泥棒
夏目漱石
寝ようと思って次の間へ出ると、炬燵こたつの臭においがぷんとした。厠かわやの帰りに、火が強過ぎるようだから、気をつけなくてはいけないと妻さいに注意して、自分の部屋へ引取った。もう十一時を過ぎている。床の中の夢は常のごとく安らかであった。寒い割に風も吹かず、半鐘はんしょうの音も耳に応こたえなかった。熟睡が時の世界を盛もり潰つぶしたように正体を失った。
すると忽然こつぜんとして、女の泣声で眼が覚さめた。聞けばもよと云う下女の声である。この下女は驚いて狼狽うろたえるといつでも泣声を出す。この間家うちの赤ん坊を湯に入れた時、赤ん坊が湯気ゆけに上あがって、引きつけたといって五分ばかり泣声を出した。自分がこの下女の異様な声を聞いたのは、それが始めてである。啜すすり上あげるようにして早口に物を云う。訴えるような、口説くどくような、詫わびを入れるような、情人じょうじんの死を悲しむような――とうてい普通の驚愕きょうがくの場合に出る、鋭くって短い感投詞かんとうしの調子ではない。
自分は今云う通りこの異様の声で、眼が覚めた。声はたしかに妻さいの寝ている、次の部屋から出る。同時に襖ふすまを洩もれて赤い火がさっと暗い書斎に射した。今開ける瞼まぶたの裏に、この光が届くや否や自分は火事だと合点がってんして飛び起きた。そうして、突然いきなり隔へだての唐紙からかみをがらりと開けた。
その時自分は顛覆返ひっくりかえった炬燵こたつを想像していた。焦こげた蒲団ふとんを想像していた。漲みなぎる煙と、燃える畳たたみとを想像していた。ところが開けて見ると、洋灯ランプは例のごとく点ともっている。妻と子供は常の通り寝ている。炬燵こたつは宵よいの位地にちゃんとある。すべてが、寝る前に見た時と同じである。平和である。暖かである。ただ下女だけが泣いている。
下女は妻の蒲団の裾すそを抑おさえるようにして早口に物を云う。妻は眼を覚まして、ぱちぱちさせるばかりで別に起きる様子もない。自分は何事が起ったのかほとんど判じかねて、敷居際しきいぎわに突立つったったまま、ぼんやり部屋の中を見回みまわした。途端とたんに下女の泣声のうちに、泥棒という二字が出た。それが自分の耳に這入はいるや否や、すべてが解決されたように自分はたちまち妻の部屋を大股おおまたに横切って、次つぎの間まに飛び出しながら、何だ――と怒鳴どなりつけた。けれども飛び出した次の部屋は真暗である。続く台所の雨戸が一枚外はずれて、美しい月の光が部屋の入口まで射し込んでいる。自分は真夜中に人の住居すまいの奥を照らす月影を見て、おのずから寒いと感じた。素足すあしのまま板の間へ出て台所の流元ながしもとまで来て見ると、四辺あたりは寂しんとしている。表を覗のぞくと月ばかりである。自分は、戸口から一歩も外へ出る気にならなかった。
引き返して、妻の所へ来て、泥棒は逃げた、安心しろ、何も窃とられやしない、と云った。妻はこの時ようやく起き上っていた。何も云わずに洋灯を持って暗い部屋まで出て来て、箪笥たんすの前に翳かざした。観音開かんのんびらきが取とり外はずされている。抽斗ひきだしが明けたままになっている。妻は自分の顔を見て、やっぱり窃られたんですと云った。自分もようやく泥棒が窃った後で逃げたんだと気がついた。何だか急に馬鹿馬鹿しくなった。片方を見ると、泣いて起しに来た下女の蒲団が取ってある。その枕元にもう一つ箪笥がある。その箪笥の上にまた用箪笥が乗っている。暮の事なので医者の薬礼やくれいその他がこの内に這入っているのだそうだ。妻に調べさせるとこっちの方は元の通りだと云う。下女が泣いて縁側えんがわの方から飛び出したので、泥棒もやむをえず仕事の中途で逃げたのかも知れない。
そのうち、ほかの部屋に寝ていたものもみんな起きて来た。そうしてみんないろいろな事を云う。もう少し前に小用こように起きたのにとか、今夜は寝つかれないで、二時頃までは眼が冴さえていたのにとか、ことごとく残念そうである。そのなかで、十とおになる長女は、泥棒が台所から這入はいったのも、泥棒がみしみし縁側えんがわを歩いたのも、すっかり知っていると云った。あらまあとお房ふささんが驚いている。お房さんは十八で、長女と同じ部屋に寝る親類の娘である。自分はまた床へ這入はいって寝た。
明くる日はこの騒動で、例よりは少し遅く起きた。顔を洗って、朝食あさめしをやっていると、台所で下女が泥棒の足痕あしあとを見つけたとか、見つけないとか騒いでいる。面倒めんどうだから書斎へ引き取った。引き取って十分も経たったかと思うと、玄関で頼むと云う声がした。勇ましい声である。台所の方へ通じないようだから、自分で取次に出て見たら、巡査が格子こうしの前に立っていた。泥棒が這入ったそうですねと笑っている。戸締とじまりは好くしてあったのですかと聞くから、いや、どうもあまり好くありませんと答えた。じゃ仕方がない、締しまりが悪いとどこからでも這入りますよ、一枚一枚雨戸へ釘くぎを差さなくちゃいけませんと注意する。自分ははあはあと返事をしておいた。この巡査に遇あってから、悪いものは、泥棒じゃなくって、不取締ふとりしまりな主人であるような心持になった。
巡査は台所へ廻った。そこで妻さいを捉つらまえて、紛失ふんじつした物を手帳に書き付けている。繻珍しゅちんの丸帯が一本ですね、――丸帯と云うのは何ですか、丸帯と書いておけば解るですか、そう、それでは繻珍の丸帯が一本と、それから……
下女がにやにや笑っている。この巡査は丸帯も腹合はらあわせもいっこう知らない。すこぶる単簡たんかんな面白い巡査である。やがて紛失の目録を十点ばかり書き上げてその下に価格を記入して、すると〆しめて百五十円になりますねと念を押して帰って行った。
自分はこの時始めて、何を窃とられたかを明瞭めいりょうに知った。失なくなったものは十点、ことごとく帯である。昨夜ゆうべ這入ったのは帯泥棒であった。御正月を眼前に控ひかえた妻は異いな顔をしている。子供が三箇日さんがにちにも着物を着換える事ができないのだそうだ。仕方がない。
