは、絶えず感じられる。初めて共演させてもらって体感した」。「ほめ言葉です」とにやり。
藤原が呼応する。「ラストの優実がご飯を食べているシーンとか、木竜さんは繊細さと強さを併せ持っている。優実が生きていこうとする姿がきっちり映っていた。これまでの作品もすごかったけど、今回さらにすごい。稀有(けう)な女優さんだ」
東京・新宿武蔵野館ほかで公開。
インタビュー:藤原季節と木竜麻生「1割が嫌う」かつてない恋愛映画 「わたし達はおとな」
「新たな恋愛映画」とは使い古された言葉だが、あえてそう言う。演劇界で今、最も注目を浴びている若手劇作家・演出家、加藤拓也のオリジナル脚本による長編映画監督デビュー作。生々しさと切迫感、リアリズムに徹した描写力に息をのむ。「菊とギロチン」の木竜麻生と「空白」の藤原季節と、若手実力派俳優2人が恋愛の危うさを体現。これまでの恋愛映画の限界をやすやすと超えた。
同せい中の大学生、妊娠が発覚して……
優実(木竜麻生)はデザインを学んでいる大学生。知人の演劇サークルのチラシ作りをきっかけに知り合った直哉(藤原季節)という恋人がいて、2人は半ば一緒に暮らしている。ある日、優実は自分が妊娠していることに気づくが、父親が直哉だと確信できずにいた。その事実を打ち明けられた直哉は現実を受け入れようとするが、2人の関係はしだいにきしみ、やがて崩れていく。
木竜が脚本を読んだときに感じたのは「知っている人がいっぱい(脚本の中に)いる。こういう人たちを知っている」という感覚だ。「セリフが、最初から最後までずっと面白い。こういう会話をさせるんだ」と感心し、できあがった作品を見て「良さが一段と際立っている。(セリフに)匂いがする」と独特の言葉で表現した。
藤原は23歳で加藤に出会ってから、作・演出の舞台の常連だが「初の長編映画が恋愛なんだー」と思ったという。加藤はこれまでの作品でも「父親や母親という呼び名が付く人たちの〝一つ前〟をずっと描いている」と説明する。
リハーサルにカメラも入れてしっかり時間をかける手法も加藤流で、現場に入ったら撮影は「一瞬で終わるほど」と2人は口をそろえる。アドリブはなし。「加藤さんは描きたいものを100%自分で決めているので、俳優に選択肢を与えることはほとんどない。現場で監督と話すことはわずか」と藤原が言えば、加藤演出は初めての木竜も「相手に集中するとか、役者本来のことをすれば帳尻が合う」と次第に慣れていった。
「この作品は、いつもとちがう」
優実から妊娠を告げられた直哉は、現実を理解したように取り繕うが本音は異なる。多くの女性は直哉の言葉や向き合い方に嫌悪感を募らせるだろう。
「自分たちの臆病さからあいまいな関係性を持続する、という人は多いかもしれない。ただ、役者としては女性から『何て男なのか』と大いに言われたい」と藤原は役柄に徹している。木竜も「分かることも分からないことも、どっちも面白い。100人見て100人面白いものより、10人は嫌い、という方が豊かだと思う」
藤原の役へのスタンスが個性的だ。「(役を)理解できないとテンションが上がるし、キャラクターとか十分に解釈できなくてもそのまま演じてしまう。演じながら少し理解する時もある」。不安はあるが「『分からないものは分からないままのほうがいい』というセリフが過去の加藤作品にあった。ある意味、理解しないまま現場に立つことを許容するようにしている。理解してもなお不安。フリをするのも怖いし、書かれてあることをまず言ってみる」と明快だ。
木竜の本作でのアプローチは「どうして今こういう流れになっているか、この脚本はそれがちゃんと落ちてくる」。2人は声をそろえるように語った。「この作品は、いつも(の作品)と違う」
あいまいな関係性が今っぽい
