#RADWIMPS##野田洋次郎#
今天给大家介绍的是 《37458》
「全てのことに自信がない」 “对所有事都没信心”
ってそれはもう立派な自信です 但,能这么说这已经是很了不起的自信了
ある人は人生を山に例え 有人把人生比作高山
ある人は人生を星に例え 有人把人生比作星辰
ある日突然 ところで君は谁? 我也不知道会不会有一天突然被人问
って言われたって んなの分からない ?”你是谁来着?“
大丈夫だから 被问了也没有关系的
私はあなたが 思った通りの人我就是你所想的那样的人
今天给大家介绍的是 《37458》
「全てのことに自信がない」 “对所有事都没信心”
ってそれはもう立派な自信です 但,能这么说这已经是很了不起的自信了
ある人は人生を山に例え 有人把人生比作高山
ある人は人生を星に例え 有人把人生比作星辰
ある日突然 ところで君は谁? 我也不知道会不会有一天突然被人问
って言われたって んなの分からない ?”你是谁来着?“
大丈夫だから 被问了也没有关系的
私はあなたが 思った通りの人我就是你所想的那样的人
一夜(上)
夏目漱石
「美くしき多くの人の、美くしき多くの夢を……」と髯ひげある人が二たび三たび微吟びぎんして、あとは思案の体ていである。灯ひに写る床柱とこばしらにもたれたる直なおき背せの、この時少しく前にかがんで、両手に抱いだく膝頭ひざがしらに険けわしき山が出来る。佳句かくを得て佳句を続つぎ能あたわざるを恨うらみてか、黒くゆるやかに引ける眉まゆの下より安からぬ眼の色が光る。
「描えがけども成らず、描けども成らず」と椽えんに端居はしいして天下晴れて胡坐あぐらかけるが繰り返す。兼ねて覚えたる禅語ぜんごにて即興なれば間に合わすつもりか。剛こわき髪を五分ぶに刈りて髯貯たくわえぬ丸顔を傾けて「描けども、描けども、夢なれば、描けども、成りがたし」と高らかに誦じゅし了おわって、からからと笑いながら、室へやの中なる女を顧かえりみる。
竹籠たけかごに熱き光りを避けて、微かすかにともすランプを隔てて、右手に違い棚、前は緑り深き庭に向えるが女である。
「画家ならば絵にもしましょ。女ならば絹を枠わくに張って、縫いにとりましょ」と云いながら、白地の浴衣ゆかたに片足をそと崩くずせば、小豆皮あずきがわの座布団ざぶとんを白き甲が滑すべり落ちて、なまめかしからぬほどは艶えんなる居ずまいとなる。
「美しき多くの人の、美しき多くの夢を……」と膝ひざ抱いだく男が再び吟じ出すあとにつけて「縫いにやとらん。縫いとらば誰に贈らん。贈らん誰に」と女は態わざとらしからぬ様さまながらちょと笑う。やがて朱塗の団扇うちわの柄えにて、乱れかかる頬ほおの黒髪をうるさしとばかり払えば、柄えの先につけたる紫のふさが波を打って、緑り濃き香油の薫かおりの中に躍おどり入る。
「我に贈れ」と髯なき人が、すぐ言い添えてまたからからと笑う。女の頬には乳色の底から捕えがたき笑の渦うずが浮き上って、瞼まぶたにはさっと薄き紅くれないを溶とく。
「縫えばどんな色で」と髯あるは真面目まじめにきく。
「絹買えば白き絹、糸買えば銀の糸、金の糸、消えなんとする虹にじの糸、夜と昼との界さかいなる夕暮の糸、恋の色、恨うらみの色は無論ありましょ」と女は眼をあげて床柱とこばしらの方を見る。愁うれいを溶といて錬ねり上げし珠たまの、烈はげしき火には堪たえぬほどに涼しい。愁の色は昔むかしから黒である。
隣へ通う路次ろじを境に植え付けたる四五本の檜ひのきに雲を呼んで、今やんだ五月雨さみだれがまたふり出す。丸顔の人はいつか布団ふとんを捨てて椽えんより両足をぶら下げている。「あの木立こだちは枝を卸おろした事がないと見える。梅雨つゆもだいぶ続いた。よう飽きもせずに降るの」と独ひとり言ごとのように言いながら、ふと思い出した体ていにて、吾わが膝頭ひざがしらを丁々ちょうちょうと平手をたてに切って敲たたく。「脚気かっけかな、脚気かな」
残る二人は夢の詩か、詩の夢か、ちょと解しがたき話しの緒いとぐちをたぐる。
「女の夢は男の夢よりも美くしかろ」と男が云えば「せめて夢にでも美くしき国へ行かねば」とこの世は汚けがれたりと云える顔つきである。「世の中が古くなって、よごれたか」と聞けば「よごれました」と※(「糸+丸」、第3水準1-89-90)扇がんせんに軽かろく玉肌ぎょっきを吹く。「古き壺つぼには古き酒があるはず、味あじわいたまえ」と男も鵞鳥がちょうの翼はねを畳たたんで紫檀したんの柄えをつけたる羽団扇はうちわで膝のあたりを払う。「古き世に酔えるものなら嬉うれしかろ」と女はどこまでもすねた体である。
この時「脚気かな、脚気かな」としきりにわが足を玩もてあそべる人、急に膝頭をうつ手を挙あげて、叱しっと二人を制する。三人の声が一度に途切れる間をククーと鋭どき鳥が、檜の上枝うわえだを掠かすめて裏の禅寺の方へ抜ける。ククー。
「あの声がほととぎすか」と羽団扇を棄すててこれも椽側えんがわへ這はい出す。見上げる軒端のきばを斜めに黒い雨が顔にあたる。脚気を気にする男は、指を立てて坤ひつじさるの方かたをさして「あちらだ」と云う。鉄牛寺てつぎゅうじの本堂の上あたりでククー、ククー。
