続黄梁(上)
田中貢太郎

 福建の曾孝廉そうこうれんが、第一等の成績で礼部の試験に及第した時、やはりその試験に及第して新たに官吏になった二三の者と郊外に遊びに往ったが、毘廬禅院びろぜんいんに一人の星者うらないしゃが泊っているということを聞いたので、いっしょに往ってその室へやへ入った。星者は曾の気位の高いのを見ておべっかをつかった。曾は扇を揺うごかしながら微笑して聞いた。
「宰相になる運命があるのかないのか」
 星者は容かたちを正して、
「二十年したら太平の宰相となります」
 と言った。曾はひどく悦よろこんで、気位がますます高くなった。
 その帰りに小雨に値あうた。曾はそこで仲間といっしょに旁かたわらの寺へ入って雨を避けた。寺の中には一人の老僧がいたが、目の奥深い鼻の高い僧で、蒲団の上に坐ったなりに傲慢な顔をして礼もしなかった。一行は手をあげて礼をして、榻だいにあがってめいめいに話したが、皆曾が宰相になれると言われたことを祝った。曾の心はひどく高ぶって、仲間に指をさして言った。
「僕が宰相になったなら、張兄を南方の巡撫にし、中表いとこを参軍にしよう、我家うちの年よりの僕げなんは小千把しょうせんはになるさ、僕の望みもそれで足れりだ」
 一座は大笑いをした。俄かにざあざあと降る雨の音が聞えてきた。曾はくたびれたので榻ねだいの間に寝た。二人の使者が天子の手ずから書いた詔みことのりを持ってきたが、それには曾太師を召して国計を決すとしてあった。曾は得意になって大急ぎで入朝した。
 天子は曾に席をすすめさして、温かみのある言葉で何かとおたずねになったが、やや暫くして、曾に三品ほん以下の官は、意のままに任免することをお許しになり、宰相の着ける蟒衣ぼういと玉帯ぎょくたいに添えて名馬をくだされた。曾はそこで蟒衣を被き、玉帯を着け、お辞儀をして天子の前をさがって家へ帰ったが、そこは旧もとの自分の住宅でなかった。絵を画いた棟、彫刻をほどこした榱たるき、それは壮麗の極を窮めたものであった。曾も自分で何のためににわかにこんな身分になったかということが解らなかった。そして、髯をひねりながら小さな声で人を呼ぶと、その返事が雷のように高く響いた。
 俄かに公卿から海から獲れた珍しい物を贈ってきた。傴僂せむしのように体を屈めてむやみにお辞儀をする者が家の中に一ぱいになった。参朝すると六卿がうやまいあわてて、屣はきものをあべこべに穿はいて出て迎えた。侍郎じろうの人達とはちょっと挨拶して話をした。そして、それ以下の者には頷いてみせるのみであった。
晋国の巡撫から十人の女の楽人を餽おくってきた。それは皆美しい女であったが、そのうちでも嫋嫋じょうじょうという女と仙仙という女がわけて美しかった。二人はもっとも曾に寵愛せられた。曾はもう衣冠束帯して朝廷にも往かずに、毎日酒宴さかもりを催していた。ある日曾は、自分が賤しかった時、村の紳縉王子良しんしんおうしりょうという者の世話になったことを思いだして、自分は今こんなに栄達しているが、渠かれはまだ官途につまずいていて昇進しないから、一つ引きたててやらなくてはならないと思って、翌朝上疏じょうそして王を諫議大夫に推薦し、そこで天子の諭旨を奉じて、たちどころに引きあげて用いた。また郭太僕かくたいぼくがかつて自分をにらみつけたことを思いだして、そこで、呂給諫ろきゅうかん、及び侍御の陳昌たちを呼んで謀はかりごとを授けたが、翌日になると郭太僕を弾劾した上書が彼方此方から出てきた。曾はそこで天子の旨を奉じて郭太僕の官職を削った。そして恩も怨みも返してしまって、頗る快い気もちであった。