今の若者の多彩な面が矢継ぎ早に描かれているのも魅力の一つだ。藤原が解説してくれた。
「2人があいまいな関係に逃げ込んでしまうのは、あまり言いたくないが、今っぽい。他者への責任を恐れて、人と深く関わらない人は実際に多い。誰かと深く関わることは、本音で話したり傷つけ合ったりすること。でも、本音をぶちまける場所は、匿名のネットなどたくさんある。デモに行かなくても戦争反対の声はあげられるように。友人といても本音で話さなくていいし、意見のぶつかり合いも避けようとする」。恋愛もストレートに「僕とお付き合いしてください」と言わず、「あいまいに続けていくこともできる」。
優実と3人の女友達の関係性もそれに近い。「優実は話すことを1回のみこんでから言葉を発する。本音を言わずに話を合わせたほうが楽」と木竜も理解する。彼ら、彼女らの〝今っぽい〟距離感が垣間見える。「それでも連絡が来たらうれしいし、デートの約束にそわそわする」と木竜が口にすると、「だから、みんなメチャクチャさみしいんだと思う」と藤原が続ける。木竜もすかさず「その通り」と応じた。
優実と直哉は避妊についての会話もする。「コンドームをつける」とか「ピルを飲む」といった言葉も普通に出てくる。木竜が言う。「一瞬ドキッとするかもしれないが、そうした事実をちゃんと分かるように描いている」。脚本からは、大人になりきれない男女に対して、性についてきちんと向き合うべきだという主張が伝わってくる。
見る側、演じる側 双方に集中力
終盤の2人の演技は格闘技のような迫力だ。それでいて、別れる間際の駆け引きをする男女の会話が、リアリティーを持って、だらだらぐだぐだとスクリーンからあふれてくる。一連のやりとりは本作の白眉(はくび)だ。木竜は「カメラがあったことを覚えていない」と言い、藤原も「存在すら全く忘れていた。そんな状態になるのはめったにない」と語った。
「見る側も集中力がいる作品」と藤原が言えば、「演じる側の私も集中力が必要だった」と木竜。藤原は撮影を振り返って「青春ができる職業って最高です」と満足げに言い放った。ただ、今回は「役に入り込んでいいのは木竜さんで、僕は客観的にシーンを見ていることがあった。僕は入り込む役割ではない。意識的に半分は役に入り込んで、半分は冷静だった」。
木竜が反応する。「藤原さんは今まで共演したことのない(タイプの)役者さん。冷静さや距離感に、こっちが引いてしまうことがない。芝居の流れに乗っかっているのは、絶えず感じられる。初めて共演させてもらって体感した」。「ほめ言葉です」とにやり。
藤原が呼応する。「ラストの優実がご飯を食べているシーンとか、木竜さんは繊細さと強さを併せ持っている。優実が生きていこうとする姿がきっちり映っていた。これまでの作品もすごかったけど、今回さらにすごい。稀有(けう)な女優さんだ」
東京・新宿武蔵野館ほかで公開。
【わたし達はおとな】
木竜麻生×藤原季節対談
考える/考えないタイプの違う芝居論
――今作で共演してみて、お互いにどんな印象を持ちましたか?
藤原季節(以下、藤原):木竜さんと共演できるのは、映画好きの人ならみんな嬉しいと思います。僕もその一人で、今までの出演作はほとんど観ています。共演するにあたって、ある程度の到達点までは木竜さんとなら行けるだろうって気はしてたんですけど、それ以上に行けた気がします。
木竜麻生(以下、木竜):藤原さんが出ている作品を観ていて、どうしてこの人はこんな表情になって、そういう心の動き方をするんだろうってずっと思っていて。今回ご一緒していた時もそれはすごく思いましたが、相手の気持ちや行動をすごく受け取る度量がある方で、そういうことなのかなぁって。意志が強いですし、同じくらい柔らかさをすごく感じました。
――現場では演技について話し合ったりしましたか?