「一声ひとこえでほととぎすだと覚さとる。二声で好い声だと思うた」と再び床柱に倚よりながら嬉しそうに云う。この髯男は杜鵑ほととぎすを生れて初めて聞いたと見える。「ひと目見てすぐ惚ほれるのも、そんな事でしょか」と女が問をかける。別に恥はずかしと云う気色けしきも見えぬ。五分刈ごぶがりは向き直って「あの声は胸がすくよだが、惚れたら胸は痞つかえるだろ。惚れぬ事。惚れぬ事……。どうも脚気らしい」と拇指おやゆびで向脛むこうずねへ力穴ちからあなをあけて見る。「九仞きゅうじんの上に一簣いっきを加える。加えぬと足らぬ、加えると危あやうい。思う人には逢あわぬがましだろ」と羽団扇はうちわがまた動く。「しかし鉄片が磁石に逢おうたら?」「はじめて逢うても会釈えしゃくはなかろ」と拇指の穴を逆さかに撫なでて澄ましている。
「見た事も聞いた事もないに、これだなと認識するのが不思議だ」と仔細しさいらしく髯を撚ひねる。「わしは歌麻呂うたまろのかいた美人を認識したが、なんと画えを活いかす工夫はなかろか」とまた女の方を向く。「私わたしには――認識した御本人でなくては」と団扇のふさを繊ほそい指に巻きつける。「夢にすれば、すぐに活いきる」と例の髯が無造作むぞうさに答える。「どうして?」「わしのはこうじゃ」と語り出そうとする時、蚊遣火かやりびが消えて、暗きに潜ひそめるがつと出でて頸筋くびすじにあたりをちくと刺す。
「灰が湿しめっているのか知らん」と女が蚊遣筒を引き寄せて蓋ふたをとると、赤い絹糸で括くくりつけた蚊遣灰が燻いぶりながらふらふらと揺れる。東隣で琴ことと尺八を合せる音が紫陽花あじさいの茂みを洩もれて手にとるように聞え出す。すかして見ると明け放ちたる座敷の灯ひさえちらちら見える。「どうかな」と一人が云うと「人並じゃ」と一人が答える。女ばかりは黙っている。
「わしのはこうじゃ」と話しがまた元へ返る。火をつけ直した蚊遣の煙が、筒に穿うがてる三つの穴を洩れて三つの煙となる。「今度はつきました」と女が云う。三つの煙りが蓋ふたの上に塊かたまって茶色の球たまが出来ると思うと、雨を帯びた風が颯さっと来て吹き散らす。塊まらぬ間うちに吹かるるときには三つの煙りが三つの輪を描えがいて、黒塗に蒔絵まきえを散らした筒の周囲まわりを遶めぐる。あるものは緩ゆるく、あるものは疾とく遶る。またある時は輪さえ描く隙ひまなきに乱れてしまう。「荼毘だびだ、荼毘だ」と丸顔の男は急に焼場の光景を思い出す。「蚊かの世界も楽じゃなかろ」と女は人間を蚊に比較する。元へ戻りかけた話しも蚊遣火と共に吹き散らされてしもうた。話しかけた男は別に語りつづけようともせぬ。世の中はすべてこれだと疾とうから知っている。
「御夢の物語りは」とややありて女が聞く。男は傍かたわらにある羊皮ようひの表紙に朱で書名を入れた詩集をとりあげて膝の上に置く。読みさした所に象牙ぞうげを薄く削けずった紙かみ小刀ナイフが挟はさんである。巻かんに余って長く外へ食はみ出した所だけは細かい汗をかいている。指の尖さきで触さわると、ぬらりとあやしい字が出来る。「こう湿気しけてはたまらん」と眉まゆをひそめる。女も「じめじめする事」と片手に袂たもとの先を握って見て、「香こうでも焚たきましょか」と立つ。夢の話しはまた延びる。
宣徳せんとくの香炉こうろに紫檀したんの蓋があって、紫檀の蓋の真中には猿を彫きざんだ青玉せいぎょくのつまみ手がついている。女の手がこの蓋にかかったとき「あら蜘蛛くもが」と云うて長い袖そでが横に靡なびく、二人の男は共に床とこの方を見る。香炉に隣る白磁はくじの瓶へいには蓮はすの花がさしてある。昨日きのうの雨を蓑みの着て剪きりし人の情なさけを床とこに眺ながむる莟つぼみは一輪、巻葉は二つ。その葉を去る三寸ばかりの上に、天井から白金しろがねの糸を長く引いて一匹の蜘蛛くもが――すこぶる雅がだ。
「蓮の葉に蜘蛛下くだりけり香を焚たく」と吟じながら女一度に数弁すうべんを攫つかんで香炉の裏うちになげ込む。「※(「虫+蕭」、第4水準2-87-94)蛸しょうしょう懸かかって不揺うごかず、篆煙てんえん遶竹梁ちくりょうをめぐる」と誦じゅして髯ひげある男も、見ているままで払わんともせぬ。蜘蛛も動かぬ。ただ風吹く毎に少しくゆれるのみである。
「夢の話しを蜘蛛もききに来たのだろ」と丸い男が笑うと、「そうじゃ夢に画えを活いかす話しじゃ。ききたくば蜘蛛も聞け」と膝の上なる詩集を読む気もなしに開く。眼は文字もじの上に落つれども瞳裏とうりに映ずるは詩の国の事か。夢の国の事か。
「百二十間の廻廊があって、百二十個の灯籠とうろうをつける。百二十間の廻廊に春の潮うしおが寄せて、百二十個の灯籠が春風しゅんぷうにまたたく、朧おぼろの中、海の中には大きな華表とりいが浮かばれぬ巨人の化物ばけもののごとくに立つ。……」
折から烈はげしき戸鈴ベルの響がして何者か門口かどぐちをあける。話し手ははたと話をやめる。残るはちょと居ずまいを直す。誰も這入はいって来た気色けしきはない。「隣だ」と髯ひげなしが云う。やがて渋蛇しぶじゃの目を開く音がして「また明晩」と若い女の声がする。「必ず」と答えたのは男らしい。三人は無言のまま顔を見合せて微かすかに笑う。「あれは画じゃない、活きている」「あれを平面につづめればやはり画だ」「しかしあの声は?」「女は藤紫」「男は?」「そうさ」と判じかねて髯が女の方を向く。女は「緋ひ」と賤いやしむごとく答える。