 ある時郊外を通っていると、酔っぱらいが来て車に突きあたった。そこで人をやって縛って京兆尹けいちょういんに渡した。京兆尹は獄卒に命じて杖で敲たたいて殺さした。付近の人びとは皆勢いに畏れて上等の産物を献上した。それから曾は非常に富裕になった。
 間もなく嫋嫋と仙仙が前後してなくなった。曾は朝夕二人のことを追想していたが、不意に憶いだしたことがあった。それは昔東隣の女を見て美しかったので、いつも妾にしたいと思ったが、財力が弱くておもうとおりにならないことであった。曾はそこで今こそその思いをとげることができると思って、頭だった数人の僕げなんをやって、無理にその家へ金をやった。女はすぐ籐の輿に乗って曾の許もとへ来た。それは昔見た時と較べて一段の艶を増していた。曾はもう自分が望んでいたことでその望みの達しられないものはなかった。
数年したところで、朝廷の官吏の中に窃ひそかに曾の専横を非議する者があるようであったが、しかし、それぞれ自分のことを考えて口に出すものはなかった。曾もまたおもいあがって、それに注意しなかった。龍図学士包りゅうとがくしほうという者があって上疏した。その略には、
「窃におもんみるに曾某は、もと一飲賭の無頼、市井の小人、一言の合、栄、聖眷せいけんを膺うけ、父は紫し、児は朱しゅ、恩寵極まりなし。躯からだを捐すて頂を糜びし、もって万一に報ずるを思わず、かえって胸臆きょうおくを恣ほしいままにし、擅ほしいままに威福を作なす。死すべきの罪、髪を擢ぬきて数えがたし。朝廷の名器、居おきて奇貨をなし、肥瘠ひそうを量欠りょうけつして、価の重軽をなす。因って公卿将士、尽く門下に奔走す。估計夤縁こけいいんえん、儼げんとして負販ふはんの如く、息を仰ぎ塵を望む、算数すべからず。或は傑士賢臣、肯うなずいて阿附あふせざる有あれば、軽ければ則すなわち之を間散かんさんに置き、重ければ則ち褫うばいてもって氓みんを編す。甚しきは且つ一臂袒ひたんせざれば、輒すなわち鹿馬の奸に迕あいて、遠く豺狼ひょうろうの地に竄ざんせられ、朝士之がために寒心す。また且つ平民の膏腴こうゆ、肆ほしいままに貪食するに任す。良家の女子、強いて禽妝きんしょうを委して、※気冤氛れいきえんふん[#「さんずい+診のつくり」、184-16]、暗く天日無し。奴僕どぼく一たび到れば、則ち守令顔を承うけ、書函一たび投ずれば、則ち司院法を枉まぐ。或は廝養しようの児、瓜葛かかつの親有れば則ち伝に乗じ、風行雷動す。地方の供給稍やや遅くして、馬上の鞭撻立所に至る。人民を荼毒とどくし、官府を奴隷にし、扈従臨むところ野に青草無し。而して某方まさに炎々赫赫、寵を怙たのみて悔ゆるなく、召対しょうたい方まさに闕下けつかに承け、萋斐せいひ輒すなわち君前に進む。委蛇いい才わずかに公より退けば、笙歌已に後苑に起る。声色狗馬せいしょくくば、昼夜荒淫、国計民生、念慮に存ずるなし。世上寧むしろ此の宰相有らんや。内外駭訛がいか、人情洶々きょうきょう、若し急に斧※ふしつ[#「金+質」、185-5]の誅を加えずんば、勢必ず操莽そうぼうの禍を醸成せん。臣夙夜しんしゅくや祗つつしみ懼れ、敢て寧処ねいしょせず。
上奏は終った。曾はそれを聞いて顫えあがった。それはちょうど冰水ひょうすいを飲んだように。しかし幸いに天子は心にゆとりのある方であったから、宮中に留め置いて発表しなかった。継いで吏部戸部礼部兵部刑部工部の給事中、各道の監察御吏、及び九卿が、それぞれ曾の罪悪を上奏弾劾した。
