インタビュー 2023/6/11 8:30
作家・凪良ゆうが『怪物』に見出した、“子どもたちの選択"への解釈。「私たちはあの子たちに追いつかないと」
是枝裕和監督と脚本家の坂元裕二が初タッグを組み、音楽を坂本龍一が手掛けた『怪物』(公開中)。第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞と独立部門のクィア・パルム賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得ている本作は、よくある子ども同士のケンカを巡り、母親、教師、そして子どもたちの意見が食い違い、次第にメディアを巻き込む大事に発展していく様を描いたヒューマンドラマだ。
MOVIE WALKER PRESSでは、かねてより是枝監督と坂元のファンである作家の凪良ゆうにインタビューを敢行。インタビュー前編では『怪物』を観た感想や是枝監督と坂元の共作について語ってくれたが、後編では、自身の作品群との共通点や、凪良が『怪物』で感じたメッセージや解釈などをお届けする。

※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

「“怪物的”な多面性を書く意志が、坂元さんにあったのでしょうか」

『ドライブ・マイ・カー』(21)に続き、日本映画では2年ぶりとなった脚本賞を受賞した本作。是枝監督は「今回は自分の作品だからというよりも、物語がおもしろい、自分には書けない本でしたし、ストーリーテリングというものがとても無駄がなくて、とても面白かった」とインタビューに応えており、坂元の圧倒的な筆力が世界的にも評価されたことに喜びを噛み締めていた。坂元の丁寧に積み重ねられた描写から立ち上がってくる、生きづらさや怒りを抱えた不安定な登場人物たち。そのキャラクター描写の振り幅の広さは、「筆力がないとまとめきることができない」と凪良は語る。
「たとえば、田中裕子さんが演じる校長先生。スーパーで騒がしい子どもに足を引っ掛けたり、自分の保身のために動いたりするのに、同時に、子どもたちのために幸せを語ったりもする。確かに人間という生き物は多面的で、一人の人間が善悪どちらも持ち合わせていると、現実では理解できます。ですが、物語のなかで“複雑さ”を描くことは難しいんです。小説だったら、担当編集者さんに『人物像がブレています』って赤字を入れられかねない(笑)物語をうまく料理する自信がないと書ききれないと思いますし、タイトルにもつながってくる“怪物的”な多面性を書く意志が、坂元さんにあったのでしょうか」と、坂元の脚本力を称えた。
第20回本屋大賞を受賞した、凪良の小説「汝、星のごとく」。男女の恋愛物語というベーシックな設定ながら、緻密に重ねられた描写で世界に没入させてくれる本作でも、その筆力に圧倒される場面が多々ある。本作の執筆中の凪良に、迷えるときの「ひとつの方向性」を示してくれたのは、坂元が脚本を手掛けた映画『花束みたいな恋をした』(21)だったという。
「『汝、星のごとく』はあらすじだけ取り出してしまえば、男女が出会って、別れて、時間が経っていくという、なんの変哲もない恋愛物語です。どうやったら読者の皆さんに楽しく読んでいただけるか模索していた時、私はどんでん返しやミステリー的な仕掛けを入れるなど、奇をてらおうとしてしまっていました。ですが、当時たまたま『花束みたいな恋をした』を観て、真正面から『恋愛』を捉えながらも、こんなにも分厚い物語が描けるんだと衝撃を受けました。“仕掛け”を入れなくても、一つ一つのセリフやシーンを丁寧に積み上げていくことで、物語はこんなにもおもしろくなる」と、当時を振り返る。