「百二十間の廻廊に二百三十五枚の額が懸かかって、その二百三十二枚目の額に画かいてある美人の……」
「声は黄色ですか茶色ですか」と女がきく。
「そんな単調な声じゃない。色には直なおせぬ声じゃ。強しいて云えば、ま、あなたのような声かな」
「ありがとう」と云う女の眼の中うちには憂をこめて笑の光が漲みなぎる。
この時いずくよりか二疋ひきの蟻ありが這はい出して一疋は女の膝ひざの上に攀よじ上のぼる。おそらくは戸迷とまどいをしたものであろう。上がり詰めた上には獲物えものもなくて下くだり路みちをすら失うた。女は驚ろいた様さまもなく、うろうろする黒きものを、そと白き指で軽く払い落す。落されたる拍子ひょうしに、はたと他の一疋と高麗縁こうらいべりの上で出逢であう。しばらくは首と首を合せて何かささやき合えるようであったが、このたびは女の方へは向わず、古伊万里こいまりの菓子皿を端はじまで同行して、ここで右と左へ分れる。三人の眼は期せずして二疋の蟻の上に落つる。髯なき男がやがて云う。
「八畳の座敷があって、三人の客が坐わる。一人の女の膝へ一疋の蟻が上る。一疋の蟻が上った美人の手は……」
「白い、蟻は黒い」と髯がつける。三人が斉ひとしく笑う。一疋の蟻は灰吹はいふきを上りつめて絶頂で何か思案している。残るは運よく菓子器の中で葛餅くずもちに邂逅かいこうして嬉しさの余りか、まごまごしている気合けわいだ。
「その画えにかいた美人が?」と女がまた話を戻す。
「波さえ音もなき朧月夜おぼろづきよに、ふと影がさしたと思えばいつの間まにか動き出す。長く連つらなる廻廊を飛ぶにもあらず、踏むにもあらず、ただ影のままにて動く」
「顔は」と髯なしが尋ねる時、再び東隣りの合奏が聞え出す。一曲は疾とくにやんで新たなる一曲を始めたと見える。あまり旨うまくはない。
夏目漱石
「美くしき多くの人の、美くしき多くの夢を……」と髯ひげある人が二たび三たび微吟びぎんして、あとは思案の体ていである。灯ひに写る床柱とこばしらにもたれたる直なおき背せの、この時少しく前にかがんで、両手に抱いだく膝頭ひざがしらに険けわしき山が出来る。佳句かくを得て佳句を続つぎ能あたわざるを恨うらみてか、黒くゆるやかに引ける眉まゆの下より安からぬ眼の色が光る。
「描えがけども成らず、描けども成らず」と椽えんに端居はしいして天下晴れて胡坐あぐらかけるが繰り返す。兼ねて覚えたる禅語ぜんごにて即興なれば間に合わすつもりか。剛こわき髪を五分ぶに刈りて髯貯たくわえぬ丸顔を傾けて「描けども、描けども、夢なれば、描けども、成りがたし」と高らかに誦じゅし了おわって、からからと笑いながら、室へやの中なる女を顧かえりみる。
竹籠たけかごに熱き光りを避けて、微かすかにともすランプを隔てて、右手に違い棚、前は緑り深き庭に向えるが女である。
「画家ならば絵にもしましょ。女ならば絹を枠わくに張って、縫いにとりましょ」と云いながら、白地の浴衣ゆかたに片足をそと崩くずせば、小豆皮あずきがわの座布団ざぶとんを白き甲が滑すべり落ちて、なまめかしからぬほどは艶えんなる居ずまいとなる。
「美しき多くの人の、美しき多くの夢を……」と膝ひざ抱いだく男が再び吟じ出すあとにつけて「縫いにやとらん。縫いとらば誰に贈らん。贈らん誰に」と女は態わざとらしからぬ様さまながらちょと笑う。やがて朱塗の団扇うちわの柄えにて、乱れかかる頬ほおの黒髪をうるさしとばかり払えば、柄えの先につけたる紫のふさが波を打って、緑り濃き香油の薫かおりの中に躍おどり入る。
「我に贈れ」と髯なき人が、すぐ言い添えてまたからからと笑う。女の頬には乳色の底から捕えがたき笑の渦うずが浮き上って、瞼まぶたにはさっと薄き紅くれないを溶とく。
「縫えばどんな色で」と髯あるは真面目まじめにきく。
「絹買えば白き絹、糸買えば銀の糸、金の糸、消えなんとする虹にじの糸、夜と昼との界さかいなる夕暮の糸、恋の色、恨うらみの色は無論ありましょ」と女は眼をあげて床柱とこばしらの方を見る。愁うれいを溶といて錬ねり上げし珠たまの、烈はげしき火には堪たえぬほどに涼しい。愁の色は昔むかしから黒である。
隣へ通う路次ろじを境に植え付けたる四五本の檜ひのきに雲を呼んで、今やんだ五月雨さみだれがまたふり出す。丸顔の人はいつか布団ふとんを捨てて椽えんより両足をぶら下げている。「あの木立こだちは枝を卸おろした事がないと見える。梅雨つゆもだいぶ続いた。よう飽きもせずに降るの」と独ひとり言ごとのように言いながら、ふと思い出した体ていにて、吾わが膝頭ひざがしらを丁々ちょうちょうと平手をたてに切って敲たたく。「脚気かっけかな、脚気かな」
残る二人は夢の詩か、詩の夢か、ちょと解しがたき話しの緒いとぐちをたぐる。
「女の夢は男の夢よりも美くしかろ」と男が云えば「せめて夢にでも美くしき国へ行かねば」とこの世は汚けがれたりと云える顔つきである。「世の中が古くなって、よごれたか」と聞けば「よごれました」と※(「糸+丸」、第3水準1-89-90)扇がんせんに軽かろく玉肌ぎょっきを吹く。「古き壺つぼには古き酒があるはず、味あじわいたまえ」と男も鵞鳥がちょうの翼はねを畳たたんで紫檀したんの柄えをつけたる羽団扇はうちわで膝のあたりを払う。「古き世に酔えるものなら嬉うれしかろ」と女はどこまでもすねた体である。