昼過には刑事が来た。座敷へ上あがっていろいろ見ている。桶おけの中に蝋燭ろうそくでも立てて仕事をしやしないかと云って、台所の小桶こおけまで検しらべていた。まあ御茶でもおあがんなさいと云って、日当りの好い茶の間へ坐らせて話をした。
泥棒はたいてい下谷、浅草辺あたりから電車でやって来て、明くる日の朝また電車で帰るのだそうだ。たいていは捉つかまらないものだそうだ。捉まえると刑事の方が損になるものだそうだ。泥棒を電車に乗せると電車賃が損になる。裁判に出ると、弁当代が損になる。機密費きみつひは警視庁が半分取ってしまうのだそうだ。余りを各警察へ割りふるのだそうだ。牛込には刑事がたった三四人しかいないのだそうだ――警察の力ならたいていの事はできる者と信じていた自分は、はなはだ心細い気がした。話をして聞かせる刑事も心細い顔をしていた。
出入でいりのものを呼んで戸締りを直そうと思ったら生憎あやにく、暮で用が立て込んでいて来られない。そのうちに夜になった。仕方がないから、元の通りにしておいて寝る。みんな気味が悪そうである。自分もけっして好い心持ではない。泥棒は各自勝手に取締とりしまるべきものであると警察から宣告されたと一般だからである。
それでも昨日きのうの今日きょうだから、まあ大丈夫だろうと、気を楽に持って枕に就ついた。するとまた夜中に妻さいから起された。さっきから、台所の方ががたがた云っている。気味がわるいから起きて見て下さいと云う。なるほどがたがたいう。妻はもう泥棒が這入はいったような顔をしている。
自分はそっと床を出た。忍び足に妻の部屋を横切って、隔へだての襖ふすまの傍そばまでくると、次の間では下女が鼾いびきをかいている。自分はできるだけ静かに襖を開けた。そうして、真暗な部屋の中に一人立った。ごとりごとりと云う音がする。たしかに台所の入口である。暗いなかを影の動くように三歩みあしほど音のする方へ近ちかづくと、もう部屋の出口である。障子しょうじが立っている。そとはすぐ板敷になる。自分は障子に身を寄せて、暗がりで耳を立てた。やがて、ごとりと云った。しばらくしてまたごとりと云った。自分はこの怪しい音を約四五遍聞いた。そうして、これは板敷の左にある、戸棚とだなの奥から出るに違ないという事をたしかめた。たちまち普通の歩調と、尋常の所作しょさをして、妻の部屋へ帰って来た。鼠ねずみが何か噛かじっているんだ、安心しろと云うと、妻はそうですかとありがたそうな返事をした。それからは二人とも落ちついて寝てしまった。
朝になってまた顔を洗って、茶の間へ来ると、妻が鼠の噛った鰹節かつぶしを、膳ぜんの前へ出して、昨夜ゆうべのはこれですよと説明した。自分ははあなるほどと、一晩中無惨むざんにやられた鰹節を眺めていた。すると妻は、あなたついでに鼠を追って、鰹節おかかをしまって下されば好いのにと少し不平がましく云った。自分もそうすれば好かったとこの時始めて気がついた。
夏目漱石
寝ようと思って次の間へ出ると、炬燵こたつの臭においがぷんとした。厠かわやの帰りに、火が強過ぎるようだから、気をつけなくてはいけないと妻さいに注意して、自分の部屋へ引取った。もう十一時を過ぎている。床の中の夢は常のごとく安らかであった。寒い割に風も吹かず、半鐘はんしょうの音も耳に応こたえなかった。熟睡が時の世界を盛もり潰つぶしたように正体を失った。
すると忽然こつぜんとして、女の泣声で眼が覚さめた。聞けばもよと云う下女の声である。この下女は驚いて狼狽うろたえるといつでも泣声を出す。この間家うちの赤ん坊を湯に入れた時、赤ん坊が湯気ゆけに上あがって、引きつけたといって五分ばかり泣声を出した。自分がこの下女の異様な声を聞いたのは、それが始めてである。啜すすり上あげるようにして早口に物を云う。訴えるような、口説くどくような、詫わびを入れるような、情人じょうじんの死を悲しむような――とうてい普通の驚愕きょうがくの場合に出る、鋭くって短い感投詞かんとうしの調子ではない。
自分は今云う通りこの異様の声で、眼が覚めた。声はたしかに妻さいの寝ている、次の部屋から出る。同時に襖ふすまを洩もれて赤い火がさっと暗い書斎に射した。今開ける瞼まぶたの裏に、この光が届くや否や自分は火事だと合点がってんして飛び起きた。そうして、突然いきなり隔へだての唐紙からかみをがらりと開けた。
その時自分は顛覆返ひっくりかえった炬燵こたつを想像していた。焦こげた蒲団ふとんを想像していた。漲みなぎる煙と、燃える畳たたみとを想像していた。ところが開けて見ると、洋灯ランプは例のごとく点ともっている。妻と子供は常の通り寝ている。炬燵こたつは宵よいの位地にちゃんとある。すべてが、寝る前に見た時と同じである。平和である。暖かである。ただ下女だけが泣いている。
下女は妻の蒲団の裾すそを抑おさえるようにして早口に物を云う。妻は眼を覚まして、ぱちぱちさせるばかりで別に起きる様子もない。自分は何事が起ったのかほとんど判じかねて、敷居際しきいぎわに突立つったったまま、ぼんやり部屋の中を見回みまわした。途端とたんに下女の泣声のうちに、泥棒という二字が出た。それが自分の耳に這入はいるや否や、すべてが解決されたように自分はたちまち妻の部屋を大股おおまたに横切って、次つぎの間まに飛び出しながら、何だ――と怒鳴どなりつけた。けれども飛び出した次の部屋は真暗である。続く台所の雨戸が一枚外はずれて、美しい月の光が部屋の入口まで射し込んでいる。自分は真夜中に人の住居すまいの奥を照らす月影を見て、おのずから寒いと感じた。素足すあしのまま板の間へ出て台所の流元ながしもとまで来て見ると、四辺あたりは寂しんとしている。表を覗のぞくと月ばかりである。自分は、戸口から一歩も外へ出る気にならなかった。
