#健康身体 健康地球 健康生活#
〔老いをみるまなざし〕
第12回 取り損なった予約
井口 昭久(いぐち あきひさ)
愛知淑徳大学健康医療科学部教授
7月26日の木曜日の16時30分に予約をしてあった。はずだ。
10分前に床屋へ着くと先客がいた。いつもなら「いらっしゃい」という店主が何も言わずに、客の頭を刈りながらいぶかしげに私を見た。
私は待ち合いの椅子に腰掛けた。読みたくはないが時間つぶしに棚から少年ジャンプを取り出して、眺めた。
店主は私の動作を目で追っていた。
ハサミの手を止めて言った。「井口さん、今日だったっけ?」
今日はあなたの予約ではありません、と言っている口調であった。いつも井口先生というのに「イグチサン」というのもへんだった。
私は抑えた口調で「そうじゃないの」と語尾を下げて答えた。
店主は「明日になってるよ」と詰問調であった。私が日付を間違えていると言いたいのだった。
私は毎月1回、30年間、その床屋へ通っている。
どちらかと言えば二人は親密な関係である。しかしその言葉をきっかけに敵対関係になった。
私は「今日だよ!」と語尾を強めた。
店主は客から離れて右手にハサミを、左手に櫛をもったまま、壁につるしてあるカレンダーに歩みよった。
カレンダーは上半分が写真で下の半分に曜日と日が書いてある。客の名前を書く特別のスペースはなかった。
店主は私に傍に来るようにハサミで手招きした。
問題の箇所を櫛で示しながら勝ち誇ったように言った。「そらね、ここに井口って書いてあるでしょう」確かに私の名前は7月27日の金曜日の隅っこに書かれていた。
それでも私は納得しなかった。金曜日は家へ早く帰る日と決めている。
私の不機嫌な顔を見て相手も不機嫌になった。
刈りかけの頭を放置された客が面白そうに眺めていた。
私は「毎日忙しいから木曜日以外に予約をするはずがない」と主張した。
しかし目の前に証拠を突きつけられて諦めざるをえなかった。
「明日にする?」といわれて、明日にしてもよかったが「忙しくて木曜日以外はだめだって言っただろう」と強弁した手前、明日にするわけにはいかなかった。
「来週にするよ」と譲歩した。
それじゃ「来週にしましょう」と言って私の見ている前で7月のカレンダーをまくり上げて8月のカレンダーに「井口先生」と大きな字で書き込んだ。彼は勝ち誇った顔をしていた。
しかしそれは水曜日の箇所であった。「そこは水曜日だろ、1週間後は木曜日だろ!!」というと言うと、彼は慌てて棒線を引いた。
「そうやっていつも間違えるんだろ!」と私はたたみかけた。
人は失敗を指摘されるとうろたえるものだ。店主は櫛で自分の頭をかきながら「この頃間違えてばっかりいるんだよな」と、ようやく全ての間違いを認めたようだった。
「すみませんでした」と謝った。
そのとき二人は重大な間違いを犯していることに気づいていなかった。
8月のカレンダーは7月の終わりから8月の始の1週目が最上段にある。
その日から1週間後は8月2日である。しかしカレンダーの配列をみると、1週間後は8月9日に見える。
彼は8月の8日の水曜日と9日の木曜日でやりとりをしていたのだった。
彼は私の指示で8月9日に「井口先生」と大きく書き込んだ。
1週間の間、あの床屋、私が惚けたとでも思ったのではないか、と思い出して不愉快であった。
他の床屋にしようかと思ったが、以前にもアタマにきて他の床屋へ行って再びここへ戻った経緯がある。
次週には店主はさぞかし恐縮しているだろうと思った。
8月2日。
再び先客がいた。
私が着くなり「先生、来週だよ!」と言った。店主は私の想像に反して自信満々であった。
カレンダ-を持ってきて日付の欄をたくしあげて見せた。そこには8月9日の木曜日に「井口先生」と書かれていた。そこへ書かせたのは私だ。私は反論のしようがなかった。
店主は私の伸びた髪の毛を眺めて、「明日にする?」と言った。
「忙しくて木曜日以外はだめだって言っただろう!」と先週と同じことを言った。
そして「来週にするよ」と床屋をあとにしながら、髪を切ってもらう機会が永遠にこないのではないかと心配になってきた。