この時「脚気かな、脚気かな」としきりにわが足を玩もてあそべる人、急に膝頭をうつ手を挙あげて、叱しっと二人を制する。三人の声が一度に途切れる間をククーと鋭どき鳥が、檜の上枝うわえだを掠かすめて裏の禅寺の方へ抜ける。ククー。
「あの声がほととぎすか」と羽団扇を棄すててこれも椽側えんがわへ這はい出す。見上げる軒端のきばを斜めに黒い雨が顔にあたる。脚気を気にする男は、指を立てて坤ひつじさるの方かたをさして「あちらだ」と云う。鉄牛寺てつぎゅうじの本堂の上あたりでククー、ククー。
「一声ひとこえでほととぎすだと覚さとる。二声で好い声だと思うた」と再び床柱に倚よりながら嬉しそうに云う。この髯男は杜鵑ほととぎすを生れて初めて聞いたと見える。「ひと目見てすぐ惚ほれるのも、そんな事でしょか」と女が問をかける。別に恥はずかしと云う気色けしきも見えぬ。五分刈ごぶがりは向き直って「あの声は胸がすくよだが、惚れたら胸は痞つかえるだろ。惚れぬ事。惚れぬ事……。どうも脚気らしい」と拇指おやゆびで向脛むこうずねへ力穴ちからあなをあけて見る。「九仞きゅうじんの上に一簣いっきを加える。加えぬと足らぬ、加えると危あやうい。思う人には逢あわぬがましだろ」と羽団扇はうちわがまた動く。「しかし鉄片が磁石に逢おうたら?」「はじめて逢うても会釈えしゃくはなかろ」と拇指の穴を逆さかに撫なでて澄ましている。
「見た事も聞いた事もないに、これだなと認識するのが不思議だ」と仔細しさいらしく髯を撚ひねる。「わしは歌麻呂うたまろのかいた美人を認識したが、なんと画えを活いかす工夫はなかろか」とまた女の方を向く。「私わたしには――認識した御本人でなくては」と団扇のふさを繊ほそい指に巻きつける。「夢にすれば、すぐに活いきる」と例の髯が無造作むぞうさに答える。「どうして?」「わしのはこうじゃ」と語り出そうとする時、蚊遣火かやりびが消えて、暗きに潜ひそめるがつと出でて頸筋くびすじにあたりをちくと刺す。
「灰が湿しめっているのか知らん」と女が蚊遣筒を引き寄せて蓋ふたをとると、赤い絹糸で括くくりつけた蚊遣灰が燻いぶりながらふらふらと揺れる。東隣で琴ことと尺八を合せる音が紫陽花あじさいの茂みを洩もれて手にとるように聞え出す。すかして見ると明け放ちたる座敷の灯ひさえちらちら見える。「どうかな」と一人が云うと「人並じゃ」と一人が答える。女ばかりは黙っている。
「わしのはこうじゃ」と話しがまた元へ返る。火をつけ直した蚊遣の煙が、筒に穿うがてる三つの穴を洩れて三つの煙となる。「今度はつきました」と女が云う。三つの煙りが蓋ふたの上に塊かたまって茶色の球たまが出来ると思うと、雨を帯びた風が颯さっと来て吹き散らす。塊まらぬ間うちに吹かるるときには三つの煙りが三つの輪を描えがいて、黒塗に蒔絵まきえを散らした筒の周囲まわりを遶めぐる。あるものは緩ゆるく、あるものは疾とく遶る。またある時は輪さえ描く隙ひまなきに乱れてしまう。「荼毘だびだ、荼毘だ」と丸顔の男は急に焼場の光景を思い出す。「蚊かの世界も楽じゃなかろ」と女は人間を蚊に比較する。元へ戻りかけた話しも蚊遣火と共に吹き散らされてしもうた。話しかけた男は別に語りつづけようともせぬ。世の中はすべてこれだと疾とうから知っている。
「御夢の物語りは」とややありて女が聞く。男は傍かたわらにある羊皮ようひの表紙に朱で書名を入れた詩集をとりあげて膝の上に置く。読みさした所に象牙ぞうげを薄く削けずった紙かみ小刀ナイフが挟はさんである。巻かんに余って長く外へ食はみ出した所だけは細かい汗をかいている。指の尖さきで触さわると、ぬらりとあやしい字が出来る。「こう湿気しけてはたまらん」と眉まゆをひそめる。女も「じめじめする事」と片手に袂たもとの先を握って見て、「香こうでも焚たきましょか」と立つ。夢の話しはまた延びる。
宣徳せんとくの香炉こうろに紫檀したんの蓋があって、紫檀の蓋の真中には猿を彫きざんだ青玉せいぎょくのつまみ手がついている。女の手がこの蓋にかかったとき「あら蜘蛛くもが」と云うて長い袖そでが横に靡なびく、二人の男は共に床とこの方を見る。香炉に隣る白磁はくじの瓶へいには蓮はすの花がさしてある。昨日きのうの雨を蓑みの着て剪きりし人の情なさけを床とこに眺ながむる莟つぼみは一輪、巻葉は二つ。その葉を去る三寸ばかりの上に、天井から白金しろがねの糸を長く引いて一匹の蜘蛛くもが――すこぶる雅がだ。
「蓮の葉に蜘蛛下くだりけり香を焚たく」と吟じながら女一度に数弁すうべんを攫つかんで香炉の裏うちになげ込む。「※(「虫+蕭」、第4水準2-87-94)蛸しょうしょう懸かかって不揺うごかず、篆煙てんえん遶竹梁ちくりょうをめぐる」と誦じゅして髯ひげある男も、見ているままで払わんともせぬ。蜘蛛も動かぬ。ただ風吹く毎に少しくゆれるのみである。
「夢の話しを蜘蛛もききに来たのだろ」と丸い男が笑うと、「そうじゃ夢に画えを活いかす話しじゃ。ききたくば蜘蛛も聞け」と膝の上なる詩集を読む気もなしに開く。眼は文字もじの上に落つれども瞳裏とうりに映ずるは詩の国の事か。夢の国の事か。