「複数視点で物語を書くことは、ミステリーを書いているのと近い感覚」
そうして生まれた『汝、星のごとく』や凪良の過去作と『怪物』は、たくさんの共通点が垣間見える。その一つが、複数視点で物語が描かれていること。視点がスイッチする物語を書くおもしろさを、凪良は「人の心こそがミステリーだから」と説明する。
「人間は、誰しも自分の見たいようにしか世界を見られない生き物なので、同じものを見ても自分と相手の捉え方がまったく違っていることはよくありますよね。そのわけのわからなさ、理解できなさという意味で、私は人の心が一番ミステリアスな存在だと感じています。なので、複数視点で物語を書くことは、私からするとミステリーを書いているのと感覚的に近いんです。書き進めながら、人の心に潜む謎を解いていく喜び、楽しさのようなものを感じます」。
自分自身が世界を恣意的に見ていると気づかされた時、ある種ホラーのような恐怖を感じるが、書き手としては「読み手の思惑を裏切る喜びは、作り手にある気がします。それは騙したいわけではなく、もっともっと、奥深いところに読者を引き込んでいきたい、という欲望なのかもしれません」と語る。そうした欲望は、『怪物』の作り手たちにも重ねられそうだ。
「事実と真実が違うことは世の中にありふれている」
もう一つの共通点が、ある事件に対して渦中の人物の真実が知られることなくバッシングが起こってしまうという状況。凪良は「流浪の月」で、加害者と被害者が再会し、特別な絆を結んでいく様を書き、本作ではその渦中に立たされる保利先生(永山瑛太)を思う。
「最初は、とても許せない先生だと思わされます。ですが、視点が変わると彼の表情も違って見えてきました。無気力で、死んだ魚のような目にも、その表情になってしまうだけの理由がある。(永山本人は)あえて演じ分けていないというお話を伺って、世界はこんなにも個人のフィルターがかけられてしまっているんだと、自分自身の世界の見方に心が痛みました。かといって、彼が完璧な善人であり、すべての行動が認められるということでもない。作中で描かれたような何気ないひと言が、誰かを傷つけてしまう経験は誰しもあり、場合によっては大きなバッシングにつながっていきます。『自分はなにが悪かったのか』を丁寧に振り返っても拾いきれないけれど、加害してしまう可能性があることを認識しておくことは大切。事実と真実が違うことは世の中にありふれていることなのだとも改めて思いました」。
世の中は善人と悪人に二分されない、誰しもが加害者になりうる可能性があり、そうした「無自覚の悪意」というテーマは凪良の作品群からも受け取れる。「私は、登場人物の誰かに肩入れをしない、それぞれの立場でフェアに書くということを、とても意識しています。『汝、星のごとく』には、誰から見ても正しい人も悪人も出てきません。世間一般のものさしではなくて、自分の正しさを守って生きているんですよね。
たとえ、社会の正しさのレールから外れていても、自分をまっとうする。これだけ価値観が多様な時代に、なにか一つの基準に押し込めることは難しいので、結局自分なりの真意を持って、各々の意見を受け止めて、すり合わせて生きていくしかないと個人的にも思うからです。ですが、時として意図せずとも人を傷つけてしまうことがある。そうなった時に覚悟を持って挑むのか、引き下がるのか、どちらも正解で間違いかもしれない。結局、選ぶのは自分ですよね。この映画のなかでも、“それぞれの人生でしか生きられない”ということを痛烈に描いていたと思います」。

「私たちはあの子たちに追いつかないと駄目ですね」
そうした意味で、子どもたちの選択を描いた「光に向かって走り出すシーン」は様々な解釈を生むのではないかと凪良は話す。「あまりにも美しい映像で、これまで歩いてきた世界と彼らの世界がもう“別物”になったんだなと思ったんです。その時『流浪の月』で、変わらない世界を見捨てて自由に生きる2人を書いたことを強烈に思い出しました。絶望感というか、私たちはあの子たちに置いてけぼりにされちゃったんだな、と思って」と持論を述べる。
この解釈については、インタビューに同席していた編集部員を交えて様々な議論に及んだ。そこから生まれたのは、「どんな状況でも、自分が思うままに生きていくことへの祝福」という視点だ。これだけ生きづらい世の中でも、世界は変われるのか。そのために大切な“自分の正しさを守っていく”ことは、子どもにも必要なはずだ。凪良は、「私たちはあの子たちに追いつかないと駄目ですね」と、柔らかな表情を浮かべていた。
それぞれの人生でしか生きられないけれど、人は人と関わることを避けられない。凪良の作品群に共通する「人と人はそもそもわかり合えない、だけどわかり合える奇跡のような瞬間がある」というテーマと本作の根底に流れるメッセージが重なる。「わかり合えたとしても、次の瞬間にすれ違いが訪れる。儚いけれど、関係をつむぐことを目指していくと、映画にもあったような希望が訪れる。一方で、コミュニケーションが取れていない親子の間には“怪物”がいましたよね。やっぱり感覚のアップデートというのはとても大切で、意見をふさぎこむディスコミュニケーションは怪物を生む背景になりうるのかもしれないと考えさせられました」。

取材・文/羽佐田瑶子
凪良老师采访后篇https://t.cn/A6p6KmAv

「正しくなくたっていいじゃないか」世間的な「正しさ」と距離を置く凪良ゆうの作品の魅力[文芸書ベストセラー]
6月6日トーハンの週間ベストセラーが発表され、文芸書第1位は『汝、星のごとく』が獲得した。
 第2位は『くもをさがす』。第3位は『街とその不確かな壁』となった。