図:老いをみるまなざし_第11回スーツにネクタイ_挿絵
(イラスト:茶畑和也)
著者
写真:筆者 井口昭久先生
井口 昭久(いぐち あきひさ)
愛知淑徳大学健康医療科学部教授
1943年生まれ。名古屋大学医学部卒業、名古屋大学医学部老年科教授、名古屋大学医学部附属病院長、日本老年医学会会長などを歴任、2007年より現職。名古屋大学名誉教授。
著書
「これからの老年学」(名古屋大学出版)、「やがて可笑しき老年期―ドクター井口のつぶやき」「"老い"のかたわらで ―ドクター井口のほのぼの人生」「旅の途中で」(いずれも風媒社)など著書多数
〔老いをみるまなざし〕
第12回 取り損なった予約
井口 昭久(いぐち あきひさ)
愛知淑徳大学健康医療科学部教授
7月26日の木曜日の16時30分に予約をしてあった。はずだ。
10分前に床屋へ着くと先客がいた。いつもなら「いらっしゃい」という店主が何も言わずに、客の頭を刈りながらいぶかしげに私を見た。
私は待ち合いの椅子に腰掛けた。読みたくはないが時間つぶしに棚から少年ジャンプを取り出して、眺めた。
店主は私の動作を目で追っていた。
ハサミの手を止めて言った。「井口さん、今日だったっけ?」
今日はあなたの予約ではありません、と言っている口調であった。いつも井口先生というのに「イグチサン」というのもへんだった。
私は抑えた口調で「そうじゃないの」と語尾を下げて答えた。
店主は「明日になってるよ」と詰問調であった。私が日付を間違えていると言いたいのだった。
私は毎月1回、30年間、その床屋へ通っている。
どちらかと言えば二人は親密な関係である。しかしその言葉をきっかけに敵対関係になった。
私は「今日だよ!」と語尾を強めた。
店主は客から離れて右手にハサミを、左手に櫛をもったまま、壁につるしてあるカレンダーに歩みよった。
カレンダーは上半分が写真で下の半分に曜日と日が書いてある。客の名前を書く特別のスペースはなかった。
店主は私に傍に来るようにハサミで手招きした。
問題の箇所を櫛で示しながら勝ち誇ったように言った。「そらね、ここに井口って書いてあるでしょう」確かに私の名前は7月27日の金曜日の隅っこに書かれていた。
それでも私は納得しなかった。金曜日は家へ早く帰る日と決めている。
私の不機嫌な顔を見て相手も不機嫌になった。
刈りかけの頭を放置された客が面白そうに眺めていた。
私は「毎日忙しいから木曜日以外に予約をするはずがない」と主張した。
しかし目の前に証拠を突きつけられて諦めざるをえなかった。
「明日にする?」といわれて、明日にしてもよかったが「忙しくて木曜日以外はだめだって言っただろう」と強弁した手前、明日にするわけにはいかなかった。
「来週にするよ」と譲歩した。
それじゃ「来週にしましょう」と言って私の見ている前で7月のカレンダーをまくり上げて8月のカレンダーに「井口先生」と大きな字で書き込んだ。彼は勝ち誇った顔をしていた。
しかしそれは水曜日の箇所であった。「そこは水曜日だろ、1週間後は木曜日だろ!!」というと言うと、彼は慌てて棒線を引いた。
「そうやっていつも間違えるんだろ!」と私はたたみかけた。
人は失敗を指摘されるとうろたえるものだ。店主は櫛で自分の頭をかきながら「この頃間違えてばっかりいるんだよな」と、ようやく全ての間違いを認めたようだった。
「すみませんでした」と謝った。
そのとき二人は重大な間違いを犯していることに気づいていなかった。
8月のカレンダーは7月の終わりから8月の始の1週目が最上段にある。
その日から1週間後は8月2日である。しかしカレンダーの配列をみると、1週間後は8月9日に見える。
彼は8月の8日の水曜日と9日の木曜日でやりとりをしていたのだった。
彼は私の指示で8月9日に「井口先生」と大きく書き込んだ。
1週間の間、あの床屋、私が惚けたとでも思ったのではないか、と思い出して不愉快であった。
他の床屋にしようかと思ったが、以前にもアタマにきて他の床屋へ行って再びここへ戻った経緯がある。
次週には店主はさぞかし恐縮しているだろうと思った。