木竜:私は加藤さんとご一緒するのが初めてだったので、「難しい」とこぼしていました。
藤原:僕は加藤さんに任せておけば全部うまくいくことは分かっていたので、木竜さんが加藤さんを信頼できるような手助けをしていた感じですかね。二人とも人見知りだったから、二人の間のコミュニケーションを僕が取り持ったり。
木竜:(笑)。加藤さんが考えてくれているなと思ったのが、休憩している時にふらっと現れてくれることで。その時の会話を藤原さんが取り持ってくれたので、3人で話すタイミングはちゃんと現場中にとれていました。
藤原:でもあれは、加藤さんが会議が嫌いなだけだと思う。スタッフさんのところにいると会議が始まっちゃうから、僕らのところに逃げてきてる(笑)。
木竜:あ、逃げてきてたのか。じゃあそれが結果オーライになってたってことね(笑)。
――3人でのコミュニケーションが映画に何か良い影響を与えたなと思うことはありましたか?
木竜:撮影の2日目に、自分の中で変に殻に入りそうになって。その時に藤原さんから「一緒に頑張ろうね」と声をかけられて、自分は何を一人になろうとしてるんだって、すごくハッとしたんです。そこからは藤原さんに委ねて、ぶつかっていこうと思って。その延長でスタッフさん、他のキャストさん、加藤さんのことも信じてその場に立っていられたので、すごく意味がありました。
――藤原さんは加藤さんとは長くやられていると思うんですけど、この作品ではどんなやりとりをしましたか?
藤原:いつも通りなんですけど、僕も加藤さんも核心に迫る会話の内容を嫌うんです。加藤さんは人との距離感や恥じらいとか、伝えたいことを隠すのを好む人で。日常会話においてもそうで、この映画を良くしたいとか、こうすればもっと良くなるっていうことはあえて口にしないんです。だから僕らはいつもくだらない話ばかりしていますね。
――加藤さんが「木竜さんの気の遣い方が優実と重なった」と話されていたのですが、ご自身で演じていて、「ここわかる」と思ったことはありましたか?
木竜:思っていることや、モヤモヤしているものを優実ほど隠せるかは分からないですけど、何か言われたり、自分もちょっと言いたいことがあったり、腹が立っていたり、悲しかったり……そういうことを笑いながら返しちゃうのは、あるよなぁって思いました。ストレートに伝えることが難しいことってあるなって。
――藤原さんは直哉を演じていてどうでした?
藤原:全然分からなくて、楽しかったです。
――台本で読んでわからないところは聞いたりするんですか?
藤原:いや、聞かないですね。
――自分で考えて?
藤原:考えないですね。“分かんないことを分かんないまま言う”ことを楽しんでいます。直哉が考えていること全然分かんないなって思いながらセリフを言ったりしていると、たまに、なんか分かったりします。
――なるほど。木竜さんは分からないこととかを楽しんで?
木竜:うーん……。人を演じることの喜びって、それがどんな人であろうと、みんなあるはずだとは思っていて。その人物を多角的に、いろんな面から見ると、直哉も直哉できっと何かあるんだよなって思うんです。藤原さんが演じていた直哉を見て、彼が生きてきた中での切なさみたいなものを、私は勝手に想像しましたし、想像するのがすごく楽しくて。だから、想像とか空想とかそういう力で補えるものがあるといいなって思いながら演じていますかね。分からないまま「分からない」を言うのができないタイプなので、そこはもう、うーーってなりながらやります(笑)。
藤原:タイプがありますよね。
木竜:うん。だからすごいなぁと思います。
「自分が相手に投げた言葉でも傷ついていた」
――会話劇が魅力なシーンが多かったですが、特に自分が発したセリフで印象に残っているものはありますか?