 そこで昨日まで門口に来てお辞儀をして、曾をかりの父親と呼んでいたような者も、顔をそむけるようになった。朝廷では天子の旨を奉じて曾の家を没収して、曾を雲南軍に往かせることにした。曾の子の任は平陽の太守であったが、もう人をやって吟味をさしてあった。曾は家を没収せられ雲南軍にやられるということを聞かされて驚きおそれていると、やがて数十人の剣を帯び戈ほこを操った武士が来て、そのまま内寝いまへ入って曾の衣冠を褫はいで、妻といっしょに縛った。みるみるうちに数人の人夫が財宝を庭に出しはじめた。金銀銭紙幣数百万、真珠瑪瑙めのうの類数百斛ひゃくこく、幕まく、簾すだれ、榻類これまた数千事。そして児こどもの襁褓おむつや女の※くつ[#「焉」の「正」に代えて「臼」、186-4]などは庭や階段にちらばって見えた。曾は一いちそれを見て悲しみもだえた。また不意に一人の者が曾の愛していた美しい妾を掠奪して往った。妾は髪をふりみだして啼いていた。もうその玉のような姿もよる所がなくなって、悲しみの火が心を焼くようであるが、どうすることもできないと思ったのか、憤りを含めながら敢て何も言わなかった。
みるみるうちに楼閣も倉庫も、一様に封印してしまった。護送の役人は曾を怒鳴りつけておったてた。夫婦は羅うすものの裾をひきずりながら出たが、泣くこともできなかった。曾は歩くのが苦しいので悪い車でも手に入れて乗ろうとしたがそれもできなかった。
 すこし往ったところで、妻は足が弱ってつまずきそうになった。曾は時どき片手を出して引いてやった。またすこし往くと自分もまたつかれてしまった。前方むこうを見ると高い山が半天にそそりたっていた。曾はとてもその山を越えることができないと思った。曾は妻と向きあって泣いた。しかし、護送の役人がこわい目をして見にきて、すこしも足を停めることをゆるさなかった。その時、夕陽がもう入っていたが、泊る所がないので、しかたなしに跛びっこをひきながら往った。山の腰にまで往った頃、妻の力が尽きてしまって、路ばたに坐って泣きだした。曾もまた足を停めて休んだ。護送の役人に怒鳴られながら。と、たちまちたくさんの人声が騒がしく聞えてきた。それは盗賊の群で、手に手に刀を持って襲いかかってきた。護送の役人はひどく驚いて逃げてしまった。曾はひざまずいて言った。
「わしは左遷せられて往くところだ、何もない、宥ゆるしてくれ」
 盗賊は目をぎらぎらと光らして言った。
「俺達は、きさまに無実の罪をおわされたものだ、きさまの頭をもらいにきたのだ、他にほしい物はないのだ」
 曾は怒鳴った。
「わしは罪を持っておるが、それでも朝廷の大臣だ、盗賊のぶんざいで何をする」
 盗賊もまた怒って巨きな斧で曾の首を斬った。頭は地の上に堕ちてその音が聞えた。曾は驚くと共に疑うた。そこへ二疋の鬼おにが来て、曾の両手を背に縛っておったてて往った。
 数時間して一つの都へ入った。そして、間もなく宮殿へ往った。宮殿の上には一人の醜い形をした王がいて、几つくえに憑よりかかって罪を決めていた。曾は這うようにして前へ出て往った。王は書類に目をやって、わずかに数行見ると、ひどく怒って言った。
「これは君を欺き国を誤るの罪だ、油鼎ゆていに置くがいい」
 たくさんの鬼達がそれについて叫んだが、その声は雷のようであった。そこで一疋の巨きな鬼が来て曾をひっつかんで階下へ往った。そこに大きな鼎かなえがあって、高さが七尺ばかり、四囲ぐるりに炭火を燃やして、その足を真紅に焼いてあった。曾はおそろしくて哀れみを乞うて泣いた。逃げようとしても逃げることはできなかった。鬼は左の手をもって髪をつかみ、右の手で踝くるぶしを握って、鼎の中へ投げこんだ。曾の物のかたまりのような小さな体は、油の波の中に浮き沈みした。皮も肉も焦やけただれて、痛みが心にこたえた。沸きたった油は口に入って、肺腑を烹にられるようであった。一思いに死のうと思っても、どうしても死ぬることができなかった。ほぼ食事をする位の時間が経つと、鬼は巨きな叉さすまたで曾を取り出して、また堂の下へ置いた。王はまた書類をしらべて怒って言った。