引き返して、妻の所へ来て、泥棒は逃げた、安心しろ、何も窃とられやしない、と云った。妻はこの時ようやく起き上っていた。何も云わずに洋灯を持って暗い部屋まで出て来て、箪笥たんすの前に翳かざした。観音開かんのんびらきが取とり外はずされている。抽斗ひきだしが明けたままになっている。妻は自分の顔を見て、やっぱり窃られたんですと云った。自分もようやく泥棒が窃った後で逃げたんだと気がついた。何だか急に馬鹿馬鹿しくなった。片方を見ると、泣いて起しに来た下女の蒲団が取ってある。その枕元にもう一つ箪笥がある。その箪笥の上にまた用箪笥が乗っている。暮の事なので医者の薬礼やくれいその他がこの内に這入っているのだそうだ。妻に調べさせるとこっちの方は元の通りだと云う。下女が泣いて縁側えんがわの方から飛び出したので、泥棒もやむをえず仕事の中途で逃げたのかも知れない。
そのうち、ほかの部屋に寝ていたものもみんな起きて来た。そうしてみんないろいろな事を云う。もう少し前に小用こように起きたのにとか、今夜は寝つかれないで、二時頃までは眼が冴さえていたのにとか、ことごとく残念そうである。そのなかで、十とおになる長女は、泥棒が台所から這入はいったのも、泥棒がみしみし縁側えんがわを歩いたのも、すっかり知っていると云った。あらまあとお房ふささんが驚いている。お房さんは十八で、長女と同じ部屋に寝る親類の娘である。自分はまた床へ這入はいって寝た。
明くる日はこの騒動で、例よりは少し遅く起きた。顔を洗って、朝食あさめしをやっていると、台所で下女が泥棒の足痕あしあとを見つけたとか、見つけないとか騒いでいる。面倒めんどうだから書斎へ引き取った。引き取って十分も経たったかと思うと、玄関で頼むと云う声がした。勇ましい声である。台所の方へ通じないようだから、自分で取次に出て見たら、巡査が格子こうしの前に立っていた。泥棒が這入ったそうですねと笑っている。戸締とじまりは好くしてあったのですかと聞くから、いや、どうもあまり好くありませんと答えた。じゃ仕方がない、締しまりが悪いとどこからでも這入りますよ、一枚一枚雨戸へ釘くぎを差さなくちゃいけませんと注意する。自分ははあはあと返事をしておいた。この巡査に遇あってから、悪いものは、泥棒じゃなくって、不取締ふとりしまりな主人であるような心持になった。
巡査は台所へ廻った。そこで妻さいを捉つらまえて、紛失ふんじつした物を手帳に書き付けている。繻珍しゅちんの丸帯が一本ですね、――丸帯と云うのは何ですか、丸帯と書いておけば解るですか、そう、それでは繻珍の丸帯が一本と、それから……
下女がにやにや笑っている。この巡査は丸帯も腹合はらあわせもいっこう知らない。すこぶる単簡たんかんな面白い巡査である。やがて紛失の目録を十点ばかり書き上げてその下に価格を記入して、すると〆しめて百五十円になりますねと念を押して帰って行った。
自分はこの時始めて、何を窃とられたかを明瞭めいりょうに知った。失なくなったものは十点、ことごとく帯である。昨夜ゆうべ這入ったのは帯泥棒であった。御正月を眼前に控ひかえた妻は異いな顔をしている。子供が三箇日さんがにちにも着物を着換える事ができないのだそうだ。仕方がない。
昼過には刑事が来た。座敷へ上あがっていろいろ見ている。桶おけの中に蝋燭ろうそくでも立てて仕事をしやしないかと云って、台所の小桶こおけまで検しらべていた。まあ御茶でもおあがんなさいと云って、日当りの好い茶の間へ坐らせて話をした。
泥棒はたいてい下谷、浅草辺あたりから電車でやって来て、明くる日の朝また電車で帰るのだそうだ。たいていは捉つかまらないものだそうだ。捉まえると刑事の方が損になるものだそうだ。泥棒を電車に乗せると電車賃が損になる。裁判に出ると、弁当代が損になる。機密費きみつひは警視庁が半分取ってしまうのだそうだ。余りを各警察へ割りふるのだそうだ。牛込には刑事がたった三四人しかいないのだそうだ――警察の力ならたいていの事はできる者と信じていた自分は、はなはだ心細い気がした。話をして聞かせる刑事も心細い顔をしていた。
出入でいりのものを呼んで戸締りを直そうと思ったら生憎あやにく、暮で用が立て込んでいて来られない。そのうちに夜になった。仕方がないから、元の通りにしておいて寝る。みんな気味が悪そうである。自分もけっして好い心持ではない。泥棒は各自勝手に取締とりしまるべきものであると警察から宣告されたと一般だからである。
それでも昨日きのうの今日きょうだから、まあ大丈夫だろうと、気を楽に持って枕に就ついた。するとまた夜中に妻さいから起された。さっきから、台所の方ががたがた云っている。気味がわるいから起きて見て下さいと云う。なるほどがたがたいう。妻はもう泥棒が這入はいったような顔をしている。
自分はそっと床を出た。忍び足に妻の部屋を横切って、隔へだての襖ふすまの傍そばまでくると、次の間では下女が鼾いびきをかいている。自分はできるだけ静かに襖を開けた。そうして、真暗な部屋の中に一人立った。ごとりごとりと云う音がする。たしかに台所の入口である。暗いなかを影の動くように三歩みあしほど音のする方へ近ちかづくと、もう部屋の出口である。障子しょうじが立っている。そとはすぐ板敷になる。自分は障子に身を寄せて、暗がりで耳を立てた。やがて、ごとりと云った。しばらくしてまたごとりと云った。自分はこの怪しい音を約四五遍聞いた。そうして、これは板敷の左にある、戸棚とだなの奥から出るに違ないという事をたしかめた。たちまち普通の歩調と、尋常の所作しょさをして、妻の部屋へ帰って来た。鼠ねずみが何か噛かじっているんだ、安心しろと云うと、妻はそうですかとありがたそうな返事をした。それからは二人とも落ちついて寝てしまった。
朝になってまた顔を洗って、茶の間へ来ると、妻が鼠の噛った鰹節かつぶしを、膳ぜんの前へ出して、昨夜ゆうべのはこれですよと説明した。自分ははあなるほどと、一晩中無惨むざんにやられた鰹節を眺めていた。すると妻は、あなたついでに鼠を追って、鰹節おかかをしまって下されば好いのにと少し不平がましく云った。自分もそうすれば好かったとこの時始めて気がついた。
