孔雀東南飛(後)
 
石井俊雄
前回は、岩波文庫に「中国名詩選」の中の長編叙事詩「孔雀東南飛」の前半を記した。
後半では、先ず蘭芝の紛紛とした再婚話しが続き、最後は悲劇の完成となって終る。 ここでは再婚話しの部分は省略し最後の部分を記してみる。
よかったらご一読ください。
 
阿母謂阿女 阿母 阿女に謂う、  
適得府君書    「適(まさ)に府君の書を得るに、  
明日來迎汝 明日 来たりて汝を迎えんと。  
何不作衣裳    何ぞ衣裳を作らざる、  
莫令事不舉 事をして挙がらざらしむ莫(な)かれ。」  
阿女默無聲    阿女 默して声無し。  
手巾掩口啼 手巾もて口を掩いて啼き、  
涙落便如瀉 涙落ちて便(すなわ)ち瀉(そそ)ぐが如し。  
移我琉璃榻    我が琉璃の榻(とう)を移し、  
出置前窗下 出して前窓の下に置く。  
左手持刀尺    左手に刀尺を持ち、  
右手執綾羅    右手に綾羅を執りて、  
朝成繍狭裙 朝(あした)に繍狭裙を成し、 (注)「狭」はフォント無く代字
晩成單羅衫    晩(くれ)に單羅衫(たんらさん)を成す。  
奄奄日欲暝 奄奄(えんえん)として日は暝(く)れんと欲す、 (注)「奄」はフォント無く代字
愁思出門啼    愁思門を出でて啼く。  
母は娘に言った。「いましがた太守さまからお手紙を受け取ったが、あすにはお前を迎えに来るそうだよ。 さあ、早く花嫁衣装を仕立てるがよい。婚礼に間に合わないようなことがないようにね。」
娘は黙ったままだった。ハンカチで口をおさえて泣く。涙が流れんばかりに落ちるのだった。
やがて琉璃で飾った椅子を表に持ち出し、窓の下に置く。 左手に裁ちばさみと物差、右手に絹の糸を持ち、朝のうちに刺繍したあわせのスカートを、夕方までにはひとえの薄手の上着を縫い上げた。
あたりは暮れかかり、夜に入ろうとする。娘は悲しみのあまり屋敷の外へ出て泣く。
府吏聞此變 府吏 之の変を聞き、
因求假暫歸    因(よ)りて假を求めて暫く帰る。
未至二三里    未だ至たらざること二三里、
摧藏馬悲哀 摧藏(さいぞう)して馬(うま)悲哀す。
新婦識馬聲    新婦馬声を識り、
躡履相逢迎 履を躡(ふ)みて相逢迎(あいほうげい)す。
悵然遙相望    悵然(ちょうぜん)として遙かに相望(あいのぞ)み、
知是故人來 知る是れ故人の来たるを。
舉手拍馬鞍    手を挙げて馬の鞍を拍(う)ち、
嗟歎使心傷 嗟歎(さたん)して心を傷ましむ。
自君別我後    「君の我れに別れしより後、
人事不可量 人事 量る可(べ)からず、
果不如先願    果して先願の如くならず、
又非君所詳 又 君の詳(つまびらか)にする所に非ず、
我有親父母    我に親父母(しんふぼ)有り、
逼迫兼弟兄 逼迫するに弟兄(ていけい)を兼ね、
以我應他人    我を以て他人に応ぜしむ。
君還何所望    君還るも何の望む所ぞ。」