雨夜草紙
田中貢太郎

 小さくなった雨が庭の無花果いちじくの葉にぼそぼそと云う音をさしていた。静かな光のじっと沈んだ絵のような電燈の下で、油井あぶらい伯爵の遺稿を整理していた山田三造さんぞうは、机の上に積み重ねた新聞雑誌の切抜きりぬきや、原稿紙などに書いたものを、あれ、これ、と眼をとおして、それに朱筆しゅふでを入れていた。当代の名士で恩師であった油井伯爵が死亡すると、政友や同門からの推薦によって、その遺稿を出版することになり、できるなら百日祭までに、伯爵が晩年の持論であった貴族に関する議論だけでも活字にしたいと思って、編纂へんさんに着手してみると、思いのほかに時間がとれて、仕事が進まないのでその当時は徹夜することも珍しくなかった。
 一時間も前から眼を通していた二十頁ページに近い菊判の雑誌の切抜がやっと終った。三造は一服するつもりで、朱筆しゅふでを置き、体を左斜ひだりななめにして火鉢ひばちの傍にある巻煙草の袋を執とり、その中から一本抜いてマッチを点つけた。夜よはよほど更ふけていた。さっき便所へ往った時に十二時と思われる時計の音を聞いたが、それから後のちは時間に対する意識は朦朧もうろうとなっていた。ただ時間と空間に支配せられた、頗すこぶる疲労し切った存在が意識せられるに過ぎなかった。
 雨の音はもう聞えなかった。彼は二本目の煙草を点けたところで、その煙が円まるい竹輪麩ちくわふを切ったように一つずつ渦を巻いて、それが繋つながりながら飛んで往くのに気が注ついた。彼は不思議な珍らしい物を見つけたと云う軽い驚異の眼でそれを見ながら、ゆっくりゆっくり煙を吐いた。煙はやはり竹輪麩のように渦を巻いて、それが連続しながら天井の方へ昇って往った。そして、その靡なびきがぴったり止んで動かなくなったかと思うと、その煙の色がみるみる濃くなり、それが引締るようになると、ものの輪廓りんかくがすうと出来た。肩の円みと顔が見えて、仙台平せんだいひらの袴はかまを穿はいた男が眼の前に立った。三造はその中古ちゅうぶるになった袴の襞ひだの具合に見覚えがあった。
「どうだ、山田」
 と、前に立った人は懐しそうに云って、机の横に胡座あぐらをかくように坐り、
「伯はくの遺稿は、もうだいぶん進んだかね、あれ程有った伯の政友同志は、皆伯を棄すて去った中で、君達数人が、ほんとうに伯のことを思っていてくれたのは、実に感謝の他はない、吾輩も晩年の伯が甚はなはだお気の毒であったから、いつも傍にいてあげた、君達はたびたび伯から、木内きうちの夢を見たよと云われたことがあるだろう、あれが吾輩の傍にいた証拠だ」
 三造は膝ひざを直してかしこまっていた。彼はその場合、何の矛盾も感ぜずに、非常な敬虔けいけんな心を持って先輩に対していた。油井伯爵を首領に戴いただいた野党の中の智嚢ちのうと云われた木内種盛きうちたねもりは、微髭うすひげの生えた口元まで、三十年前ぜんとすこしも変らない精悍せいかんな容貌を持っていた。
「しかし、もう、何も往くべき処へ往った、我が党の足痕あしあとへは、もう新しい世界の隻足かたあしが来ている、吾輩の魂も、これから永遠の安静に入いるべき時が来たから、最後の言げんとして、君にまで懺悔ざんげして置きたいことがあってやって来た」
 三造は頭をさげた。
「君は、吾輩が至誠しせい病院で斃たおれたことを覚えているだろう」
 眼に残っている金盥かなだらいの血、俄然容態が変って危険に陥おちいったと云う通知を得て、あたふたと駈かけつけて往く先輩の一人に跟ついて、至誠病院の病室へ入った三造は、呼吸いきを引きとったばかりの木内の顔に、白いガーゼのかけてあるのを見た。その枕頭まくらもとには死人の吐いた血が金盥の中に冷たく光っていた。
(しまった、しまった、しまった)