8月2日。
再び先客がいた。
私が着くなり「先生、来週だよ!」と言った。店主は私の想像に反して自信満々であった。
カレンダ-を持ってきて日付の欄をたくしあげて見せた。そこには8月9日の木曜日に「井口先生」と書かれていた。そこへ書かせたのは私だ。私は反論のしようがなかった。
店主は私の伸びた髪の毛を眺めて、「明日にする?」と言った。
「忙しくて木曜日以外はだめだって言っただろう!」と先週と同じことを言った。
そして「来週にするよ」と床屋をあとにしながら、髪を切ってもらう機会が永遠にこないのではないかと心配になってきた。
図:老いをみるまなざし_第11回スーツにネクタイ_挿絵
(イラスト:茶畑和也)
著者
写真:筆者 井口昭久先生
井口 昭久(いぐち あきひさ)
愛知淑徳大学健康医療科学部教授
1943年生まれ。名古屋大学医学部卒業、名古屋大学医学部老年科教授、名古屋大学医学部附属病院長、日本老年医学会会長などを歴任、2007年より現職。名古屋大学名誉教授。
著書
「これからの老年学」(名古屋大学出版)、「やがて可笑しき老年期―ドクター井口のつぶやき」「"老い"のかたわらで ―ドクター井口のほのぼの人生」「旅の途中で」(いずれも風媒社)など著書多数
君の中にある赤と青き線
你體內的紅線與藍線,
それらが結ばれるのは心の臓
它們將於胸口的中心相纏;
風の中でも負けないような声で
在呼嘯而過的風也無法掩蓋的聲音裡,
届ける言葉を今は育ててる
我們正孕育著言語。
時はまくらぎ
時光如枕木
風はにきはだ
清風如凝脂
星はうぶすな
繁星如故鄉
人はかげろう
人生如蜃景
なんで泣いてるのと聞かれ答えれる涙なんかじゃ
當人們問我為何流淚,
僕ら出逢えたことの意味にはまるで追いつかない
作為答案的淚水,才不足以代表你我相逢的意義
この身ひとつじゃ足りない叫び
這是無法以我一個渺小身軀,所發出的嘶聲吶喊
君の手に触れた時にだけ震えた心があったよ
我發現了這顆觸碰你手掌時,才會顫抖的心
意味をいくつか越えれば辿りつけるのかな
我們需要跨越幾個意義,才能抵達那裡呢?
愚かさでいい 醜さでいい
即使愚蠢,即使醜陋
正しさのその先で 君と手を取りたい
無論正確與否,我想與你攜手同行
思い出せない 大切な記憶
無法回想起的重要記憶
言葉にならない ここにある想い
無法成形的思念
もしかしたら もしかしたら
說不定,說不定
それだけでこの心はできてる
這顆心就僅僅由那些意念所組成
もしかしたら もしかしたら
說不定,說不定
君に「気づいて」と今もその胸を
想令你甦醒的話語
打ち鳴らす
現在也正敲響著那道心扉
なんで泣いてるのと聞かれ答えれる涙なんかじゃ
當人們問我為何流淚,
僕ら出逢えたことの意味にはまるで追いつかない
作為答案的淚水,才不足以代表你我相逢的意義
この身ひとつじゃ足りない叫び
這是無法以我一個渺小身軀,所發出的嘶聲吶喊
君の手に触れた時にだけ震えた心があったよ
我發現了這顆觸碰你手掌時,才會顫抖的心
意味をいくつか越えれば辿りつけるのかな
我們需要跨越幾個意義,才能抵達那裡呢?
愚かさでいい 醜さでいい
即使愚蠢,即使醜陋
正しさのその先で 君と生きてきたい
無論正確與否,我想與你一同存在
-結城ちわ譯-
#铃芽户缔#
你體內的紅線與藍線,
それらが結ばれるのは心の臓
它們將於胸口的中心相纏;
風の中でも負けないような声で
在呼嘯而過的風也無法掩蓋的聲音裡,
届ける言葉を今は育ててる
我們正孕育著言語。
時はまくらぎ
時光如枕木
風はにきはだ
清風如凝脂
星はうぶすな
繁星如故鄉
人はかげろう
人生如蜃景
なんで泣いてるのと聞かれ答えれる涙なんかじゃ
當人們問我為何流淚,
僕ら出逢えたことの意味にはまるで追いつかない
作為答案的淚水,才不足以代表你我相逢的意義
この身ひとつじゃ足りない叫び
這是無法以我一個渺小身軀,所發出的嘶聲吶喊
君の手に触れた時にだけ震えた心があったよ
我發現了這顆觸碰你手掌時,才會顫抖的心
意味をいくつか越えれば辿りつけるのかな
我們需要跨越幾個意義,才能抵達那裡呢?