「百二十間の廻廊があって、百二十個の灯籠とうろうをつける。百二十間の廻廊に春の潮うしおが寄せて、百二十個の灯籠が春風しゅんぷうにまたたく、朧おぼろの中、海の中には大きな華表とりいが浮かばれぬ巨人の化物ばけもののごとくに立つ。……」
折から烈はげしき戸鈴ベルの響がして何者か門口かどぐちをあける。話し手ははたと話をやめる。残るはちょと居ずまいを直す。誰も這入はいって来た気色けしきはない。「隣だ」と髯ひげなしが云う。やがて渋蛇しぶじゃの目を開く音がして「また明晩」と若い女の声がする。「必ず」と答えたのは男らしい。三人は無言のまま顔を見合せて微かすかに笑う。「あれは画じゃない、活きている」「あれを平面につづめればやはり画だ」「しかしあの声は?」「女は藤紫」「男は?」「そうさ」と判じかねて髯が女の方を向く。女は「緋ひ」と賤いやしむごとく答える。
「百二十間の廻廊に二百三十五枚の額が懸かかって、その二百三十二枚目の額に画かいてある美人の……」
「声は黄色ですか茶色ですか」と女がきく。
「そんな単調な声じゃない。色には直なおせぬ声じゃ。強しいて云えば、ま、あなたのような声かな」
「ありがとう」と云う女の眼の中うちには憂をこめて笑の光が漲みなぎる。
この時いずくよりか二疋ひきの蟻ありが這はい出して一疋は女の膝ひざの上に攀よじ上のぼる。おそらくは戸迷とまどいをしたものであろう。上がり詰めた上には獲物えものもなくて下くだり路みちをすら失うた。女は驚ろいた様さまもなく、うろうろする黒きものを、そと白き指で軽く払い落す。落されたる拍子ひょうしに、はたと他の一疋と高麗縁こうらいべりの上で出逢であう。しばらくは首と首を合せて何かささやき合えるようであったが、このたびは女の方へは向わず、古伊万里こいまりの菓子皿を端はじまで同行して、ここで右と左へ分れる。三人の眼は期せずして二疋の蟻の上に落つる。髯なき男がやがて云う。
「八畳の座敷があって、三人の客が坐わる。一人の女の膝へ一疋の蟻が上る。一疋の蟻が上った美人の手は……」
「白い、蟻は黒い」と髯がつける。三人が斉ひとしく笑う。一疋の蟻は灰吹はいふきを上りつめて絶頂で何か思案している。残るは運よく菓子器の中で葛餅くずもちに邂逅かいこうして嬉しさの余りか、まごまごしている気合けわいだ。
「その画えにかいた美人が?」と女がまた話を戻す。
「波さえ音もなき朧月夜おぼろづきよに、ふと影がさしたと思えばいつの間まにか動き出す。長く連つらなる廻廊を飛ぶにもあらず、踏むにもあらず、ただ影のままにて動く」
「顔は」と髯なしが尋ねる時、再び東隣りの合奏が聞え出す。一曲は疾とくにやんで新たなる一曲を始めたと見える。あまり旨うまくはない。
#健康要有文化素養 & 健康要有哲學頭腦#
日本の「食料」を学ぶ
Z世代と食の未来を考える
2022年10月29日(土)、30日(日)の2日間、
「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2022」が
東京・六本木ヒルズアリーナで開催されました。
参加したZ世代の食に対する価値や食の未来に対する思いを取材しました。
「NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2022」に潜入
ニッポンフードシフトとは?
近年、食の外部化・簡便化が進み、食とその背景にある農業や農村との繋がりを意識する機会がかつてより減っているのではないでしょうか。
将来にわたり日本の、自分たちの食を確かなものにするために、消費者、生産者、食品関連事業者、日本の「食」を支えるあらゆる人々と行政が一体となって、考え、議論し、行動する国民運動として、農林水産省は2021年から「食から日本を考える。ニッポンフードシフト」をスタートしました。
ニッポンフードシフトでは、日本の食を取り巻く課題を身近なものとして考えてもらうため、例えば、公式WEBサイトで取組事例の紹介や、公式noteにおける発信、吉本興業や無印良品、テレビ東京などと連携した情報発信など、官民協働による取組を進めています。
また、消費者と生産者や事業者とが出会い、交わることで、食への新たな気づきや発見を促し、意識や行動を変えていくためのきっかけ作りを目指すイベントとして、「NIPPON FOOD SHIFT FES.(以下 NFS FES.)」を2021年10月から全国各地で開催しています。
多くの人が訪れ、関心を持って参加
「NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2022」の会場を訪ねました。
2022年10月29日、30日の両日は天候にも恵まれ、会場となった東京都港区の六本木ヒルズアリーナにはたくさんの人。会場では2日間にわたって、終日多彩な発表やトークセッションが行われ、多くの展示・体験ブースやマルシェが並びました。
これまでほとんどの会場で中心的な役割を担い、トークセッションや展示・体験ブースなどで活躍しているのが、食の未来を担う1990年代後半から2000年代生まれのZ世代の若者たち。今回も参加したZ世代はそれぞれ、農業の生産現場などを体験し、全国の生産者たちと交流した経験を活かしてNFS FES.東京2022を盛り上げました。
Z世代の展示ブースをWATCH!