 感情家の先輩は、両手をひしと握りしめて、その拳こぶしを胸のあたりで上下に揮ふり動かしながら、床をどしどしと踏んだ。そこには至誠堂病院の院長青木寛かんをはじめ、二三人の医師が粛然しゅくぜんとして立っていた。先輩の眼は院長に往った。
(何故なぜ死んだのです、何故死んだのです、木内君は何故死んだのです)
 先輩の眼は憎悪に燃えていた。
(急に容態が変じました、いろいろと手を尽してみましたが、どうも残念でした)
 院長はすまして云った。その冷ひややかな調子は三造にまで反感をおこさせた。
(残念と云ってしまえばそれまでだが、この男の体をどう思っているのです)
 先輩は怒鳴どなりだした。当時閥族ばつぞく政府へ肉薄して、政府をして窘窮きんきゅうの極に陥おとしいれていた野党の中でも、その中堅とせられている某党の智嚢ちのうの死亡は、野党にとっての一大打撃であった。三造は先輩の憤激するのも無理はないと思った。
(実にお気の毒です)
 院長はまた冷ひややかに云った。先輩の眼は金盥かなだらいに往った。先輩の熱した頭はやや醒さめかけていた。
(胃腸の病やまいに、こんなに血を吐くことがあるのですか)
(無いにもかぎりません)
(しかしどうもおかしいのですね、これまで木内君は、ちょいちょい胃腸が悪いが、何時いつも五六日位、口養生くちようじょうさえすれば、すぐ癒なおったし、今度も別に大したこともないが、下宿では政友が押しかけて来て煩うるさいから、保養のつもりで入院すると云ってた位だから、こんなことはあらわれないはずだ)
(私もはじめには、たいしたことはないと思っておりましたが、急にこんなになりました、どうもお気の毒です)
 そこへ三四人の同志が来たので、その先輩と院長の応対はそれっきりになったが、その後あとでも同志の中では、三造の先輩と同じように木内の死因に疑いを挟んで、院長と交渉した者もあったと云うことを聞いた。また、その野党の総理であった油井伯爵は、関西方面へ旅行中、旅先でそれを聞いて驚いて帰京したが、これまたその死因を疑って、死体を解剖に附ふすると云って口惜くやしがったけれども、結局そのままになってしまった。三造はその当時、その周囲から口ぐちに、
(木内君は毒殺せられた)
 と云うことを聞いた。そして、その院長が次第に社会的に栄達えいたつして、男爵を授さずけられた時にも、
(木内を殺した功こうさ)
 と、云うようなことを云う者があって、忘れていた過去の記憶を呼び起されたこともあった。……
「あれは、君、僕はあの時、青木のためにガラスの粉末を飲まされたのだ、それを青木に頼んだ者は、三田尻みたじりと山口さ、実に卑怯千万ひきょうせんばんな奴だが、謀はかりごとは見事図に当って、野党の歩調が乱れ、予算の大削減にも逢あわず、内閣も倒壊せずに済んださ、その時から青木は、もう男爵になることになっていた」
 三造はまた頭をさげた。
「僕はこの悪漢に対して、すぐ思い知らしてやろうと思ったが、そのままでは復讐の効力が強くないから、時節の来るのを待っていたのだ、が、その時節がとうとうやって来た、君は昨年から本年にかけて、彼奴あいつの家に大きな不幸の来たのを知ってるだろう、それさ、彼奴は思いのままに男爵になり、金にも名誉にも不足が無くなったので、このうえは、二人の男の子を立派な人間にしたいと思いだした、彼奴が時どき己じぶんの室へやで、細君さいくんや親しい朋友ともだちに向って、
(あの二人さえ、一人前の人間になってくれるなら、もう何も遺憾いかんなことはない)
 などと云っているのを見て、僕は、
(今に見ろ、一人前の人間になりかけたところで、復讐してやるぞ)
 と呟つぶやいたことがあったさ、それで、二人とも大学を出たので、彼奴は知人の間を運動して、兄の方の小供を満伊みつい商会へ入れ、弟は医科だから、己の経営している病院の副院長と云う事にしたのだ、