藤原:伝えたいことって反復したりするじゃないですか。「それ本気で言ってる? それ、本気で言ってる?」っていう、この2回目の「本気で言ってる?」の時に、“本気でそれが聞きたいんだな”って自分の中で分かるというか。そういうことが台本の中に眠っていて、見つけた時はグッときました。
木竜:今回はとにかく隠すことを言われていたので、言葉に完全に重きを置くのではなく、言っていることの奥で何を持って生活をして、誰の言葉を聞いて、どれだけちゃんと背景を持てているかを考えるのが難しくて。自分の気持ちで素直にいると直哉の言葉がすごく刺さってしまうし、相手に言ったことなのに自分が傷ついたりとか、そういうことが特に後半にかけてはあったような気がします。
――相手の言葉で刺さったことはありますか?
木竜:ラストシーンは、相手が言っていることでも傷ついているし、自分が相手に投げたものでも傷ついていた気がします。直哉の「じゃ」に「はい」で返す感じは、感覚として忘れないですね。
藤原:直哉は相手を傷つけるための言葉を吐いている男なので、自分が傷つかないようにちゃんと言葉を選択できる人なんですよ。そういうズルいところがある。元カノのシーンでも、相手に言葉をまくしたてるんですけど、全部、自分は悪くない、自分は悪くないって。でも、ラストシーンでは、やっぱり少なからず傷ついていたんじゃないですかね。それでなんとかまくしたてようとして。
――直哉はよく「言い方が悪かったね」と言っていますが、誰かと関わる時の自分の言葉選びを考えたりしますか?
木竜:難しいことだなぁっていつも思いますね。インタビューでもそうですが、口に出した瞬間、本当に思っていたことから離れていく感覚がすごくあって。言った瞬間から、誰にも言わないで思っていたこととは違うものになって外に出ている感じがするんです。なるべく思っていることと近い状態で言語化したいなとは思いますけど。
藤原:もちろん考えますし、それに割いてきた時間は多いと思うんですけど、最近はいい加減さとか寛容さとか、その「容赦」みたいなものを他人や自分に対して求めるようになっていて。思ったことをなんでも口に出すのって本来良くないと思うんです。子供みたいだし。でもあえてそれをやって、相手を嫌な気持ちにさせたり、自分が嫌な気持ちになる状況に対して、寛容になってるというか。今は思ったことをなんでも口に出してみようって思っている時期です。
――なんでそういうことをやろうと思ったんですか?
藤原:その方が相手に対して、ひょっとしたら深くアクセスできるかもしれないと思って。どこかで長い付き合いになるかもしれない人とすれ違って、たった数言交わすだけで別れていくような儚い人生かもしれないんだったら、嫌われてでも言葉を相手に放ってみて、深いところでアクセスしてみようって、ちょっと思っているんですよね。
“もがいている人”への憧れ
――キラキラした恋愛映画もある一方で、本作のようなもがいているヒロインの恋愛作品も支持されていますが、その魅力をどう思いますか?
藤原:性別に限らずですけど、もがいている人は素敵ですよね。なんでなんですかね? 自分もその人を見て頑張ろうって思うし。
木竜:自分に対してかもしれないし、誰かに対してかもしれないんですけど、もがいている最中の夢中な感じって、例えそれがものすごくボロボロだったり、泥だらけだったりしても、なんかちょっと透明に感じます。そういうところへの優しさ、憧れみたいなものを感じるのかもしれないです。
藤原:憧れ、あるな。
木竜:うん。まっさらっていう感じにどうしても憧れるなぁって思います。
――最後に劇中のお二人の好きなシーンを教えてください。
藤原:ラストですね。
木竜:ラストから、主題歌がかかるところは、本当にすごくいいです。
藤原:あの長回しはマジで必見。
――そのシーンの撮影にはどういう気持ちで臨みました?
藤原:もう、最強のマインドセット。100%入るスリーポイントシュートを打つみたいな感じですね。100%なんて入らないじゃないですか、絶対。だけど、100%入るって信じ込むんですよ。その感じです。
木竜:あははは(笑)。
終わっていく物語と続いていく物語
――撮影順的にも最後に撮られたんですか?