高い城の男
日本では1965年に川口正吉によって翻訳され、ハヤカワ・SF・シリーズ(早川書房)から刊行された。1984年から新たに浅倉久志による新訳版がハヤカワ文庫から出版された。
2015年、ドラマ化が発表され、同年11月からAmazonビデオにおいてドラマ『高い城の男』の配信が開始された。
概要
第二次世界大戦が枢軸国の勝利に終わり、大日本帝国とナチス・ドイツによって分割占領されている旧アメリカ合衆国領を舞台にした人間群像劇。
歴史改変SFでは珍しくない設定だが、作品内世界で「もしも連合国が枢軸国に勝利していたら」という歴史改変小説が流行しているという点と、東洋の占術(易経)が同じく流行していて、複数の人物が易経を指針として行動するという部分が独創的である。ディック自身も、本作のプロットを作る際に易経を利用している。後半になるにつれてディック特有の形而上学・哲学的な思索やメタフィクションが展開される一方、ディック作品にありがちなプロットの破綻が生じていない。そうした点からアメリカやイギリスなど英語圏ではディック作品の代表作として挙げられることも多い。
作中の枢軸国の描写に関してはそれぞれに違いがある。日本人は勝者として傲慢な部分もあるものの、人種政策でドイツと対立するなどある程度は話が通じる人間的な集団として描かれている。逆にドイツ人は反ナチ派が軒並み粛清されており、ナチズムの狂気に満ちた集団として描かれている。イタリア人は表面的には日独と並んで戦勝国として扱われているが実態としてはドイツの衛星国であり、その劣等感からアメリカ人に同情する描写が描かれている。また作品中に登場する歴史改変小説は、現実の第二次世界大戦とも異なった形で連合国が勝利する内容になっている。
1947年、第二次世界大戦は枢軸国の勝利に終わり、アメリカ合衆国は戦勝国であるドイツと日本によって三つの国に分断され、両国の分割統治下に置かれていた。それから15年後の1962年、アメリカ人の間では謎の人物「高い城の男」によって執筆された『イナゴ身重く横たわる』[5] という、「連合国が第二次世界大戦に勝利していたら」という仮想小説が流行していた。『イナゴ身重く横たわる』はドイツが支配するアメリカ合衆国およびヨーロッパでは発禁本に指定され、「高い城の男」は保安警察に命を狙われていた。
日本が支配するアメリカ太平洋岸連邦のサンフランシスコにあるアメリカ美術工芸品商会を経営する美術商ロバート・チルダンは、上得意先である田上信輔に、頼まれていた品物の手配が遅れていることを叱責され、代わりの品物を届けるために田上がいる通商代表部に向かう。一方、勤め先の工場をクビになったフランク・フリンクは、これからの指針を求めて易経に勤しんでいた。田上もまた、「取引相手である実業家バイネスの正体を探れ」という日本政府からの指令に悩み易経を頼みとしていた。
日本の影響下にあるロッキー山脈連邦のキャノン・シティに暮らすジュリアナ・フリンクは、合衆国から仕事でやって来たイタリア移民のジョー・チナデーラと出会い、成り行きで一夜を共にする。ジュリアナは、ジョーが持っていた『イナゴ身重く横たわる』に興味を持ち、「高い城の男」が住むシャイアンに共に行くことになる。その頃チルダンは、日本海軍の春沢提督の使者と名乗る男から「あなたが扱っている美術品は模造品だ」と告げられ面目を失い、取引相手であるキャルヴィンを問い詰める。一方で地元の新聞社に問い合わせた結果、提督の乗艦であると聞かされていた航空母艦翔鶴は戦時中にアメリカ軍の潜水艦によって沈められており、春沢提督なる人物も存在しないことが判明する。春沢提督の使者を騙る者の正体はフランクであり、友人のマッカーシーと組み、元上司で模造品の元締めのウインダム=マトスンから退職金を巻き上げる。
同じ頃、ドイツでは最高指導者のボルマン首相が死去したことでナチ党内部の権力闘争が激化し、アメリカにも影響が及び始める。一方、フランクとマッカーシーは、ウインダム=マトスンから巻き上げた退職金でエドフランク宝飾工房を起業し、自身の腕を活かした装身具を作り、その装身具をチルダンに売り付けようとするが、チルダンに言い包められ委託取引にされてしまう。装身具を手にしたチルダンは、それまで扱ってきた過去の遺物である骨董品とは違うアメリカの「未来」の姿を感じ、アメリカ人としての自信を取り戻す。
その頃、日本軍の手崎将軍から連絡を受けた田上は、バイネスをオフィスに呼び三者会談を行う。会談の中で、バイネスは自分がドイツ国防軍情報部のヴェゲナー大尉であることを明かし、ボルマン政権と、その後を継いだゲッベルス政権が対日核攻撃作戦「タンポポ(レーヴェンツァーン)作戦」を計画していることを語り、計画を阻止するため作戦反対派のハイドリヒに助力して欲しいと告げる。その時、バイネスの正体を掴んだ保安警察のメーレ将軍が送り込んだ工作員が現れ銃撃戦となるが、田上が工作員を射殺し事態を収束させる。手崎将軍は対応を協議するため日本に帰国し、任務を果たしたヴェゲナー大尉もドイツに帰国する。
「高い城の男」に会うための旅を続けていたジュリアナとジョーはデンヴァーに到着する。しかし、そこでジュリアナは、ジョーの正体が「高い城の男」暗殺のため派遣されたナチスの工作員だと気付き、ジョーを殺害しホテルを後にする。途方に暮れたジュリアナは易経を行い、その啓示に従い、「高い城の男」に命が狙われていることを知らせるためにシャイアンに向かう。
翌日、「高い城の男」ことホーソーン・アベンゼンの邸宅に到着したジュリアナは、ナチスの工作員が迫っていることを告げると同時に、何故『イナゴ身重く横たわる』を執筆したのかを尋ねる。ジュリアナの問いに対し、アベンゼンは「易経との契約に基づき書いた」と告白する。ジュリアナは、何故易経が『イナゴ身重く横たわる』を書かせたのかを知るため易経を行い、「真理」の答えを得る。ジュリアナは、『イナゴ身重く横たわる』の世界こそが真実の世界であると知り、アベンゼンに礼を言い邸宅を後にした。