 復讐の舞台が出来たのだよ、
 そこで昨年になって、サンフランシスコの支店長となった兄の子の方から手をくだしたのだ、爺親おやじの血を受けて、意志の強い比較的厳格な奴を、先まずオペラへ引きだして、その座の人気役者で腕の凄い女に関係さして、その手でうんと金を絞らしたら、奴やっこさん苦しくなり、部下となっている遊朋友あそびともだちに勧められて、投機に手を出したところが、みるみる六十万円と云う穴を開けてしまったさ、それで、一方女の方では、年少とししたの情夫があって、奴さんから絞り執とった金を、その情夫と媾曳あいびきの費用にして遊んでいたのを、奴さんうすうす知って、煩悶はんもんしているところへ、投機の一件が本店の方へ知れて、本店から急に呼び返されたのでいよいよ困り、このうえはなんとか身の所置をしなくてはならないと思って、考え考え、ふらふらと彼かの女の許もとへ、足の向くままに往ってみたさ、ホテルの三階になった彼かの女の室へやへは、年少とししたの情夫が来ていて、微暗うすぐらい電燈の下で話していたが、奴さんは入口へ立って扉ドアを叩たたこうとすると、不思議に開あいているので、そのまま静しずかに入って往ったのだ、中の二人は睦むつまじそうに話しているところへ、不意の闖入者ちんにゅうしゃがあったので、びっくりして離れ離れになって起たちあがったが、入って来た者が奴さんだと知ると、平生へいぜいからばかにしきっている女は、
(犬のようにそっと入って来るなんて、貴郎あなたはよっぽど卑怯者ひきょうものですわね)
 と云うと、奴さんしかたなく笑いながら、
(そう云ってくれるな、開あいていたから入ったまでだ、たくらんでそっと入ったものじゃないよ)
 と、穏かに云ったものの、うすうす知っている情夫の青年と睦じそうにしているところを見せつけられたので、頭の中は穏かでなかった、
(だから日本人は嫌いと云うのですよ、嘘つき、今私が締めた扉ドアが、どうして開あいてるのです、なにか私の秘密でも探ろうと思って、合鍵を持って来て、それで開けたのでしょう、出て往ってください、一刻も置くことはなりません)
と、女は情夫との媾曳あいびきの場所を見られた腹立ちまぎれに怒鳴どなりだした、すると奴やっこさんむらむらとして来た。
(よし、お前のような恩知らずの畜生ちくしょうのところには、おれと云ってもおってやらないさ、帰る)
 と云うと、
(帰ってくださいとも、犬のような奴は、一刻も置くことは出来ません、帰ってください、出てください)
 と、女は奴さんに向って進んで来て、突き飛ばしそうにする、奴さんも肱ひじを張って女を迎えようとしたが、思い返して室へやの外へ出た、女は追って来て扉ドアをぴしりと締めたさ、室へやの出口には、蒼白あおじろい瓦斯燈がすとうの光があって、その光の中に僕の顔が浮き出ていたが、奴さんは僕の顔を知らないから、
(変な顔が見えたぞ、頭の具合かな)
 と、眼をつぶって頭を一つ揮ふったさ、しかし、僕はまだ顔を出していたから、奴さんまた僕の顔を見たが、もうその時は、頭の具合かなどと、己じぶんの頭を疑ってみるような反省力は無くなっている、奴さんは恐れて、螺旋形らせんけいの階段を走りおりて街路とおりへでたのだ、そして、奴さんの意識は朦朧もうろうとなってしまったさ、奴さんは人道じんどうも車道しゃどうも区別なしに歩いていると、荷物かもつ自動車がやって来たさ、奴さんは腹部を引かれて大腸が露出したが、それでも二日ばかり生きていたのだ、君は昨年の九月の新聞に、満伊商会の支店長が過あやまって自動車に轢ひかれて、死亡したと云う記事の載っていたのを読んだことがあるだろう、あれさ」
 三造は頷うなずいてみせた。