龍谷大学経営学部藤岡ゼミは、ぶどう山椒の一大産地である和歌山県有田川町において、学生がフィールドワークを行い、産地を未来につなげるために取り組んだ4年間についてトークセッションで発表しました。また、有田川町の農産物や加工品等、「ぶどう山椒をかけて食べるカレー」などオリジナル開発商品を販売するブース展示も行いました。
立正大学法学部の社会学・教育学の西谷ゼミでは、「Z世代が考える!『未来の食と農』教育プロジェクト」として、学生のフィールドワークや農業体験の様子、小学生との協働授業でグループ活動を行った様子を、ブース展示とトークセッションで発表しました。
多様な大学生のマーケティングチームとスイーツの専門学校生がコラボした「100日後にできるZ世代プロデュースカフェ」ではレシピカードを配布し、スイーツも販売。
未来を担うZ世代のアクションに注目
「NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2022」で、ひときわ目を引いたのは、京都芸術大学芸術学部情報デザイン学科の学生たちが手がけた「シ展。2022-2023」。選択科目の「情報デザインプロジェクト」(担当教員 服部滋樹教授/村川晃一郎講師)という講義の中で、学生たちは食料安全保障と価格転嫁について学びました。学びを深化させるために、さまざまなリサーチを、3人から4人1チームで行いました。10チームそれぞれに異なるテーマでプロジェクトを進め、その成果をまとめたものが今回のグループ展です。
タイトルの「シ展」とは、より良い未来に向ける“始点”であり、未来を支える“支点”でもあるといいます。さらに、思考を止めてしまえば、取り返しのつかない“死点”へと向かうことになるから、どんな“視点”をもって未来を創造するのか、自分たちの手に委ねられているというZ世代の思いを込めているのだそうです。
指導にあたった教員の村川晃一郎さんは次のように話してくれました。
「課題がどこにあるのか、どのようにしたら人に伝わり、また見た人の考え方が変わるのか。そういったことを、デザインを行う際に用いる思考や手法でひも解いていくと、新しいアプローチができるのではないかと思いました。デザインを学ぶ学生たちは、思考したものをアウトプットする能力を持っているので、食の問題に対してもきっと課題解決につなげられると思います」。
そこで、学生たちがどんな課題に取り組み、どのように感じたかを10チームそれぞれの代表者に聞きました。
京都芸術大学情報デザイン学科 情報デザインプロジェクト「シ展。2022-2023」のチームリーダーたち。後列左は指導にあたった村川さん
生産者を選んで野菜を購入する自動販売機
自動販売機には生産者の情報のみを提示。その情報から生産者を選び、何が出てくるかわからない野菜との出合いを楽しんでもらうことが狙いです。会場では、協力してもらった8人の生産者の情報をフライヤーにまとめ、来場者に持ち帰ってもらいました。
オンラインで8人の生産者さんにインタビューしたのですが、知らないことだらけでとても勉強になりました。自動販売機なら野菜も気軽に買ってもらえるのではないかと思いました。
農産物のSNS型ショッピングアプリを開発
食をコミュニケーションツールと捉えて、農産物を贈り物として利用しやすくなるSNS型アプリ「わかば」を考案しました。「わかば」を使って生産者から購入した野菜をフォローしている人に送ることができ、また生産者の情報や直伝レシピも共有できます。
家族や友人には少し高価なものでも買ってあげたいと思うので、そんな気持ちを消費につなげられないかと考えました。農産物の情報の「いいね」が増えて、つながり合えるといいなと思います。
食の現状を回転パネルにデザインして問いかける
「食品添加物」「遺伝子組換え」「慣行農業と有機農業」「国産と輸入」「食料自給率」の5つのテーマについて調べ、是非や可否を述べるのではなく、すべての物事には裏表があることを踏まえ「あなたはどう思いますか」と意識喚起をする展示です。
自分が口にする食べ物のことを、私たちは本当にわかっているでしょうか。食にまつわるウワサや、知らずしらず形作られたイメージの「ホントのところ」を知り、見た人自身がこれからの食について考えてほしいです。
廃棄される野菜や果物に新たな価値を
廃棄される野菜を食べること以外で有効活用しようということから商品化を模索。野菜の色素を利用して自分たちで絵の具や石鹸、入浴剤などを製作。食品廃棄物から新素材を生み出すベンチャー企業の協力を得て、ごぼうなどから作った高強度の建材も展示しました。
今回は野菜について、食べられるのに捨てる部分の有効活用を考えましたが、ものづくりではいろいろな素材の廃棄物が出るので、そういった素材の有効活用も考えてみたいと思いました。
インスタグラムで適正な価格形成に向けた情報を発信
大手スーパーマーケットに取材に行き、食品の価値を正しく評価して販売する大切さを知ったことから、適正な価格形成を知ってもらうための展示パネルを作りました。展示を見た方が、適正な価格形成の大切さを広められるように、インスタグラムによる発信も行っています。
私たちのチームは、講義で初めて知った価格転嫁という言葉を消費者にとって一番身近な問題だと捉えました。スーパーの取り組みを見て、たくさんの人に知ってもらうべきだと思いました。
見切り品を気軽に手にしてもらうアプリを開発
賞味期限や消費期限が近いものや、規格外品などの見切り品に着目。見切り品を買ってポイントを貯め、それをこども食堂やフードバンクに寄付できるアプリ「ぴっくる」を考案。見切り品にはシールが貼ってあるので、それを店内で宝探しのように楽しんで探してほしいと考えました。
見た目や賞味期限が近いという理由で、まだ食べられるのに捨てられてしまう見切り品の中には魅力のある食品もたくさんあるし、十分手に取ってもらえる商品だということを知ってもらいたいです。
食料自給率をあげるために和食の文化、作法に着目
和食に親しみを持ち、和食を食べる頻度を増やすために、和食の作法や豆知識などをイラストで見せるフリーペーパーや展示を作成しました。和食の消費拡大から、食料自給率の上昇へつながればと考えています。
Z世代でも食べ物に対して値段で選ぶ人、写真映えを狙う人など価値観が違い、チームの中でもばらばらでした。それをどうやって一本化するか話し合って、テーマを作法や伝統に絞りました。
規格外野菜をそのまま販売するために
食品ロスの統計には、出荷前に廃棄される規格外野菜が含まれていないことを知ったことから規格外野菜のブランディングのために、みんなに注目してもらえ、ふっと笑えて親しんでもらえるキャッチコピーを考えてポスターを作りました。
コピーを考えるのは難しかったけれど、楽しんで取り組めました。「できそこ」というコピーは、形は規格外でも味や品質が「できそこないではない」という意味で「ない」を削ったものです。
規格外野菜や果物のジュースやスイーツの店
規格外野菜や果物を購入し、それをジュースやスイーツなどにして提供するカフェ店舗の内装やパッケージを展示。メニューもチームで考案しました。店名は「砦(toride)」。自分たちZ世代が食の問題の最後の砦になるという決意を込めたネーミングです。
規格外野菜をテーマにカフェづくりをしようと考えたのは、ごみの低減に取り組んでいる量り売りスーパー「斗々屋」にフィールドワークを行い、フードロスへの意識を多くの人に持ってもらう必要を感じたことがきっかけです。
地域支援型農業「CSA」を広めるために
消費者が農産物の購入費を先払いすることで生産者と消費者が相互に支え合う仕組み「CSA(Community Supported Agriculture)」の新しいバージョンとして、飲食店と契約して、誰もがCSAに参加できる場所づくりを考案。「食について考える、新しい居酒屋」の仕組みのデザインと店舗デザインを展示しました。
CSAのことを初めて知り、取り組んでいる生産者さんのお話にワクワクしました。農産物を買う時も、自分がきちんと選ぶことで状況が変わっていくことを知り、その大切さがわかりました。
推進パートナー募集
あなたもニッポンフードシフト!