愚かさでいい 醜さでいい
即使愚蠢,即使醜陋
正しさのその先で 君と手を取りたい
無論正確與否,我想與你攜手同行
思い出せない 大切な記憶
無法回想起的重要記憶
言葉にならない ここにある想い
無法成形的思念
もしかしたら もしかしたら
說不定,說不定
それだけでこの心はできてる
這顆心就僅僅由那些意念所組成
もしかしたら もしかしたら
說不定,說不定
君に「気づいて」と今もその胸を
想令你甦醒的話語
打ち鳴らす
現在也正敲響著那道心扉
なんで泣いてるのと聞かれ答えれる涙なんかじゃ
當人們問我為何流淚,
僕ら出逢えたことの意味にはまるで追いつかない
作為答案的淚水,才不足以代表你我相逢的意義
この身ひとつじゃ足りない叫び
這是無法以我一個渺小身軀,所發出的嘶聲吶喊
君の手に触れた時にだけ震えた心があったよ
我發現了這顆觸碰你手掌時,才會顫抖的心
意味をいくつか越えれば辿りつけるのかな
我們需要跨越幾個意義,才能抵達那裡呢?
愚かさでいい 醜さでいい
即使愚蠢,即使醜陋
正しさのその先で 君と生きてきたい
無論正確與否,我想與你一同存在
-結城ちわ譯-
#铃芽户缔#
#阳光信用[超话]##阳光信用# [音乐]#每日一善#
救いはないよ声は細く千切れて
花壇に力無く崩れ落ちた
仕方ないでは済まされない問題
回答 開示 定時で退社
今なら抱き締めたいホームレス
ここからが人としての公務です
積み重なった罪が遂に
ふいになって故意に消していた
ドラマの最終回
ティッシュ配りのお兄さん
言葉を話さぬ僧侶
偽のパンダ
手が悴んだ
視界が滲んだ
駅前で一人
イルミネーションの馬鹿
ぽつり 降り出した雨の冷たさで
愚かさに塞ぐ若さだけでは
赤信号
連れてってくれよ
あいつの家までワンメーター
最低な夜は水に浮かべて
飲み干してしまえたらいいのに
子供たちはまだ街を夢見て
鈍く光る明日を待っていた
こんな日々が少しずつ僕らを
蝕んでしまうというのなら
足りない言葉伝わらなくても
今だけはただ繋ぎ合っていて
アーケード響き渡る
懐かしい声 心がざわついた
部屋が片付いて落ち着いたら
連絡してよって言ったっけ
嬉しくなったらどうするの
悲しくなったらどうするの
何も答えてあげられないな
とりあえずここで考えるよ
交差点 人の群
そこには答えはないよなぁ
夜明けのコーヒー
少し苦くて
ここは暗くて
微睡みの中で鼻歌を歌った
こんなものだ
国道沿いのパトカー
サイレンが響いていた
ああ もう幕(を)引きだ
鍵はポストに入れといて
最低な夜は水に浮かべて
飲み干してしまえたらいいのに
子供たちはまだ街を夢見て
鈍く光る明日を待っていた
こんな日々が少しずつ僕らを
蝕んでしまうというのなら
足りない言葉伝わらなくても
今だけはただ繋ぎ合っていて
(I waiting for --- tonight)
救いはないよ声は細く千切れて
花壇に力無く崩れ落ちた
仕方ないでは済まされない問題
回答 開示 定時で退社
今なら抱き締めたいホームレス
ここからが人としての公務です
積み重なった罪が遂に
ふいになって故意に消していた
ドラマの最終回
ティッシュ配りのお兄さん
言葉を話さぬ僧侶
偽のパンダ
手が悴んだ
視界が滲んだ
駅前で一人
イルミネーションの馬鹿
ぽつり 降り出した雨の冷たさで
愚かさに塞ぐ若さだけでは
赤信号
連れてってくれよ
あいつの家までワンメーター
最低な夜は水に浮かべて
飲み干してしまえたらいいのに
子供たちはまだ街を夢見て
鈍く光る明日を待っていた
こんな日々が少しずつ僕らを
蝕んでしまうというのなら
足りない言葉伝わらなくても
今だけはただ繋ぎ合っていて
アーケード響き渡る
懐かしい声 心がざわついた
部屋が片付いて落ち着いたら
連絡してよって言ったっけ
嬉しくなったらどうするの
悲しくなったらどうするの
何も答えてあげられないな
とりあえずここで考えるよ
交差点 人の群
そこには答えはないよなぁ
夜明けのコーヒー
少し苦くて
ここは暗くて
微睡みの中で鼻歌を歌った
こんなものだ
国道沿いのパトカー
サイレンが響いていた
ああ もう幕(を)引きだ
鍵はポストに入れといて
最低な夜は水に浮かべて
飲み干してしまえたらいいのに
子供たちはまだ街を夢見て
鈍く光る明日を待っていた
こんな日々が少しずつ僕らを
蝕んでしまうというのなら
足りない言葉伝わらなくても
今だけはただ繋ぎ合っていて
(I waiting for --- tonight)
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