登場人物
ロバート・チルダン
アメリカ太平洋岸連邦で「アメリカ美術工芸品商会」を経営する古美術商。日本人相手に歴史的な美術品を販売しているが、旧合衆国の歴史の浅さから100年ほど前の日用品やポスターなどを扱っている。
敗戦国民として日本人に対し卑屈な態度をとっていたが、エドフランク宝飾工房の装身具をきっかけにアメリカ人としての誇りを取り戻す。
フランク・フリンク
太平洋岸連邦の工芸職人。ユダヤ系アメリカ人。本名は「フランク・フィンク」。合衆国の軍人としてアメリカ本土決戦で枢軸軍と戦った過去を持つ。
終戦後も暫くはレジスタンスを続けていたが、占領統治が進むにつれて武器を捨てた。職人としての腕前は良いが人当たり悪く職場の工場をクビになっている。妻ともども易経に凝っている。
友人のマッカーシーに誘われ「エドフランク宝飾工房」を起業するが、チルダンに対する詐欺行為とユダヤ系の素性が発覚し逮捕される。その後、ドイツへの引き渡しを拒否した田上の計らいで釈放される。
ジュリアナ・フリンク
フランクの妻。美しい風貌をした黒髪の女性。フランクの貧しい生活に嫌気が差して別居、現在はロッキー山脈連邦のコロラド州キャノン・シティで、柔道の教師をしながら暮らしている。
『イナゴ身重く横たわる』の熱心な愛読者で、知り合ったジョーと共に作者の「高い城の男」に会おうと考えている。柔道の有段者で夫と同じく易経にも精通している。
ジョー・チナデーラ
イタリア国籍の退役軍人。北イタリアのミラノ出身。出稼ぎ目的の移民として合衆国に滞在しており、貨物運搬の用心棒としてロッキー山脈連邦を訪れた際にジュリアナと知り合う。浅黒い肌に黒い髪をした男性で、地中海人種的な風貌から東側の人種政策で差別されており、戦勝国出身にも拘らず『イナゴ身重く横たわる』の愛読者となっている。
ファシスト党少年団にも入っていた愛国者でロドルフォ・グラツィアーニの下で北アフリカ戦線に従軍し、エルヴィン・ロンメルからも二級鉄十字勲章を与えられている。正体はスイス出身のブランデンブルク隊工作員。北方人種風の風貌を隠し、密かにホーソーン・アベンゼンを追っていた。
田上信輔(たがみ のぶすけ)
原文では「Tagomi」であるため、浅倉訳版で姓が改変されている(川口訳版では原文のママ)。太平洋岸連邦の第一通商代表団の代表を務める日本人官僚。日本政府からバイネスの素性を探ることを命令されている。易経を精神統一の手段としてしばしば用いている。
「タンポポ作戦」の詳細を聞き精神的に衰弱し、SDの通商代表部襲撃とフランクの引き渡し要求でライスと口論となり、心臓発作を起こし倒れる。
ポール・梶浦(ポール・かじうら)
原文では「Kasoura」であるため、浅倉訳版で姓が改変されている(川口訳版では原文のママ)。太平洋岸連邦の不遇地域生活水準向上調査委員会の日本人職員。美術品愛好家で、チルダンの店の常連客。
ベティ・梶浦(ベティ・かじうら)
ポールの妻。浅黒い肌に艶やかな黒髪をした女性。
手崎(てざき)
原文では「Tedeki」であるため、浅倉訳版で姓が改変されている(川口訳版では原文のママ)。元日本軍参謀総長の老将軍。軍部の宇宙進出推進派。「矢田部信次郎」の偽名を使い、サンフランシスコを訪れる。
府馬五十雄(ふま いそお)
原文では「Ito(名)Humo(姓)」であるため、浅倉訳版で姓名が改変されている(川口訳版では原文のママ)。日本陸軍の退役少佐。旧アメリカ美術品の収集家で、4年前に古本屋を経営していたチルダンのもとを訪れ、彼の美術商への転身のきっかけを作る。
エフレイキアン
第一通商代表団オフィスの職員で、田上の秘書。背が高く、褐色の髪をしたアルメニア系の女性。
ラムジー
第一通商代表団オフィスの職員で、田上の秘書。アメリカ系白人の男性。
ルドルフ・ヴェゲナー
ドイツ国防軍情報部の大尉。ドイツ国内の要人の密命を受け、スウェーデン人実業家「バイネス」の偽名を使いサンフランシスコを訪れる。
ドイツに帰国後、国防軍と連携したSSに拘束される。
フーゴー・ライス
サンフランシスコ駐在ドイツ帝国領事を務める男爵。SS名誉少佐の階級を持ち、形式上メーレの指揮下にある。
ブルーノ・クロイツ・フォン・メーレ
太平洋岸連邦のSD地方長官。ハイドリヒ暗殺計画を阻止したことで目をかけられ、SD内での地位を確立する。
アレックス・ロッツェ
ドイツ人芸術家。個展を開くためサンフランシスコを訪れる。飛行機で隣席だったバイネスの「自分はユダヤ人だ」という冗談を真に受け、ドイツ領事館に「サンフランシスコにユダヤ人がいる」と密告する。
ウインダム=マトスン
WMコーポレーションの社長。フランクの雇い主。複数の企業の大株主であり、太平洋岸連邦の政府首脳部と繋がっている。
エド・マッカーシー
ウインダム=マストンが経営する工場の現場監督で、フランクの友人。フランクとともにエドフランク宝飾工房を起業する。
レイ・キャルヴィン
サンフランシスコで一・二を争う卸売業者。ウインダム=マストンが製造する模造品を取扱い、チルダンと取引をしている。
ホーソーン・アベンゼン
『イナゴ身重く横たわる』の作者。通称「高い城の男」。第二次世界大戦ではアメリカ海兵隊の軍曹としてイギリス戦線に従軍した。
現在はロッキー山脈連邦のシャイアンにある山奥の要塞(通称「高い城」)で暮らしている。
キャロライン・アベンゼン
ホーソーンの妻。灰色の目をした赤茶色の髪のアイルランド系女性。
日本では1965年に川口正吉によって翻訳され、ハヤカワ・SF・シリーズ(早川書房)から刊行された。1984年から新たに浅倉久志による新訳版がハヤカワ文庫から出版された。