ニッポンフードシフトロゴ
ニッポンフードシフトの趣旨に賛同・共感するすべての企業、団体、個人を対象に、推進パートナーを募集しています。推進パートナーとして登録すると、ロゴマークを広告、名刺、商品などに使用できるほか、店頭やキャンペーンなどにも無償で利用することができます。さらに登録者が主催するイベントや催事において、「ニッポンフードシフト」の名義を使用することができます。登録については以下のサイトをご覧ください。
日本の「食料」を学ぶ
Z世代と食の未来を考える
2022年10月29日(土)、30日(日)の2日間、
「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2022」が
東京・六本木ヒルズアリーナで開催されました。
参加したZ世代の食に対する価値や食の未来に対する思いを取材しました。
「NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2022」に潜入
ニッポンフードシフトとは?
近年、食の外部化・簡便化が進み、食とその背景にある農業や農村との繋がりを意識する機会がかつてより減っているのではないでしょうか。
将来にわたり日本の、自分たちの食を確かなものにするために、消費者、生産者、食品関連事業者、日本の「食」を支えるあらゆる人々と行政が一体となって、考え、議論し、行動する国民運動として、農林水産省は2021年から「食から日本を考える。ニッポンフードシフト」をスタートしました。
ニッポンフードシフトでは、日本の食を取り巻く課題を身近なものとして考えてもらうため、例えば、公式WEBサイトで取組事例の紹介や、公式noteにおける発信、吉本興業や無印良品、テレビ東京などと連携した情報発信など、官民協働による取組を進めています。
また、消費者と生産者や事業者とが出会い、交わることで、食への新たな気づきや発見を促し、意識や行動を変えていくためのきっかけ作りを目指すイベントとして、「NIPPON FOOD SHIFT FES.(以下 NFS FES.)」を2021年10月から全国各地で開催しています。
多くの人が訪れ、関心を持って参加
「NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2022」の会場を訪ねました。
2022年10月29日、30日の両日は天候にも恵まれ、会場となった東京都港区の六本木ヒルズアリーナにはたくさんの人。会場では2日間にわたって、終日多彩な発表やトークセッションが行われ、多くの展示・体験ブースやマルシェが並びました。
これまでほとんどの会場で中心的な役割を担い、トークセッションや展示・体験ブースなどで活躍しているのが、食の未来を担う1990年代後半から2000年代生まれのZ世代の若者たち。今回も参加したZ世代はそれぞれ、農業の生産現場などを体験し、全国の生産者たちと交流した経験を活かしてNFS FES.東京2022を盛り上げました。
Z世代の展示ブースをWATCH!
龍谷大学経営学部藤岡ゼミは、ぶどう山椒の一大産地である和歌山県有田川町において、学生がフィールドワークを行い、産地を未来につなげるために取り組んだ4年間についてトークセッションで発表しました。また、有田川町の農産物や加工品等、「ぶどう山椒をかけて食べるカレー」などオリジナル開発商品を販売するブース展示も行いました。
立正大学法学部の社会学・教育学の西谷ゼミでは、「Z世代が考える!『未来の食と農』教育プロジェクト」として、学生のフィールドワークや農業体験の様子、小学生との協働授業でグループ活動を行った様子を、ブース展示とトークセッションで発表しました。
多様な大学生のマーケティングチームとスイーツの専門学校生がコラボした「100日後にできるZ世代プロデュースカフェ」ではレシピカードを配布し、スイーツも販売。
未来を担うZ世代のアクションに注目
「NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2022」で、ひときわ目を引いたのは、京都芸術大学芸術学部情報デザイン学科の学生たちが手がけた「シ展。2022-2023」。選択科目の「情報デザインプロジェクト」(担当教員 服部滋樹教授/村川晃一郎講師)という講義の中で、学生たちは食料安全保障と価格転嫁について学びました。学びを深化させるために、さまざまなリサーチを、3人から4人1チームで行いました。10チームそれぞれに異なるテーマでプロジェクトを進め、その成果をまとめたものが今回のグループ展です。
タイトルの「シ展」とは、より良い未来に向ける“始点”であり、未来を支える“支点”でもあるといいます。さらに、思考を止めてしまえば、取り返しのつかない“死点”へと向かうことになるから、どんな“視点”をもって未来を創造するのか、自分たちの手に委ねられているというZ世代の思いを込めているのだそうです。
指導にあたった教員の村川晃一郎さんは次のように話してくれました。
「課題がどこにあるのか、どのようにしたら人に伝わり、また見た人の考え方が変わるのか。そういったことを、デザインを行う際に用いる思考や手法でひも解いていくと、新しいアプローチができるのではないかと思いました。デザインを学ぶ学生たちは、思考したものをアウトプットする能力を持っているので、食の問題に対してもきっと課題解決につなげられると思います」。
そこで、学生たちがどんな課題に取り組み、どのように感じたかを10チームそれぞれの代表者に聞きました。
京都芸術大学情報デザイン学科 情報デザインプロジェクト「シ展。2022-2023」のチームリーダーたち。後列左は指導にあたった村川さん