藤原:僕はもうそのワンカットに全てを懸けていたので。優実が行くところまで運ばれる最後のラストチャンス、無事に運ばれてくださったんで。僕の仕事はもうその時点で終了でした(笑)。
木竜:そのラストをやって、本当のラストに直哉が鍵を渡して出て行く。あのラストがないと私、その後のシーンってできなかったと思います。
藤原:母だから続いていくんですよね。お腹に子どもがいるから、あそこで物語は終わらない。僕とはちょっと違うよね。
――去っていくだけですよね。
藤原:そうです。あそこで僕の中での物語は終えられるんです。
木竜:(笑)。私はそれから加藤さんとちょっとだけ話をしました。「どういう気持ちなんかなー」っていうこと言われて、ポツポツポツーって言ったら、じーって見られて、「いこうかぁ」って言われて。同じラストシーンでも、藤原さんとは違う感覚だったかもしれないです。
藤原:全然違うかも。あのワンカット撮り終わって全て消化しきってたから、もう情感ゼロ。
木竜:(笑)。いや、ゼロとは言わないでほしいよね。どういう気持ちで鍵渡すかとかあるじゃん。
藤原:あ、ないないないない。無。
木竜:あってくれよ。無なんですか。
藤原:「あ、鍵を渡さなきゃ複雑だな」とかないの。その流れで行く時間に身を任せるって言うか。鍵を渡さなきゃいけない状況になっちゃったから渡すだけ、という。それが僕にとっての直哉でした。
木竜:なるほどね。
――エンドロールにかけての最後の最後のラストシーンを経て、木竜さんはどんなことを思いましたか?
木竜:最後、優実がご飯を作って食べるところに、彼女が自分の日常を取り戻そうとしているなと私は思いました。生きていくこと、暮らしていくことを、なんとか取り直そうというタフな強さというか。これからの自分の人生の中でも、このまま朝なんか来ないんじゃないかと思うような夜もあるでしょうし、何もしたくない気持ちになったり、誰とも会いたくない気持ちになったり……。反対に、無性に誰かと話したくなったり……。そういう自分が誰かに与える影響も、自分が誰かに与えられる影響も、ちゃんと余すことなく自分が飲み込んでやる、とは思っています。全部私が味わって、ちょっとずつ生きていければいいかなと思いました。
■公開情報
『わたし達はおとな』
新宿武蔵野館ほかにて全国公開中
出演:木竜麻生、藤原季節、菅野莉央、清水くるみ、森田想、桜田通、山崎紘菜、片岡礼子、石田ひかり、佐戸井けん太、鈴木勝大、山脇辰哉、上村侑、中山求一郎、諫早幸作、伊藤風喜、鳥谷 宏之、平原テツ
監督・脚本:加藤拓也
音楽:谷川正憲
製作:狩野隆也、松岡雄浩、宇田川寧
エグゼクティブプロデューサー:服部保彦
プロデューサー:松岡達矢 柴原祐一
製作幹事:メ~テレ
配給:ラビットハウス
製作プロダクション:ダブ
(c)2022「わたし達はおとな」製作委員会
公式サイト:https://t.cn/A6M7UJcX
木竜麻生×藤原季節対談
考える/考えないタイプの違う芝居論
――今作で共演してみて、お互いにどんな印象を持ちましたか?
藤原季節(以下、藤原):木竜さんと共演できるのは、映画好きの人ならみんな嬉しいと思います。僕もその一人で、今までの出演作はほとんど観ています。共演するにあたって、ある程度の到達点までは木竜さんとなら行けるだろうって気はしてたんですけど、それ以上に行けた気がします。
木竜麻生(以下、木竜):藤原さんが出ている作品を観ていて、どうしてこの人はこんな表情になって、そういう心の動き方をするんだろうってずっと思っていて。今回ご一緒していた時もそれはすごく思いましたが、相手の気持ちや行動をすごく受け取る度量がある方で、そういうことなのかなぁって。意志が強いですし、同じくらい柔らかさをすごく感じました。
――現場では演技について話し合ったりしましたか?