2015年、ドラマ化が発表され、同年11月からAmazonビデオにおいてドラマ『高い城の男』の配信が開始された。
概要
第二次世界大戦が枢軸国の勝利に終わり、大日本帝国とナチス・ドイツによって分割占領されている旧アメリカ合衆国領を舞台にした人間群像劇。
歴史改変SFでは珍しくない設定だが、作品内世界で「もしも連合国が枢軸国に勝利していたら」という歴史改変小説が流行しているという点と、東洋の占術(易経)が同じく流行していて、複数の人物が易経を指針として行動するという部分が独創的である。ディック自身も、本作のプロットを作る際に易経を利用している。後半になるにつれてディック特有の形而上学・哲学的な思索やメタフィクションが展開される一方、ディック作品にありがちなプロットの破綻が生じていない。そうした点からアメリカやイギリスなど英語圏ではディック作品の代表作として挙げられることも多い。
作中の枢軸国の描写に関してはそれぞれに違いがある。日本人は勝者として傲慢な部分もあるものの、人種政策でドイツと対立するなどある程度は話が通じる人間的な集団として描かれている。逆にドイツ人は反ナチ派が軒並み粛清されており、ナチズムの狂気に満ちた集団として描かれている。イタリア人は表面的には日独と並んで戦勝国として扱われているが実態としてはドイツの衛星国であり、その劣等感からアメリカ人に同情する描写が描かれている。また作品中に登場する歴史改変小説は、現実の第二次世界大戦とも異なった形で連合国が勝利する内容になっている。
1947年、第二次世界大戦は枢軸国の勝利に終わり、アメリカ合衆国は戦勝国であるドイツと日本によって三つの国に分断され、両国の分割統治下に置かれていた。それから15年後の1962年、アメリカ人の間では謎の人物「高い城の男」によって執筆された『イナゴ身重く横たわる』[5] という、「連合国が第二次世界大戦に勝利していたら」という仮想小説が流行していた。『イナゴ身重く横たわる』はドイツが支配するアメリカ合衆国およびヨーロッパでは発禁本に指定され、「高い城の男」は保安警察に命を狙われていた。
日本が支配するアメリカ太平洋岸連邦のサンフランシスコにあるアメリカ美術工芸品商会を経営する美術商ロバート・チルダンは、上得意先である田上信輔に、頼まれていた品物の手配が遅れていることを叱責され、代わりの品物を届けるために田上がいる通商代表部に向かう。一方、勤め先の工場をクビになったフランク・フリンクは、これからの指針を求めて易経に勤しんでいた。田上もまた、「取引相手である実業家バイネスの正体を探れ」という日本政府からの指令に悩み易経を頼みとしていた。
日本の影響下にあるロッキー山脈連邦のキャノン・シティに暮らすジュリアナ・フリンクは、合衆国から仕事でやって来たイタリア移民のジョー・チナデーラと出会い、成り行きで一夜を共にする。ジュリアナは、ジョーが持っていた『イナゴ身重く横たわる』に興味を持ち、「高い城の男」が住むシャイアンに共に行くことになる。その頃チルダンは、日本海軍の春沢提督の使者と名乗る男から「あなたが扱っている美術品は模造品だ」と告げられ面目を失い、取引相手であるキャルヴィンを問い詰める。一方で地元の新聞社に問い合わせた結果、提督の乗艦であると聞かされていた航空母艦翔鶴は戦時中にアメリカ軍の潜水艦によって沈められており、春沢提督なる人物も存在しないことが判明する。春沢提督の使者を騙る者の正体はフランクであり、友人のマッカーシーと組み、元上司で模造品の元締めのウインダム=マトスンから退職金を巻き上げる。
同じ頃、ドイツでは最高指導者のボルマン首相が死去したことでナチ党内部の権力闘争が激化し、アメリカにも影響が及び始める。一方、フランクとマッカーシーは、ウインダム=マトスンから巻き上げた退職金でエドフランク宝飾工房を起業し、自身の腕を活かした装身具を作り、その装身具をチルダンに売り付けようとするが、チルダンに言い包められ委託取引にされてしまう。装身具を手にしたチルダンは、それまで扱ってきた過去の遺物である骨董品とは違うアメリカの「未来」の姿を感じ、アメリカ人としての自信を取り戻す。
その頃、日本軍の手崎将軍から連絡を受けた田上は、バイネスをオフィスに呼び三者会談を行う。会談の中で、バイネスは自分がドイツ国防軍情報部のヴェゲナー大尉であることを明かし、ボルマン政権と、その後を継いだゲッベルス政権が対日核攻撃作戦「タンポポ(レーヴェンツァーン)作戦」を計画していることを語り、計画を阻止するため作戦反対派のハイドリヒに助力して欲しいと告げる。その時、バイネスの正体を掴んだ保安警察のメーレ将軍が送り込んだ工作員が現れ銃撃戦となるが、田上が工作員を射殺し事態を収束させる。手崎将軍は対応を協議するため日本に帰国し、任務を果たしたヴェゲナー大尉もドイツに帰国する。
「高い城の男」に会うための旅を続けていたジュリアナとジョーはデンヴァーに到着する。しかし、そこでジュリアナは、ジョーの正体が「高い城の男」暗殺のため派遣されたナチスの工作員だと気付き、ジョーを殺害しホテルを後にする。途方に暮れたジュリアナは易経を行い、その啓示に従い、「高い城の男」に命が狙われていることを知らせるためにシャイアンに向かう。
翌日、「高い城の男」ことホーソーン・アベンゼンの邸宅に到着したジュリアナは、ナチスの工作員が迫っていることを告げると同時に、何故『イナゴ身重く横たわる』を執筆したのかを尋ねる。ジュリアナの問いに対し、アベンゼンは「易経との契約に基づき書いた」と告白する。ジュリアナは、何故易経が『イナゴ身重く横たわる』を書かせたのかを知るため易経を行い、「真理」の答えを得る。ジュリアナは、『イナゴ身重く横たわる』の世界こそが真実の世界であると知り、アベンゼンに礼を言い邸宅を後にした。
登場人物
ロバート・チルダン