 1位は先週と変わらず、凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』。4月12日に発表された「2023年本屋大賞」で大賞を受賞した作品。瀬戸内の島で高校生のときに出会った男女の恋愛模様を描く。それぞれの道を歩く二人は様々な困難と向き合いながら成長し、躓きながらも自らの愛を信じ、世間の正しさとは違う生き方を選択する。

 凪良さんは担当編集者との対談で、《一度、真剣にリアルな恋愛小説を書いてみたいと思っていました》と意気込むも《できあがってみるとそのジャンルに規定されるものではなくなったな、と自分でも思います。瀬戸内の島に育ったなんの取り柄もない女の子が自立した強さを身につけていく、その生き様を描いた物語にもなりました》と解説。凪良さんは自身の描く登場人物たちは《世間的な正しさにのっとって行動しない人が多い》と分析し、《もしかしたら私自身、正しくなくたっていいじゃないかと、どこかで思っているからかもしれませんが……。どうしてもそうせざるをえない状況や、どうしてもそうしたいと思えることがあるなら、自分で決断して行動すればいい、と思います。》と帯にもとりあげられた一文「わたしは愛する男のために人生を誤りたい」に込めた思いを語っている。
1位『汝、星のごとく』凪良ゆう[著](講談社)

その愛は、あまりにも切ない。正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。(講談社ウェブサイトより抜粋)汝、星のごとく』が獲得した。
 第2位は『くもをさがす』。第3位は『街とその不確かな壁』となった。
1位は先週と変わらず、凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』。4月12日に発表された「2023年本屋大賞」で大賞を受賞した作品。瀬戸内の島で高校生のときに出会った男女の恋愛模様を描く。それぞれの道を歩く二人は様々な困難と向き合いながら成長し、躓きながらも自らの愛を信じ、世間の正しさとは違う生き方を選択する。

 凪良さんは担当編集者との対談で、《一度、真剣にリアルな恋愛小説を書いてみたいと思っていました》と意気込むも《できあがってみるとそのジャンルに規定されるものではなくなったな、と自分でも思います。瀬戸内の島に育ったなんの取り柄もない女の子が自立した強さを身につけていく、その生き様を描いた物語にもなりました》と解説。凪良さんは自身の描く登場人物たちは《世間的な正しさにのっとって行動しない人が多い》と分析し、《もしかしたら私自身、正しくなくたっていいじゃないかと、どこかで思っているからかもしれませんが……。どうしてもそうせざるをえない状況や、どうしてもそうしたいと思えることがあるなら、自分で決断して行動すればいい、と思います。》と帯にもとりあげられた一文「わたしは愛する男のために人生を誤りたい」に込めた思いを語っている。
1位『汝、星のごとく』凪良ゆう[著](講談社) その愛は、あまりにも切ない。正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。(講談社ウェブサイトより抜粋)
2位『くもをさがす』西加奈子[著](河出書房新社) カナダで、がんになった。「私は弱い。徹底的に弱い」。でもーーあなたに、これを読んでほしいと思った。祈りと決意に満ちた著者初のノンフィクション。(河出書房新社ウェブサイトより)
3位『街とその不確かな壁』村上春樹[著](新潮社) 十七歳と十六歳の夏の夕暮れ……川面を風が静かに吹き抜けていく。彼女の細い指は、私の指に何かをこっそり語りかける。何か大事な、言葉にはできないことを――高い壁と望楼、図書館の暗闇、古い夢、そしてきみの面影。自分の居場所はいったいどこにあるのだろう。村上春樹が長く封印してきた「物語」の扉が、いま開かれる。(新潮社ウェブサイトより) 4位『物語の種』有川ひろ[著](幻冬舎) 5位『ヨモツイクサ』知念実希人[著](双葉社) 6位『コメンテーター』奥田英朗[著](文藝春秋)