さて焦仲卿は、人から聞いてこの一大事を知り、休暇をとって一時帰休し、妻の実家を訪ねようとした。 あと二、三里のところで、馬が苦しんで悲しくいななく。 あれはあの人の馬の声と、すぐに聞き分けた劉蘭芝は、靴をつっかけて出迎える。 悲しげに遠くを望みやり、懐かしい人の来訪を知ったのであった。 やがて近づいた馬の鞍を手でたたきつつ嘆けば、胸は痛むばかりである。
「別れ別れになってしまってからというもの、人の世のことはわからないものですわねぇ、 やっぱり私たちの願いどおりには、事は運ばなかったのです。あなたにはなかなか、おわかりいただけないことですけど。 私の母がせめたてるばかりでか、兄まで加わって、無理やり私の再婚を承諾してしまったのですわ。 こうしてあなたが戻っていらしても、もう何の希望がありましょう。」
(摧藏)五臓が砕けるほど悲しむ意。馬も主人の気持ちを察して悲しむのである。
府吏謂新婦    府吏 新婦に謂う、  
賀卿得高遷    「卿(きみ)の高遷を得たるを賀す。  
磐石方且厚    磐石は方にして且(かつ)厚し、  
可以卒千年    以て千年を卒(お)う可し。  
蒲葦一時靭    蒲葦は一時の靭、 (注)「靭」はフォント無く代字
便作旦夕間    便(すなわ)ち旦夕(たんせき)の間を作(な)す。  
卿當日勝貴    卿(きみ)當(まさ)に日に勝貴(しょうき)なるべし、  
吾獨向黄泉    吾 独り黄泉に向わん。」  
新婦謂府吏    新婦 府吏に謂う、  
何意出此言    「何の意か此の言を出す、  
同是被逼迫    同じく是れ逼迫せらるる、  
君爾妾亦然    君も慈(しか)り 妾も亦た然(しか)り。  
黄泉下相見    黄泉の下に相見(あいまみ)えん、  
勿違今日言    今日の言に違うこと勿れ。」  
執手分道去    手を執りて道を分ち去り、  
各各還家門    各各 家門に還る。  
生人作死別    生人(せいじん) 死別を作(な)す、  
恨恨那可論    恨恨 那(なん)ぞ論ず可(べ)けん。  
念與世間辭    念(おも)う世間と辞す、  
千萬不復全    千萬復(また)全(まった)からずを。  
焦仲卿が劉蘭芝にいう。「玉の輿だね、おめでとう。岩は四角な上に厚いから、千年たっても変わらぬが、 蒲や葦はしなやかで丈夫なのもほんの一時のことで、せいぜい朝から晩までしかもたないのだね。 おまえは日増しに、えらいご身分になっていくだろうな。私は、ひとりであの世へ行くよ。」
劉蘭芝が焦仲卿にいう、「どうしてそんなことをおっしゃるのです。押し付けられたという点でいえば、あなたも私も同じですわ。 私もあの世へ行って、あなたと会うことにいたします。きっと今日のその言葉を違えないでくださいね。」
手と手をとった二人は、やがて別の道をとって、それぞれの自分の家に戻ったのだった。 生きているもの同士、ここで死別れをするのである。恨めしさは、言葉で言い表せない。 二人の胸中にあったのは、「これで世間とはお別れ、どうあっても生き永らえたりはしはせぬ」との決意だった。
(高遷)立身出世。(勝貴)高貴な身分。(磐石・蒲葦)先に女の誓いの言葉を受けたもの。 (同是被逼迫)先に男が女に「逼迫するに阿母あり」と言ったことを持ち出し、立場の平等を強調したもの。
 