アメリカ太平洋岸連邦で「アメリカ美術工芸品商会」を経営する古美術商。日本人相手に歴史的な美術品を販売しているが、旧合衆国の歴史の浅さから100年ほど前の日用品やポスターなどを扱っている。
敗戦国民として日本人に対し卑屈な態度をとっていたが、エドフランク宝飾工房の装身具をきっかけにアメリカ人としての誇りを取り戻す。
フランク・フリンク
太平洋岸連邦の工芸職人。ユダヤ系アメリカ人。本名は「フランク・フィンク」。合衆国の軍人としてアメリカ本土決戦で枢軸軍と戦った過去を持つ。
終戦後も暫くはレジスタンスを続けていたが、占領統治が進むにつれて武器を捨てた。職人としての腕前は良いが人当たり悪く職場の工場をクビになっている。妻ともども易経に凝っている。
友人のマッカーシーに誘われ「エドフランク宝飾工房」を起業するが、チルダンに対する詐欺行為とユダヤ系の素性が発覚し逮捕される。その後、ドイツへの引き渡しを拒否した田上の計らいで釈放される。
ジュリアナ・フリンク
フランクの妻。美しい風貌をした黒髪の女性。フランクの貧しい生活に嫌気が差して別居、現在はロッキー山脈連邦のコロラド州キャノン・シティで、柔道の教師をしながら暮らしている。
『イナゴ身重く横たわる』の熱心な愛読者で、知り合ったジョーと共に作者の「高い城の男」に会おうと考えている。柔道の有段者で夫と同じく易経にも精通している。
ジョー・チナデーラ
イタリア国籍の退役軍人。北イタリアのミラノ出身。出稼ぎ目的の移民として合衆国に滞在しており、貨物運搬の用心棒としてロッキー山脈連邦を訪れた際にジュリアナと知り合う。浅黒い肌に黒い髪をした男性で、地中海人種的な風貌から東側の人種政策で差別されており、戦勝国出身にも拘らず『イナゴ身重く横たわる』の愛読者となっている。
ファシスト党少年団にも入っていた愛国者でロドルフォ・グラツィアーニの下で北アフリカ戦線に従軍し、エルヴィン・ロンメルからも二級鉄十字勲章を与えられている。正体はスイス出身のブランデンブルク隊工作員。北方人種風の風貌を隠し、密かにホーソーン・アベンゼンを追っていた。
田上信輔(たがみ のぶすけ)
原文では「Tagomi」であるため、浅倉訳版で姓が改変されている(川口訳版では原文のママ)。太平洋岸連邦の第一通商代表団の代表を務める日本人官僚。日本政府からバイネスの素性を探ることを命令されている。易経を精神統一の手段としてしばしば用いている。
「タンポポ作戦」の詳細を聞き精神的に衰弱し、SDの通商代表部襲撃とフランクの引き渡し要求でライスと口論となり、心臓発作を起こし倒れる。
ポール・梶浦(ポール・かじうら)
原文では「Kasoura」であるため、浅倉訳版で姓が改変されている(川口訳版では原文のママ)。太平洋岸連邦の不遇地域生活水準向上調査委員会の日本人職員。美術品愛好家で、チルダンの店の常連客。
ベティ・梶浦(ベティ・かじうら)
ポールの妻。浅黒い肌に艶やかな黒髪をした女性。
手崎(てざき)
原文では「Tedeki」であるため、浅倉訳版で姓が改変されている(川口訳版では原文のママ)。元日本軍参謀総長の老将軍。軍部の宇宙進出推進派。「矢田部信次郎」の偽名を使い、サンフランシスコを訪れる。
府馬五十雄(ふま いそお)
原文では「Ito(名)Humo(姓)」であるため、浅倉訳版で姓名が改変されている(川口訳版では原文のママ)。日本陸軍の退役少佐。旧アメリカ美術品の収集家で、4年前に古本屋を経営していたチルダンのもとを訪れ、彼の美術商への転身のきっかけを作る。
エフレイキアン
第一通商代表団オフィスの職員で、田上の秘書。背が高く、褐色の髪をしたアルメニア系の女性。
ラムジー
第一通商代表団オフィスの職員で、田上の秘書。アメリカ系白人の男性。
ルドルフ・ヴェゲナー
ドイツ国防軍情報部の大尉。ドイツ国内の要人の密命を受け、スウェーデン人実業家「バイネス」の偽名を使いサンフランシスコを訪れる。
ドイツに帰国後、国防軍と連携したSSに拘束される。
フーゴー・ライス
サンフランシスコ駐在ドイツ帝国領事を務める男爵。SS名誉少佐の階級を持ち、形式上メーレの指揮下にある。
ブルーノ・クロイツ・フォン・メーレ
太平洋岸連邦のSD地方長官。ハイドリヒ暗殺計画を阻止したことで目をかけられ、SD内での地位を確立する。
アレックス・ロッツェ
ドイツ人芸術家。個展を開くためサンフランシスコを訪れる。飛行機で隣席だったバイネスの「自分はユダヤ人だ」という冗談を真に受け、ドイツ領事館に「サンフランシスコにユダヤ人がいる」と密告する。
ウインダム=マトスン
WMコーポレーションの社長。フランクの雇い主。複数の企業の大株主であり、太平洋岸連邦の政府首脳部と繋がっている。
エド・マッカーシー
ウインダム=マストンが経営する工場の現場監督で、フランクの友人。フランクとともにエドフランク宝飾工房を起業する。
レイ・キャルヴィン
サンフランシスコで一・二を争う卸売業者。ウインダム=マストンが製造する模造品を取扱い、チルダンと取引をしている。
ホーソーン・アベンゼン
『イナゴ身重く横たわる』の作者。通称「高い城の男」。第二次世界大戦ではアメリカ海兵隊の軍曹としてイギリス戦線に従軍した。
現在はロッキー山脈連邦のシャイアンにある山奥の要塞(通称「高い城」)で暮らしている。
キャロライン・アベンゼン
ホーソーンの妻。灰色の目をした赤茶色の髪のアイルランド系女性。
週プレNEWS 第二篇
采访,存图
详细的内心斗争,讲过很多次的,对自己很重要的岩窟王,因为岩窟王想辞退声优工作,刚出道时从青二离开, 在鲁鲁之前被说没有代表作。
2018年8月8号
数々のヒット作に出演してきた人気声優・福山潤が「声優を辞めようと思った」ほど燃え尽きた作品とは?https://t.cn/RDCD8R7
■とにかく悶々としていた若き日々
――もしかして、昔からぐるぐると考えがちな性格でしたか?