7位『戦物語』西尾維新[著](講談社) 8位『バスタード・ソードマン』ジェームズ・リッチマン[著](KADOKAWA) 9位『失格から始める成り上がり魔導師道! ~呪文開発ときどき戦記~ 6』樋辻臥命[小説](マイクロマガジン社) 10位『地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。 ~ざまぁ?  没落?  私には関係ないことです~』鏑木うりこ[著](アルファポリス) 〈文芸書ランキング 6月6日トーハン調べ〉 Book Bang編集部 2023年6月10日 掲載街とその不確かな壁』村上春樹[著](新潮社) 十七歳と十六歳の夏の夕暮れ……川面を風が静かに吹き抜けていく。彼女の細い指は、私の指に何かをこっそり語りかける。何か大事な、言葉にはできないことを――高い壁と望楼、図書館の暗闇、古い夢、そしてきみの面影。自分の居場所はいったいどこにあるのだろう。村上春樹が長く封印してきた「物語」の扉が、いま開かれる。(新潮社ウェブサイトより) 4位『物語の種』有川ひろ[著](幻冬舎) 5位『ヨモツイクサ』知念実希人[著](双葉社) 6位『コメンテーター』奥田英朗[著](文藝春秋) 7位『戦物語』西尾維新[著](講談社) 8位『バスタード・ソードマン』ジェームズ・リッチマン[著](KADOKAWA) 9位『失格から始める成り上がり魔導師道! ~呪文開発ときどき戦記~ 6』樋辻臥命[小説](マイクロマガジン社) 10位『地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。 ~ざまぁ?  没落?  私には関係ないことです~』鏑木うりこ[著](アルファポリス) 〈文芸書ランキング 6月6日トーハン調べ〉 Book Bang編集部 2023年6月10日 掲載

https://t.cn/A6p6or79

「20代は死ぬほど悩んだ」。2度の本屋大賞作家・凪良ゆうに聞く“自分を生きる”ための方法
作家
キャリア
横山耕太郎 and 土屋咲花 [編集部]
May. 30, 2023, 08:10 AM

2度の本屋大賞を受賞した大人気作家・凪良ゆう。BL作家としてデビューしてから15年周年を迎えた凪良さんにインタビューした。

撮影:伊藤圭
もちろんお金で買えないものはある。でもお金があるから自由でいられることもある。たとえば誰かに依存しなくていい。いやいや誰かに従わなくていい。それはすごく大事なことだと思う。
作家・凪良ゆうさんの2度目の本屋大賞を受賞した『汝、星のごとく』には、この言葉が一度ではなく、繰り返し登場する。

主人公・暁海(あきみ)の母は専業主婦だが、夫の不倫が原因で精神を病む。そんな母の姿を見てきた暁海は、なんとか経済的な自立をつかみ取ろうともがく──。

同作は男女の恋愛を描いた小説だが、同時に女性のキャリアを描いた作品としても読むことができる。

凪良さん自身、アルバイトを転々とし、専業主婦だった時期もある。凪良さんは2007年、男性同士の恋愛を描いたBL(ボーズイズラブ)作家としてデビューを果たし、2017年には一般小説を発売し、一躍ベストセラー作家に駆け上がった異色のキャリアを持つ作家

そんな凪良さんに「女性のキャリア」について聞いた。(聞き手:横山耕太郎、土屋咲花 撮影:伊藤圭)
「キャリアは積めるだけ積んでおけ」
「自分の稼ぎを持っていた方がいい」と凪良さんは言う。

撮影:伊藤圭

──『汝、星のごとく』では、男性と同じ仕事をしていても、女性という理由で昇給できない苦しさも書かれています。賃金格差などジェンダーギャップが未だに大きい日本ですが、「女性のキャリア」の重要性についてどう考えていますか?
「キャリアは積めるだけ積んでおけ」と思っています。

『汝、星のごとく』でも何回も書きましたが、自分で自分を食べさせていけるというのは、自由に生きるための最低限の武器です。

素敵な仕事、儲けられる仕事を目指した方がいいということではなく、例えば離婚したくなった時に、自分が経済的に苦しいと、意に沿わない結婚生活を続けることになってしまいます。

自分は貧乏でもいいけど、子供にはちゃんとした教育を受けさせたいから離婚できない……という話もあふれています。

結婚していてもしていなくても、最低限でもいいから自分の稼ぎを持っておいた方がいいと思っています。

誤解してほしくないのですが、専業主婦が悪いと言いたい訳ではありません。私自身も専業主婦を経験しています。

これまでの小説で共通して書いてきたのは「別に誰かと比較しなくていい。みんな自分の人生を生きていくべき」

『汝、星のごとく』の主人公・暁海は、「自分らしく生きたい」と思いながらも、ずっと失敗ばかり繰り返します。それでも最後には、暁海なりの人生にたどり着くことができた。
キャリアについても、自分らしく生きられる方法を考え続けるしかないと思っています。

10代から自立「想像以上に大変だった」
本屋大賞『汝、星のごとく』では、ヤングケアラーの厳しい現実も描かれている。

撮影:伊藤圭

──経済的な自立が必要だと感じたきっかけはありますか?