 
府吏還家去 府吏 家に還り去り、
上堂拜阿母    堂に上って阿母を拜す。
今日大風寒    「今日大いに風寒く、
寒風摧樹木 寒風は樹木を摧(くだ)き、
嚴霜結庭蘭    厳霜は庭蘭に結ぶ。
兒今日冥冥 兒は今日冥冥(に赴き)、
令母在後單    母をして後に在りて単ならしむ。
故作不良計 故(ことさら)に不良の計を作(な)すも、
勿復怨鬼神    復(ま)た鬼神を怨むこと勿れ。
命如南山石 命は南山の石の如く、
四體康且直    四体 康にして且つ直(ちょく)なれ。」
焦仲卿は家に戻ると奥座敷に上がって母親に挨拶した。
「ずいぶん風が強く、寒い日ですね。冷たい風で樹木が折れ、厳しい霜が庭の蘭に貼り付いています。 私は今日この日、あの世へ参るつもりです。 母上をひとりあとに残すことになりますが、このような怪しからぬ考えは、私がわざわざ決めたことですから、 どうか神様を怨まないでください。母上が南山の石のように長生きなさって、いつまでもお健やかでお腰も曲がりませぬように。」
(命如南山石)『詩経』にも「南山の寿きが如く」とある通り、人の長寿をことほぐ語。。
阿母得聞之 阿母 之を聞くを得て、
零涙應聲落    零涙 声に応じて落つ。
汝是大家子 「汝は是れ大家の子、
仕宦於臺閣    台閣に仕宦す。
慎勿為婦死 慎みて婦の為に死すること勿かれ、
貴賤情何薄    貴賤 情 何ぞ薄き。
東家有賢女 東家に賢女有り、
窈窕艷城郭    窈窕(ようちょう) 城郭に艷なり。
阿母為汝求 阿母 汝が為に求めんこと、
便復在旦夕    便(すなわ)ち復(ま)た旦夕に在り。」
府吏再拜還 府吏 再拜して還り、
長歎空房中    空房の中に長歎し、
作計乃爾立 計を作して乃(すなわ)ち慈(しか)く立つ。
轉頭向戸裡    頭を転じて戸裡に向い、
漸見愁煎迫 漸く愁いの煎迫するを見る。
これを聞いて、母親は息子を説得しようとするが、ひとこと話すたび、涙がぽろぽろ落ちるのだった。
「お前は名家の子。わが家は高官を出した家柄なのだよ。どうか女のために死ぬようなことはやめておくれ。 身分の上下で心を移す薄情女ではないか。それより近所の家に賢い娘がおる。 その美しさは町一番、母がおまえにもらってやろう。すぐ今にでも。」
焦仲卿は再拝して自分の部屋に戻る。妻のいないがらんとした部屋で、しばらく溜息をついていたが、 かねての考え通りに事を運ぼうと決心した。 戸口から家の内をかえり見ると、しだいに悲しみが胸の中に煮えたってくる。
 其日馬牛嘶 其日 馬牛嘶(いなな)き、  
新婦入青廬    新婦は青廬に入る。  
菴菴黄昏後 菴菴(あんあん)たり 黄昏の後、  
寂寂人定初    寂寂(せきせき)たり 人定まるの初め。  
我命絶今日 我が命は今日絶えん、  
魂去尸長留    魂去りて尸(し)は長く留まらん。  
攬裙脱絲履 裙を攬りて糸履を脱ぎ、  
舉身赴清池    身を挙げて清池に赴く。  
府吏聞此事 府吏 此の事を聞き、  
心知長別離    心に知る 長(とこしえ)の別離なるを。  
徘徊庭樹下 庭樹の下に徘徊し、  
自掛東南枝    自(みずか)ら東南の枝に掛る。
その結婚の当日、馬がしきりに鳴いた。いよいよ蘭芝は、花嫁用の仮小屋に入った。 夕暮が深まり、暗闇が迫る頃、人々が寝静まったころである。 「私の命はきょうで終り、魂は飛び去り、屍だけが残されるのだ」と思いつつ、蘭芝はスカートのすそをつまみあげ、 絹のくつを脱ぐと、池に身を投じた。 その知らせを聞くと、焦仲卿は、これが永の別れと知り、庭の樹の下をさまよったのち、東南に伸びた枝に首をくくった。
(馬牛)牛はつけたりの字でここでは単に馬。(青廬)青布の幔幕をめぐらした仮小屋。
 兩家求合葬 兩家 合葬を求め、  
合葬華山傍    華山の傍に合葬す。  
東西植松柏 東西に松柏を植え、  
左右種梧桐    左右に梧桐を種(う)う。  
枝枝相覆蓋 枝枝(しし) 相覆蓋(あいふくがい)、  
葉葉相交通    葉葉(ようよう) 相交通(あいこうつう)す。  
中有雙飛鳥 中に双飛鳥(そうひちょう)有り、  
自名為鴛鴦    自(みずか)ら名づけて鴛鴦(えんおう)と為す。  
仰頭相向鳴 頭を仰いで相向って鳴き、  
夜夜達五更    夜夜 五更(ごこう)に達す。  
行人駐足聽 行人 足を駐(とど)めて聽き、  
寡婦起傍徨    寡婦 起きて傍徨す。  
多謝後世人 多謝す 後世の人、  
戒之慎勿忘    之を戒めて 慎みて忘るること勿かれ。  
焦家と劉家は双方とも、合葬したいと申し出、ここに二人は華山のふもとに合葬された。 墓の東西には松と柏、左右に梧桐を植えた。枝と枝は覆い重なり、葉と葉は入り混じった。 その中に一対の鳥がいる。「エン」「オウ」と鳴き交わすところから「鴛鴦」と名付けられた。 いつも首を挙げて向き合って鳴き、明け方まで鳴きつづけるのであった。 その声に、道行く人は足をとめて聞き入り、夫を亡くした女は床から起き出し、周囲を歩きまわる。
後世の方がたに申し上げたい、どうか、これを戒めとして、お忘れにならぬように。
(自名為鴛鴦)鳥は自らその名を呼ぶという。(多謝)くれぐれも申し上げる。
 