#吉本此那# 食べ歩き

2024.04.26

みなさんこんばんは

ココナです!

明日は、久しぶりの個別握手会です!

【場所】

有明セントラルタワーホール&カンファレンス ホールB

ココナは

16:30〜17:30 4️⃣部です〜❕

当日券も販売されます!

会えるの楽しみにしてます❤️

みなさんGWの予定教えてくれてありがとう

明日、明後日の握手会来てくれる方

楽しみに待ってるね〜!!

お仕事、バイトの方、頑張ってねー✊

何か予定ある方、楽しんでね〜!!

今日はお散歩してたら、学校帰りの小学生がたくさんいてみんな半袖でした

夕方に外出てもあったかくて、どんどん夏に向かってるな〜と感じました。

この間妹が遠足で岐阜県の飛騨高山に行ったそうです!!

いいな〜〜

ココナは家族とも、学校の行事でも行ったことあります。

ちょっと金沢のひがし茶屋街に似た雰囲気でいろいろな食べ歩きができるのですが、

なんと、

その通りのスピーカーから〝卒業まで〟が流れていたんだってー!!

嬉しいな〜

飛騨高山の食べ歩き、大好きです

肉寿司、五平餅、飛騨牛まん・・・

みなさんは行ったことありますか??

また行きたいな〜³₃

食べ歩きって歩きながら景色を見たり美味しいものたくさんあって大好きです

鎌倉、浅草、京都の食べ歩きしたい!!!

この間すずのブログで、浅草行きたいって書いてあったのでそのブログを見た瞬間、一緒に行きたい!って連絡しました

 

昨日のアメトーーク!見た方いますか?笑

金沢大好き芸人っていう回だったんです!少し遅い時間だったけど見てました笑

たくさん知っている食べ物やお店の名前が出てきて地元県民として嬉しかったです^_^

私はやっぱりお寿司が好きです

まあ、サーモンサーモン。ぶり、サーモンだけどね

マネージャーさんも見てたらしく、行きたいってテンション上がってました!!笑

みなさんもこれ見て石川県に遊びに行くのはどう??

ココナのオススメおしえるよ

TVerでも見られるので石川のこともっと知りたいなって方は見てみてください

一緒に石川のお話もできるので

巻き髪褒めてくれてありがとう〜♡

たくさん大人っぽいって言ってくれて嬉しかったです^_^

巻いたついでにツインテールしてみました

ツインテールは逆に幼く見えるかな?笑





ココナの

すずも前にブログで言ってたけど、巻き髪とかカラコンはね、OKがないとなかなか出来ないから、もうちょっとお姉さんになったらだね〜

読んでくれてありがとうございました!

またねー

#557ぶろぐ


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