木竜:私は加藤さんとご一緒するのが初めてだったので、「難しい」とこぼしていました。
藤原:僕は加藤さんに任せておけば全部うまくいくことは分かっていたので、木竜さんが加藤さんを信頼できるような手助けをしていた感じですかね。二人とも人見知りだったから、二人の間のコミュニケーションを僕が取り持ったり。
木竜:(笑)。加藤さんが考えてくれているなと思ったのが、休憩している時にふらっと現れてくれることで。その時の会話を藤原さんが取り持ってくれたので、3人で話すタイミングはちゃんと現場中にとれていました。
藤原:でもあれは、加藤さんが会議が嫌いなだけだと思う。スタッフさんのところにいると会議が始まっちゃうから、僕らのところに逃げてきてる(笑)。
木竜:あ、逃げてきてたのか。じゃあそれが結果オーライになってたってことね(笑)。
――3人でのコミュニケーションが映画に何か良い影響を与えたなと思うことはありましたか?
木竜:撮影の2日目に、自分の中で変に殻に入りそうになって。その時に藤原さんから「一緒に頑張ろうね」と声をかけられて、自分は何を一人になろうとしてるんだって、すごくハッとしたんです。そこからは藤原さんに委ねて、ぶつかっていこうと思って。その延長でスタッフさん、他のキャストさん、加藤さんのことも信じてその場に立っていられたので、すごく意味がありました。
――藤原さんは加藤さんとは長くやられていると思うんですけど、この作品ではどんなやりとりをしましたか?
藤原:いつも通りなんですけど、僕も加藤さんも核心に迫る会話の内容を嫌うんです。加藤さんは人との距離感や恥じらいとか、伝えたいことを隠すのを好む人で。日常会話においてもそうで、この映画を良くしたいとか、こうすればもっと良くなるっていうことはあえて口にしないんです。だから僕らはいつもくだらない話ばかりしていますね。
――加藤さんが「木竜さんの気の遣い方が優実と重なった」と話されていたのですが、ご自身で演じていて、「ここわかる」と思ったことはありましたか?
木竜:思っていることや、モヤモヤしているものを優実ほど隠せるかは分からないですけど、何か言われたり、自分もちょっと言いたいことがあったり、腹が立っていたり、悲しかったり……そういうことを笑いながら返しちゃうのは、あるよなぁって思いました。ストレートに伝えることが難しいことってあるなって。
――藤原さんは直哉を演じていてどうでした?
藤原:全然分からなくて、楽しかったです。
――台本で読んでわからないところは聞いたりするんですか?
藤原:いや、聞かないですね。
――自分で考えて?
藤原:考えないですね。“分かんないことを分かんないまま言う”ことを楽しんでいます。直哉が考えていること全然分かんないなって思いながらセリフを言ったりしていると、たまに、なんか分かったりします。
――なるほど。木竜さんは分からないこととかを楽しんで?
木竜:うーん……。人を演じることの喜びって、それがどんな人であろうと、みんなあるはずだとは思っていて。その人物を多角的に、いろんな面から見ると、直哉も直哉できっと何かあるんだよなって思うんです。藤原さんが演じていた直哉を見て、彼が生きてきた中での切なさみたいなものを、私は勝手に想像しましたし、想像するのがすごく楽しくて。だから、想像とか空想とかそういう力で補えるものがあるといいなって思いながら演じていますかね。分からないまま「分からない」を言うのができないタイプなので、そこはもう、うーーってなりながらやります(笑)。
藤原:タイプがありますよね。
木竜:うん。だからすごいなぁと思います。
「自分が相手に投げた言葉でも傷ついていた」
――会話劇が魅力なシーンが多かったですが、特に自分が発したセリフで印象に残っているものはありますか?