竹青《聊斋志异》
田中貢太郎

 魚容ぎょようという秀才があった。湖南の人であったが、この話をした者が忘れていたから郡や村の名は解らない。ただ家が極めて貧乏で、文官試験に落第して帰っている途中で旅費が尽きてしまった。それでも人に物を乞い歩くのは羞かしくてできない。ひもじくなって歩かれないようになったので、暫く休むつもりで呉王廟の中へ入って往った。そこは洞庭のうちになった楚江の富池鎮ふうちちんであった。呉王廟は三国時代の呉の甘寧かんねい将軍を祀ったもので、水路を守る神とせられていた。廟の傍の林には数百の鴉が棲んでいて、その前を往来する舟を数里の前さきまで迎えに往って、舟の上に群がり飛ぶので、舟から肉を投げてやると一いち啄くちばしでうけて、下に墜おとすようなことはなかった。舟の人はそれを呉王の神鴉しんあといっていた。
 落第して餓えている男は、何を見ても聞いてもしゃくにさわらないものはなかった。魚は呉王の神像の前へ往って不平満々たる詞ことばで祈った後で廊下へ往って寝ていた。と、何人だれかが来て魚にこいと言うので随ついて往った。そこは呉王の前であった。魚を伴つれて往った者はひざまずいて言った。
「黒衣隊がまだ一人欠けておりますが、補充いたしましょうか」
「それがよかろう」
 呉王の許しが出たので、その者から魚に衣服きものをくれた。魚は言われるままにそれを着ると、そのまま鴉になった。そこで羽ばたきをして飛んで往くと、たくさんの朋輩の鴉ががあがあと噪はしゃいで飛んでいた。そして、それに随いて往って往来している舟の帆檣ほばしらの周囲を飛んだ。すると舟の上にいる旅人が争うて我も我もと肉をなげてくれた。朋輩の鴉はすばしっこくそれを空中でうけた。魚もそれにならってやっていると、またたく間に腹が一ぱいになった。そこで帰って林の杪こずえに止まったが、もう前の不平は忘れて得意であった。
二三日すると呉王は魚に偶つれあいのないのを憐んで、一羽の雌をめあわしてくれた。それは竹青ちくせいという名であった。雌雄は互いに愛しあって楽しく暮していた。
 魚は舟の上へ往って食物をあさる時に、馴れてしまって用心しないので、竹青がいつも注意したが聴かなかった。ある日、兵士の乗った舟が通った。兵士は肉のかわりに銃弾を飛ばした。銃弾は魚の胸にあたった。魚が落ちようとすると竹青が銜くわえて往ったので、兵士につかまらずにすんだ。鴉の群は朋輩を撃たれて怒り、羽ばたきをして波をあおったので、大きな波が湧き起って兵士を乗せた舟は覆ってしまった。
 竹青は魚を林の中へ伴れて往って、餌をあさってきて食わそうとしたが、魚は傷がひどかったのでその日の中に死んでしまった。と、夢のように目が醒めてしまった。魚は呉王廟の廊下に寝ている自分を見出したのであった。
 はじめ土地の人は呉王廟の廊下に死んだようになっている魚を見つけたが、どうしたものか解ろうはずがない。体へ手をあててみるとまだ冷えきっていないので、時どき人を見せによこした。ところで、この時になって魚が蘇生したので、すべての事情が解った。村の人は金を出しあって旅費を作ってくれたので、魚は無事に故郷へ帰ることができた。
 後三年して魚はまた旅に出たが、途ついでに呉王廟へ参詣して、食物を供え、鴉を呼びあつめて食べさした。そして、
「この中に竹青がもしいるなら、残っておいで」
 と言って祈ったが、鴉は食べてしまうと飛んで往って一羽も残らなかった。
魚は後に官吏になって帰ってきたが、また呉王廟に参詣して、羊と豚を供え、一方にたくさんの食物をかまえて、鴉の友達に御馳走をした。そしてまた竹青のことを言って祈ったが、その日も残る鴉はいなかった。