福山 悶々とはしていましたね(笑)。よく喋るんですけど、それ以上に頭の中で問答しているタイプで、ずっと自問自答の日々でした。
――デビューしたときの事務所を辞めてしばらく仕事がなかった時期も、将来についてかなり悶々とされていたそうですね。
福山 辞めたきっかけは、自分が根本的にこの業界で戦っていく力がないって自覚したことでした。最初に所属したのが大きい事務所だったこともあり、このまま守られていたら、いつまでも外で戦う力がつかないんじゃないかって危機感があったんですね。
それで僕は出演していた『∀ガンダム』の途中で事務所を辞めたんですけど、自分としては出演シーンも多くないし、大事にはならないと思っていたんです。でも周囲からは、「何やってんだ!?」ってどよめきが起こるくらいのことをしでかしていて。いかに無知だったか。未だに当時の自分には、「とりあえず誰かに相談してから決めろ」って声をかけたいですもの。
――それくらい自分一人で考えるタイプだった。
福山 そうですね。案の定、事務所を辞めてフリーになってからは仕事もなくなって。かといって声優を辞めるわけでもなく、身が入らないバイトをしながら、「いずれ戻りたい」と中途半端に思っていました。それなら誰かに助けを求めればいいのに、「いや、悶々とする時期だって必要だ」っていうめんどくさいことも考えていて(苦笑)。
たまにお仕事をもらっては、「やっぱりこの世界でやっていきたい」と思うんですけど、「イチからやり直したいので事務所を紹介してください」とは言えない。「たまたま作品に出させてもらったくらいで事務所に入れてくれって、あまりに節操がないのでは......」ってまたぐるぐると負のスパイラルに入ってしまう。大変に自分らしい時期だったと思います(笑)。
そういう苦しい期間を過ごしたので、再出発できたときには、一度なくしたものが戻ってきた喜びがすごくデカかったですね。それで余計なことは求めず、まずは自分ができることを積み重ねていこうと決めました。
。。。。。。
■「代表作がない」と言われた
福山 本当に巡り合わせが良かったんです。僕は『コードギアス』という作品に出会う前、「君には代表作がないよね」ってよく言われていました。僕自身は「そんなことないですよ」って答えるんですけど、「でも、突出して売れた作品がないじゃない?」と言われて。当時はアニメのソフトがすごく売れていたので、今だったら大ヒットになるような数字でもヒットとして扱われなかったんです。
もちろん、僕にとっては『巌窟王』を始めとして、全精力を注いだ作品はたくさんありました。でも、一般の人から見たら何をやっている人なのかわかりにくいよねって指摘も納得できて。要するに、僕は数字を持ってなかったんですね。
なので、『コードギアス』に抜擢されたときも、監督の谷口(悟朗)さんはああいう皮肉屋な方ですから、「福山くんを起用しようとしたら、止められたんですよ。売れないからって」と言われました(笑)。まあ、谷口さんなりの発破のかけ方と理解しています(笑)。
。。。。。。
――主演としてヒットの責任と向き合うようになった、と?
福山 全てを背負い込む必要はないんですけど、せめて自覚はしないといけないなって。そういうことを考え始めたタイミングで出会ったのが、『コードギアス』という作品でした。
#福山润#
https://t.cn/A6TECDNM
采访,存图
详细的内心斗争,讲过很多次的,对自己很重要的岩窟王,因为岩窟王想辞退声优工作,刚出道时从青二离开, 在鲁鲁之前被说没有代表作。
2018年8月8号
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■とにかく悶々としていた若き日々
――もしかして、昔からぐるぐると考えがちな性格でしたか?
福山 悶々とはしていましたね(笑)。よく喋るんですけど、それ以上に頭の中で問答しているタイプで、ずっと自問自答の日々でした。
――デビューしたときの事務所を辞めてしばらく仕事がなかった時期も、将来についてかなり悶々とされていたそうですね。
福山 辞めたきっかけは、自分が根本的にこの業界で戦っていく力がないって自覚したことでした。最初に所属したのが大きい事務所だったこともあり、このまま守られていたら、いつまでも外で戦う力がつかないんじゃないかって危機感があったんですね。
それで僕は出演していた『∀ガンダム』の途中で事務所を辞めたんですけど、自分としては出演シーンも多くないし、大事にはならないと思っていたんです。でも周囲からは、「何やってんだ!?」ってどよめきが起こるくらいのことをしでかしていて。いかに無知だったか。未だに当時の自分には、「とりあえず誰かに相談してから決めろ」って声をかけたいですもの。
――それくらい自分一人で考えるタイプだった。
福山 そうですね。案の定、事務所を辞めてフリーになってからは仕事もなくなって。かといって声優を辞めるわけでもなく、身が入らないバイトをしながら、「いずれ戻りたい」と中途半端に思っていました。それなら誰かに助けを求めればいいのに、「いや、悶々とする時期だって必要だ」っていうめんどくさいことも考えていて(苦笑)。
たまにお仕事をもらっては、「やっぱりこの世界でやっていきたい」と思うんですけど、「イチからやり直したいので事務所を紹介してください」とは言えない。「たまたま作品に出させてもらったくらいで事務所に入れてくれって、あまりに節操がないのでは......」ってまたぐるぐると負のスパイラルに入ってしまう。大変に自分らしい時期だったと思います(笑)。
そういう苦しい期間を過ごしたので、再出発できたときには、一度なくしたものが戻ってきた喜びがすごくデカかったですね。それで余計なことは求めず、まずは自分ができることを積み重ねていこうと決めました。
。。。。。。
■「代表作がない」と言われた
福山 本当に巡り合わせが良かったんです。僕は『コードギアス』という作品に出会う前、「君には代表作がないよね」ってよく言われていました。僕自身は「そんなことないですよ」って答えるんですけど、「でも、突出して売れた作品がないじゃない?」と言われて。当時はアニメのソフトがすごく売れていたので、今だったら大ヒットになるような数字でもヒットとして扱われなかったんです。
もちろん、僕にとっては『巌窟王』を始めとして、全精力を注いだ作品はたくさんありました。でも、一般の人から見たら何をやっている人なのかわかりにくいよねって指摘も納得できて。要するに、僕は数字を持ってなかったんですね。
なので、『コードギアス』に抜擢されたときも、監督の谷口(悟朗)さんはああいう皮肉屋な方ですから、「福山くんを起用しようとしたら、止められたんですよ。売れないからって」と言われました(笑)。まあ、谷口さんなりの発破のかけ方と理解しています(笑)。
。。。。。。
――主演としてヒットの責任と向き合うようになった、と?
福山 全てを背負い込む必要はないんですけど、せめて自覚はしないといけないなって。そういうことを考え始めたタイミングで出会ったのが、『コードギアス』という作品でした。
#福山润#
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