藤原:伝えたいことって反復したりするじゃないですか。「それ本気で言ってる? それ、本気で言ってる?」っていう、この2回目の「本気で言ってる?」の時に、“本気でそれが聞きたいんだな”って自分の中で分かるというか。そういうことが台本の中に眠っていて、見つけた時はグッときました。
木竜:今回はとにかく隠すことを言われていたので、言葉に完全に重きを置くのではなく、言っていることの奥で何を持って生活をして、誰の言葉を聞いて、どれだけちゃんと背景を持てているかを考えるのが難しくて。自分の気持ちで素直にいると直哉の言葉がすごく刺さってしまうし、相手に言ったことなのに自分が傷ついたりとか、そういうことが特に後半にかけてはあったような気がします。
――相手の言葉で刺さったことはありますか?
木竜:ラストシーンは、相手が言っていることでも傷ついているし、自分が相手に投げたものでも傷ついていた気がします。直哉の「じゃ」に「はい」で返す感じは、感覚として忘れないですね。
藤原:直哉は相手を傷つけるための言葉を吐いている男なので、自分が傷つかないようにちゃんと言葉を選択できる人なんですよ。そういうズルいところがある。元カノのシーンでも、相手に言葉をまくしたてるんですけど、全部、自分は悪くない、自分は悪くないって。でも、ラストシーンでは、やっぱり少なからず傷ついていたんじゃないですかね。それでなんとかまくしたてようとして。
――直哉はよく「言い方が悪かったね」と言っていますが、誰かと関わる時の自分の言葉選びを考えたりしますか?
木竜:難しいことだなぁっていつも思いますね。インタビューでもそうですが、口に出した瞬間、本当に思っていたことから離れていく感覚がすごくあって。言った瞬間から、誰にも言わないで思っていたこととは違うものになって外に出ている感じがするんです。なるべく思っていることと近い状態で言語化したいなとは思いますけど。
藤原:もちろん考えますし、それに割いてきた時間は多いと思うんですけど、最近はいい加減さとか寛容さとか、その「容赦」みたいなものを他人や自分に対して求めるようになっていて。思ったことをなんでも口に出すのって本来良くないと思うんです。子供みたいだし。でもあえてそれをやって、相手を嫌な気持ちにさせたり、自分が嫌な気持ちになる状況に対して、寛容になってるというか。今は思ったことをなんでも口に出してみようって思っている時期です。
――なんでそういうことをやろうと思ったんですか?
藤原:その方が相手に対して、ひょっとしたら深くアクセスできるかもしれないと思って。どこかで長い付き合いになるかもしれない人とすれ違って、たった数言交わすだけで別れていくような儚い人生かもしれないんだったら、嫌われてでも言葉を相手に放ってみて、深いところでアクセスしてみようって、ちょっと思っているんですよね。
“もがいている人”への憧れ
――キラキラした恋愛映画もある一方で、本作のようなもがいているヒロインの恋愛作品も支持されていますが、その魅力をどう思いますか?
藤原:性別に限らずですけど、もがいている人は素敵ですよね。なんでなんですかね? 自分もその人を見て頑張ろうって思うし。
木竜:自分に対してかもしれないし、誰かに対してかもしれないんですけど、もがいている最中の夢中な感じって、例えそれがものすごくボロボロだったり、泥だらけだったりしても、なんかちょっと透明に感じます。そういうところへの優しさ、憧れみたいなものを感じるのかもしれないです。
藤原:憧れ、あるな。
木竜:うん。まっさらっていう感じにどうしても憧れるなぁって思います。
――最後に劇中のお二人の好きなシーンを教えてください。
藤原:ラストですね。
木竜:ラストから、主題歌がかかるところは、本当にすごくいいです。
藤原:あの長回しはマジで必見。
――そのシーンの撮影にはどういう気持ちで臨みました?