生産者を選んで野菜を購入する自動販売機
自動販売機には生産者の情報のみを提示。その情報から生産者を選び、何が出てくるかわからない野菜との出合いを楽しんでもらうことが狙いです。会場では、協力してもらった8人の生産者の情報をフライヤーにまとめ、来場者に持ち帰ってもらいました。
オンラインで8人の生産者さんにインタビューしたのですが、知らないことだらけでとても勉強になりました。自動販売機なら野菜も気軽に買ってもらえるのではないかと思いました。
農産物のSNS型ショッピングアプリを開発
食をコミュニケーションツールと捉えて、農産物を贈り物として利用しやすくなるSNS型アプリ「わかば」を考案しました。「わかば」を使って生産者から購入した野菜をフォローしている人に送ることができ、また生産者の情報や直伝レシピも共有できます。
家族や友人には少し高価なものでも買ってあげたいと思うので、そんな気持ちを消費につなげられないかと考えました。農産物の情報の「いいね」が増えて、つながり合えるといいなと思います。
食の現状を回転パネルにデザインして問いかける
「食品添加物」「遺伝子組換え」「慣行農業と有機農業」「国産と輸入」「食料自給率」の5つのテーマについて調べ、是非や可否を述べるのではなく、すべての物事には裏表があることを踏まえ「あなたはどう思いますか」と意識喚起をする展示です。
自分が口にする食べ物のことを、私たちは本当にわかっているでしょうか。食にまつわるウワサや、知らずしらず形作られたイメージの「ホントのところ」を知り、見た人自身がこれからの食について考えてほしいです。
廃棄される野菜や果物に新たな価値を
廃棄される野菜を食べること以外で有効活用しようということから商品化を模索。野菜の色素を利用して自分たちで絵の具や石鹸、入浴剤などを製作。食品廃棄物から新素材を生み出すベンチャー企業の協力を得て、ごぼうなどから作った高強度の建材も展示しました。
今回は野菜について、食べられるのに捨てる部分の有効活用を考えましたが、ものづくりではいろいろな素材の廃棄物が出るので、そういった素材の有効活用も考えてみたいと思いました。
インスタグラムで適正な価格形成に向けた情報を発信
大手スーパーマーケットに取材に行き、食品の価値を正しく評価して販売する大切さを知ったことから、適正な価格形成を知ってもらうための展示パネルを作りました。展示を見た方が、適正な価格形成の大切さを広められるように、インスタグラムによる発信も行っています。
私たちのチームは、講義で初めて知った価格転嫁という言葉を消費者にとって一番身近な問題だと捉えました。スーパーの取り組みを見て、たくさんの人に知ってもらうべきだと思いました。
見切り品を気軽に手にしてもらうアプリを開発
賞味期限や消費期限が近いものや、規格外品などの見切り品に着目。見切り品を買ってポイントを貯め、それをこども食堂やフードバンクに寄付できるアプリ「ぴっくる」を考案。見切り品にはシールが貼ってあるので、それを店内で宝探しのように楽しんで探してほしいと考えました。
見た目や賞味期限が近いという理由で、まだ食べられるのに捨てられてしまう見切り品の中には魅力のある食品もたくさんあるし、十分手に取ってもらえる商品だということを知ってもらいたいです。
食料自給率をあげるために和食の文化、作法に着目
和食に親しみを持ち、和食を食べる頻度を増やすために、和食の作法や豆知識などをイラストで見せるフリーペーパーや展示を作成しました。和食の消費拡大から、食料自給率の上昇へつながればと考えています。
Z世代でも食べ物に対して値段で選ぶ人、写真映えを狙う人など価値観が違い、チームの中でもばらばらでした。それをどうやって一本化するか話し合って、テーマを作法や伝統に絞りました。
規格外野菜をそのまま販売するために
食品ロスの統計には、出荷前に廃棄される規格外野菜が含まれていないことを知ったことから規格外野菜のブランディングのために、みんなに注目してもらえ、ふっと笑えて親しんでもらえるキャッチコピーを考えてポスターを作りました。
コピーを考えるのは難しかったけれど、楽しんで取り組めました。「できそこ」というコピーは、形は規格外でも味や品質が「できそこないではない」という意味で「ない」を削ったものです。
規格外野菜や果物のジュースやスイーツの店
規格外野菜や果物を購入し、それをジュースやスイーツなどにして提供するカフェ店舗の内装やパッケージを展示。メニューもチームで考案しました。店名は「砦(toride)」。自分たちZ世代が食の問題の最後の砦になるという決意を込めたネーミングです。
規格外野菜をテーマにカフェづくりをしようと考えたのは、ごみの低減に取り組んでいる量り売りスーパー「斗々屋」にフィールドワークを行い、フードロスへの意識を多くの人に持ってもらう必要を感じたことがきっかけです。
地域支援型農業「CSA」を広めるために
消費者が農産物の購入費を先払いすることで生産者と消費者が相互に支え合う仕組み「CSA(Community Supported Agriculture)」の新しいバージョンとして、飲食店と契約して、誰もがCSAに参加できる場所づくりを考案。「食について考える、新しい居酒屋」の仕組みのデザインと店舗デザインを展示しました。
CSAのことを初めて知り、取り組んでいる生産者さんのお話にワクワクしました。農産物を買う時も、自分がきちんと選ぶことで状況が変わっていくことを知り、その大切さがわかりました。
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