 魚はその晩舟を湖村に繋いで燭ひの側そばに坐っていた。と、鳥のようにひらりと入ってきて几つくえの前に立ったものがあった。みると二十はたちばかりの麗人であった。にっと笑って、
「お別れをしてから、御無事でしたか」
 と言った。魚はめんくらって訊いた。
「あなたは、何人ですか」
「あなた、竹青をお忘れになって」
 魚は喜んだ。
「何所どこから来たかね」
「私は、今、漢江の神女となっていますから、故郷うちへ帰ることはすくないのですが、鴉の使いが二度も来て、あなたの御心切を知らしてくれましたから、お眼にかかりに来たのです」
 魚はますます喜んだ。ちょうど久しく別れていた夫妻のように懽恋かんれんにたえなかった。そこで魚は竹青を自分の故郷へ伴れて往こうとした。
「南へ往こうじゃないか」
 竹青は魚を漢水の方へ伴れて往こうとした。
「西へ往こうじゃありませんか」
 その相談ができないうちに二人は眠ってしまった。そして、魚が眼を醒していると女はもう起きていた。魚は眼を開けて四辺あたりを見た。立派な家の中に燭の光が輝いていた。そこはどうしても舟の中ではなかった。魚はおどろいて起きて、
「此所は何所だね」
 と訊いた。女は笑って言った。
「此所は漢陽かんようですよ、私の家はあなたの家じゃありませんか、南へ往かないたっていいでしょう」
 そのうちに夜が明けはなれた。侍女や媼ばあや達が集まってきて酒の準備したくをした。そこで広い牀とこの上に小さな几を据えて二人がさし向いで酒もりをした。魚は、
「僕げなんは何所にいるだろう」
 と言って訊いた。竹青は、
「舟にいるのですわ」
 と言った。魚は船頭が長く待ってくれないだろうと思った。
「船頭はどうしたかなあ」
 竹青は言った。
「いいのです、私から礼をしますから」
 そこで魚は竹青と夜も昼も酒もりして帰ることを忘れていた。
 舟の中にいた船頭は翌朝眼を醒してみると、漢陽の市まちが見えるので腰をぬかさんばかりに駭いた。僕は僕で主人の室へ往ってみると主人がいないので、さがしてみたが杳として手がかりがなかった。そこで船頭は舟を出そうとしたが纜ともづなの結び目が解けないので、とうとう僕といっしょにおることにした。
 二箇月すぎてから魚はふと帰りたくなった。そこで竹青に言った。
「いつまでもこうしていると、親類にも忘れられてしまうし、それにだいいち、お前は私と夫婦になってるが、一度も私の家を見ないというのはいけないよ」
 竹青は言った。
「私は漢陽にいなくてはならないから、とても往けないですが、たとい往くことができても、あなたのお宅には奥さんがおありでしょう、私をどうなさるのです、それより私を此所に置いて、別宅にしたほうがよくはありませんか」
 魚は道が遠いのでとても時どきはこられないと思った。
「漢陽は遠いからなあ」
女は起って往って黒い衣服を出してきて言った。
「あなたがいつか着ていた着物があります、もし私を思ってくださるときには、これを着てください、此所へいらっしゃることができるのです、いらしたら私がお脱がせします」
 そこで珍しい肴をこしらえて魚のために送別の宴をはった。そのうちに魚は酔って寝たが、眼を醒してみると舟の中に帰っていた。見るとそれは洞庭のもとの舟を泊めた所であった。船には船頭も僕もいた。皆顔を見合わしておどろいた。船頭と僕は魚の往っていた所を訊いた。魚は喪心していた人のようにわざと悲しそうな顔をして驚いてみせた。
 枕もとには一つの包みがあった。開けてみると女のくれた新しい衣服、履くつ、襪くつたびなど入っていた。黒い衣服もその中に入れてあった。また繍ぬいとりをした袋を腰のあたりに結えてあったが、それには金が一ぱい充ちていた。そこで南にむかって舟をやり、前岸かわむこうに着いて、船頭にたくさんの礼をやって帰った。