藤原:もう、最強のマインドセット。100%入るスリーポイントシュートを打つみたいな感じですね。100%なんて入らないじゃないですか、絶対。だけど、100%入るって信じ込むんですよ。その感じです。
木竜:あははは(笑)。
終わっていく物語と続いていく物語
――撮影順的にも最後に撮られたんですか?
藤原:僕はもうそのワンカットに全てを懸けていたので。優実が行くところまで運ばれる最後のラストチャンス、無事に運ばれてくださったんで。僕の仕事はもうその時点で終了でした(笑)。
木竜:そのラストをやって、本当のラストに直哉が鍵を渡して出て行く。あのラストがないと私、その後のシーンってできなかったと思います。
藤原:母だから続いていくんですよね。お腹に子どもがいるから、あそこで物語は終わらない。僕とはちょっと違うよね。
――去っていくだけですよね。
藤原:そうです。あそこで僕の中での物語は終えられるんです。
木竜:(笑)。私はそれから加藤さんとちょっとだけ話をしました。「どういう気持ちなんかなー」っていうこと言われて、ポツポツポツーって言ったら、じーって見られて、「いこうかぁ」って言われて。同じラストシーンでも、藤原さんとは違う感覚だったかもしれないです。
藤原:全然違うかも。あのワンカット撮り終わって全て消化しきってたから、もう情感ゼロ。
木竜:(笑)。いや、ゼロとは言わないでほしいよね。どういう気持ちで鍵渡すかとかあるじゃん。
藤原:あ、ないないないない。無。
木竜:あってくれよ。無なんですか。
藤原:「あ、鍵を渡さなきゃ複雑だな」とかないの。その流れで行く時間に身を任せるって言うか。鍵を渡さなきゃいけない状況になっちゃったから渡すだけ、という。それが僕にとっての直哉でした。
木竜:なるほどね。
――エンドロールにかけての最後の最後のラストシーンを経て、木竜さんはどんなことを思いましたか?
木竜:最後、優実がご飯を作って食べるところに、彼女が自分の日常を取り戻そうとしているなと私は思いました。生きていくこと、暮らしていくことを、なんとか取り直そうというタフな強さというか。これからの自分の人生の中でも、このまま朝なんか来ないんじゃないかと思うような夜もあるでしょうし、何もしたくない気持ちになったり、誰とも会いたくない気持ちになったり……。反対に、無性に誰かと話したくなったり……。そういう自分が誰かに与える影響も、自分が誰かに与えられる影響も、ちゃんと余すことなく自分が飲み込んでやる、とは思っています。全部私が味わって、ちょっとずつ生きていければいいかなと思いました。
■公開情報
『わたし達はおとな』
新宿武蔵野館ほかにて全国公開中
出演:木竜麻生、藤原季節、菅野莉央、清水くるみ、森田想、桜田通、山崎紘菜、片岡礼子、石田ひかり、佐戸井けん太、鈴木勝大、山脇辰哉、上村侑、中山求一郎、諫早幸作、伊藤風喜、鳥谷 宏之、平原テツ
監督・脚本:加藤拓也
音楽:谷川正憲
製作:狩野隆也、松岡雄浩、宇田川寧
エグゼクティブプロデューサー:服部保彦
プロデューサー:松岡達矢 柴原祐一
製作幹事:メ~テレ
配給:ラビットハウス
製作プロダクション:ダブ
(c)2022「わたし達はおとな」製作委員会
公式サイト:https://t.cn/A6M7UJcX
2022.06.17 モエカレ官推更新
モエカレ宣伝日誌
本日はTVスポットの編集をしてました!いよいよ公開が近づいてきた感じがしていて、かなりドキドキしておりますいくつかパターンがあるのですが、胸キュンあり、サービスカットあり!ですので皆さんどうぞお楽しみに〜
#モエカレはオレンジ色##今年の夏は皆でモエカレ##岩本照#
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