私は小学5年生の時から親とは別れて養護施設で育ちました。その環境もあって、自分1人で生きていかなくちゃいけないと思うのも早かった。

とにかく施設から早く出たいといういう思いがあったのですが、実際に施設を出たら、本当に1人で生きていくしかありません。
10代の頃から自立して生活していくのは、想像以上に大変なことです。親はむしろ「借金返すのを手伝ってほしい」という人だったので、親からの援助も望めない状況でした。

ですから「専業主婦から作家デビューした」と紹介されることもあるのですが、少し違和感もあります。

10代の頃から1人で自活してきたので、専業主婦だった期間は、私の人生の中ではほんの数年間だけなんですよね。
でも同時に、「作家になれたのは、専業主婦をやらせてもらえる恵まれた環境だっただからでしょ」と言われると、それも間違いではありません。目の前の仕事や生活ばかりに追われる毎日だったら、作家としてデビューするのは難しかったかもしれません。

先日、川上未映子さん(※)の小説『黄色い家』を読んだ時、主人公の花にすごく共感しました。「ああ、この子は小説を書いてない私だな」と。
傲慢に聞こえるかもしれないですが、私は小説を書かなかったら、何の生きる手立てもないまま、経済的にも苦しい人生を送った一人だったでしょう。

こういう形で作家として注目していただけたのは幸運でしたし、小説という媒体に人生を救われたとも感じています。

※川上未映子…芥川賞作家。海外でも高く評価され『夏物語』は世界40ヵ国以上で刊行が予定されている。最新作『黄色い家』(2023年2月発売)では日本における貧困の連鎖などがテーマになっている。
「いい意味で、人を利用しても構わない」
『汝、星のごとく』には「力のある人を味方にしている、ってことも力のひとつ。(中略)手段のクリーンさは次世代に任しちゃえば?」という言葉も出てくる。

撮影:伊藤圭

──『汝、星のごとく』に登場する経済的に自立した女性・瞳子が発する「使えるものならなんでも使えばいいじゃない」などの言葉が印象的でした。
真面目な女性には難しいかもしれませんが、私は自分が1人で食べていけるようになるためだったら、いい意味で、人を利用しても構わないと思っています。

恵まれた家庭で育って、学歴を積んで、真っ当なルートで稼ぎを得られるのであれば、もちろんそれがいいと思います。

ただ、小説で書いたようなヤングケアラーなど、環境的に恵まれない人が稼ぎを得て最終的に自立するために、他人の力を素直に頼ったり利用したりすることは何も悪いことではないし、それは生きていくための一つの手段だと思っています。制度を利用するのもいいし、たくさん持っている人から、ちょっと力を貸してもらってもいい。

もちろん、人に迷惑をかけたり傷つけたりすることは避けつつですが、手段のクリーンささにあまりこだわらずに、「経済的に自立する」という最終目標だけを見据えていくのがいいと思っています。

「間違っている」と言われたとしても
「生きやすくなりたいと思ったら、自分で考えるしかない」。

撮影:伊藤圭

──女性に限らずキャリアや人生について、悩みながら生きている人も少なくありません。

過去に受けたインタビューで「どうすれば悩まずに生きていけるでしょうか?」と質問されて、思わず「悩まずに生きていくことなんて無理でしょ」って答えてしまったことがありました(笑)。
私だって20代のときは死ぬほど悩んだし、死ぬほど失敗して、もう私は駄目だと思ったこともたくさんありますが、今も何とか生きています。
もし生きやすくなりたいと思ったら、「自分はどうしたいのか」を常に考えていくしかないです。

たとえ○○さんが成功していたとしても、その成功方法を自分ができるわけでもないし、人それぞれ正解へのルートは違います。

自分が決めたやり方に対して、大多数の人から「お前は間違っている」と言われることもあるかもしれない。

でもどこかで覚悟を決めて、失敗してもいいから、私はこれをやるんだと決める強さを持つこと。そういう自分の気持ちを少しずつ育てていくことだと思います。
凪良ゆう:1973年生まれ、京都市在住。2007年にBLジャンルの初著書を刊行しデビュー。BL作家として活躍し『美しい彼』シリーズ(2014年〜)は2021年にドラマ化され2023年4月には映画化された。2017年には初の文芸小説『神さまのビオトープ』を刊行。2019年の『流浪の月』で本屋大賞を受賞し、2022年に実写映画化。2020年の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補にもなった『汝、星のごとく』で2度目の本屋大賞受賞。本屋大賞を2度受賞したのは、作家・恩田陸さん以来の2人目。
https://t.cn/A6py92JP


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