 魚は家へ帰って二三箇月したが、ひどく漢水の竹青のことが思われるので、そこで、そっとかの黒衣を出して着た。すると両脇に翼が生えて、空に向ってあがって往くことができた。そして二ときばかり経つと、もう漢水へ着いたので、輪を描きながら下の方を見た。小さな島の中に一簇ひとむらの楼舎があった。魚はそこへ飛びおりた。侍女の一人がもうそれを見ていて大声で言った。
「旦那様がお見えになりました」
 間もなく竹青が出てきて、皆に言いつけて黒衣の結び目を緩ゆるめさした。と、羽がはらりと脱げたようになった。魚は竹青と手を握りあって家の中へ入った。竹青は言った。
「いいところへいらしてくれました、もう今明日にも生れそうなんですよ」
 魚は冗談にして言った。
「胎生たいせいかね、それとも卵生らんせい……」
 竹青は言った。
「私、今、神になってますから、骨も皮も、もうかわっているのですよ」
 二三日して果して竹青はお産をした。児こどもは厚い胎衣えなに包まれて生れたが、ちょうど大きな卵のようであった。破ってみると男の子であった。魚は喜んで漢産かんさんという名をつけた。
 三日の後、漢水の神女が集まってきて、衣服や珍しい物をいわってくれた。皆綺麗な女ばかりで、三十以上の者はなかった。いっしょに室の中へ入って嬰児あかんぼのいる榻ねだいの傍へ往き、拇指で嬰児の鼻をなでて、増寿ぞうじゅという名をつけた。
 皆が帰った後で魚は竹青に問うた。
「あれは皆なんだね」
 竹青は言った。
「皆、私の朋輩ともだちですよ、いちばん後ろにいた蓮の花のように白い着物を着たのは、漢皐台かんこうだいの下で佩玉はいぎょくを解いて交甫こうほに与えた方ですよ」
 二三箇月して女は舟で送ってくれた。それは帆も楫も用いないで飄然とひとりで往く舟であった。陸へ往ってみるともう人が馬を道ばたに繋いで待っていた。魚はそこで家へ帰った。
 魚はそれからたえず往来した。数年して漢産がますますきれいな子になったので、魚は可愛がった。魚の妻の和氏は、児がないのでいつも漢産を見たがっていた。魚はそれを竹青に告げた。竹青はそこで旅行の準備をして、漢産を魚につけて帰した。それは三箇月という約束であった。
 帰ってくると、和は自分の生んだ子以上に可愛がって、十箇月が過ぎても返さなかった。と、ある日、漢産は急病が起って死んでしまった。和は悲しんで自分も死にかねないほどであった。
 魚はそこで漢水へ往って竹青に知らそうとした。門を入って往くと、漢産は赤足すあしのままで榻の上に眠っていた。魚は喜んで女に訊いた。
「漢産は死んだがどうしたのだ」
 竹青は言った。
「あなたが、約束に背いて早く返してくださらないものですから、呼んだのですよ」
 そこで魚は和が児をひどく可愛がることを話した。竹青が言った。
「では、私が今度児を生むのを待っててください、漢産を返しますから」
 一年あまりすると竹青は双児を生んだ。それは男と女の児であった。そして男を漢生かんせいとつけ、女を玉佩ぎょくはいとつけた。魚は漢産を伴れて家へ帰ったが、一年の中に漢水へ三四回も往くので不便であった。魚はそこで家を漢陽に移した。
 漢産は十二で郡の学校へ入った。竹生[#「竹生」はママ]は人間には美しい質の女がいないからといって、漢産を呼んで妻を迎えさし、そして帰してよこした。漢産の妻になった女の名は扈娘こじょうといって、これも神女の産れであった。
 後、和が死んだ。漢生及び妹の玉佩も皆喪の礼を行った。葬儀が畢おわって漢産は留まり、魚は漢生と玉佩を伴れて出て往ったが、それから帰らなかった。

【座敷童(周央サンゴ)】
子どもの姿で家の客間や座敷、蔵に住む存在。姿を見た者や座敷童が住み着いた家の住人には幸運と富が訪れる。イタズラ好きで家人を困らせてばかりだが、子どもの良い遊び相手になったりもする。

【大百足(月ノ美兎)】
山を覆うほどの巨大な百足。龍や蛇の一族と敵対し、龍の姫によって選ばれた勇者に退治された。刃を通さない強靭な肉体と2000本の脚を持ち、神と同等の力を持つとされる。

【百目/百目鬼(奈羅花)】
百目/全身に無数または百個の目を有する、日本の妖怪。水木しげる氏考案で、夜に人に出会うと目の一つが飛び出して後をついてくる。
百目鬼/百匹の鬼を従える鬼だが、鬼の世界から出たいと修業し人間に生まれ変わった。

【雪女(葉加瀬冬雪)】
常に白装束を身にまとい冷たい息を吹きかけて人々を凍らせたり、精気を吸い取って呪うという雪の妖怪。
たびたび人家を訪ねるが、対応を間違えると…

【清姫(壱百満天原サロメ)】
宿を貸した美形の旅僧侶に一目ぼれするが「帰りにまた立ち寄る」と言い残して去ってしまう。欺かれたと思った清姫は追いかけるうちに妖となり、鐘を用いて僧侶を…という伝説を持つ存在。
ヨカナーンとサロメ…っぽい?

【鎌鼬(フレン・E・ルスタリオ)】
つむじ風に乗って人を切りつけるとされる存在。刃物で切られた鋭い切り傷の重傷を負うが、痛みは無く気付きにくい。三兄弟説があり、一人目が転ばせ、二人目が切りつけ、三人目が薬を塗っているらしい。

【青行燈(先斗寧)】
怪談話が大好きで百物語の最後に現れ様々な怪異を起こす存在。鬼とも蜘蛛ともいわれるが、おおよそ女性の姿を持つ。人々は彼女を恐れ99個目の怪談で百物語を終えることが多かったらしい。

【人魚/蛟(町田ちま)】
人魚:航海者を美しい歌声で惹きつけ難破させるという海の魔物だが、慈悲深く、または恵みを与える存在ともいわれる。
蛟:水の中に住む蛇や竜の姿をした妖怪または水神。

【狛犬/犬神(夕陽リリ)】
狛犬:要所に守り神として設置されている像に宿る存在。邪気を払い、神前を守護する。
犬神:強力な呪詛の力を持ち人に害をなす。人々から畏怖の念を集めたため、たびたび祀られている。
※送り犬の場合転んだら襲ってくる

【大入道(夢追翔)】
僧侶や黒い影の姿で伝承が残っている存在。人を脅かしたり病を運ぶものが多いが、ちゃっかり精米を手伝ってくれたりもする。
一説では温泉客を脅かした際、七色ゲーミング後光が差していたらしい(おそらく湯気による虹)。

【化け狸(ラトナ・プティ)】
化けるのが大好きな狸妖怪。人間や魔物に化けて人をたぶらかしたりからかったりするおちゃめな存在。実は狐より化けるのがうまい。
(狐は人を誘惑するため、狸はからかうために化ける傾向があるらしい)

【牛鬼(ローレン・イロアス)】
非常に残忍かつ獰猛な性格で毒を吐き人を食う存在であると同時に湖や海岸に現れる水神の化身。超怪力、猛毒、目からビームなどシンプルにパワー!!!!系。
あまりの凶暴さに場所によっては祀られている。

【鵺(渡会雲雀)】
猿の顔、狸の胴体、足は虎、尾は蛇の妖怪。もともとはキジに似た鳥であった(=雲雀繋がり?)とされ、黒い煙を操り強い力を持っていた。時の貴族に退治された伝説が残っており、今も各所で祀られている。


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  • 山东防疫能严谨点不我没去过济南没去过东营更没去过青岛这个月只去过杭州和临沂我自己有防疫意识 自助嗓子眼捅了七八次而且个人信息自主报送到了临沂市公安局抗疫平台(
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