Snow Man ラウールに密着 ミラノ&パリで注目を浴びたファッションスタイル
fashionsnap 2024.02.15 Thu. - 12:00 JST
Snow Manのラウールさんが再びファッションウィークへ。昨年1月にパリコレに初参加した彼が、今シーズンはどんなスタイルで、どんな表情を見せたのか。初めて訪れたミラノから、1年ぶりのパリ、そして特別なシューティングまで、ファッションへの情熱を胸に世界で通用するモデルを目指す、彼の姿を追いました。
Ciao, Milano!
ドルチェ&ガッバーナへ
「シックな雰囲気の街ですね」。見るもの全てが新鮮な、初めてのイタリア・ミラノ。「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)」のショーに出席したラウールさんは同日、暖かい光に包まれた夜の街に繰り出しました。ピンストライプのシングルブレストスーツに、首元にはDGロゴをあしらった細身のチェーンネックレスが光ります。
荘厳な大聖堂を臨むドゥオーモ広場を歩き、世界最古のアーケード「ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガッレリア」へ。ダンススキルを活かしたポージングが、ミラネーゼの注目を浴びて「素晴らしいわね!」と声をかけられる場面も。
JW アンダーソンへ
「JW アンダーソン(JW Anderson)」のショー会場に向かうラウールさんは、深いVネックのカラフルなニットを着用。パッド入りチューブディテールが目を引く「バンパー」バッグと、チェーンディテールのサンダルは鮮やかなブルーで統一。ポップな装いに合わせたカラーメイクが、フレッシュな魅力を引き立てます。
ジョルジオ アルマーニへ
17世紀に建てられた邸宅パラッツォ・オルシーニ内のシアターで行われる「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」のショーへと向かうラウールさんの姿をキャッチ。2024年春夏コレクションで発表された艶やかなレザージャケットに、シルクのジレとパンツ、そして一粒パールのネックレスを合わせたスタイル。髪はタイトになであげ、成熟したムードを漂わせます。ショー会場では、今年90歳を迎える"モード界の帝王"、ジョルジオ・アルマーニ氏とのグリーティングがかないました。
Retour à Paris
アミ パリスへ
ミラノのファッションウィークの終了後、パリへと移動。まず出席したのは、フランスのエスプリが漂う「アミ パリス(AMI PARIS)」。ネイビーのセットアップにロング丈のテーラードコートを肩掛けした上品なスタイルでショー会場に姿を表すと、大きな歓声とフラッシュの光に包まれました。シルバーのランチボックスバッグとチェーンネックレスには、ブランドの頭文字であるAとハートを掛け合わせたアミ パリスのシグネチャー「AMI DE COEUR(=心の友)」があしらわれています。
ショーの後に行われた、デザイナーのアレクサンドル・マテュッシ(Alexandre Mattiussi)氏とのグリーティングでは、和やかに笑い合いながら2ショット撮影するシーンも。
ケンゾーへ
ヨーロッパ最古の図書館で行われた「ケンゾー(KENZO)」のショーでは、デザイナーのヴェルディ(Verdy)とのコラボレーションから生まれたKIMONOジャケットを着用。ストーンウォッシュ加工のデニムの胸元と背面に 「KENZO by Verdy」 の刺しゅうが施されています。ヴィンテージのミリタリーウェアからインスパイアされたショートパンツを合わせ、ワイドレッグのカーゴスタイルが完成。「BOKE FLOWER」がモチーフとなったキルトピンのきらめきがアクセントに。
ヴァレンティノへ
ピエール パオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)が手掛ける「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のショーが行われたのはパリ造幣局。立体的な花の装飾をあしらったホワイトジャケットの清楚な装いが、歴史的な建造物に映えます。ボトムに合わせたバミューダパンツが新鮮。手に持っているのは、2024年春夏コレクションで注目を集めた「ポーター(PORTER)」のコラボレーションバッグ。「V-LIGHT」オーバーサイズ スクエアフレームのサングラスがエッジを効かせます。
サカイへ
ラウールさんにとってパリでのラストショーは「サカイ(sacai)」。ボタニカルモチーフをパッチワークしたトープ×グリーンのスタイリングで姿を表しました。風になびくナチュラルなヘアスタイルが爽やかな印象です。
会場の外でラウールさんを待ち受けていたのは「ラウール 3秒笑って!!」のボードを持ったファン。ラウールさんが2016年にジュニアBoysのメンバーとして参加したシングル「3秒 笑って」から引用した模様。とびきりの笑顔を見せてくれました。
fashionsnap 2024.02.15 Thu. - 12:00 JST
Snow Manのラウールさんが再びファッションウィークへ。昨年1月にパリコレに初参加した彼が、今シーズンはどんなスタイルで、どんな表情を見せたのか。初めて訪れたミラノから、1年ぶりのパリ、そして特別なシューティングまで、ファッションへの情熱を胸に世界で通用するモデルを目指す、彼の姿を追いました。
Ciao, Milano!
ドルチェ&ガッバーナへ
「シックな雰囲気の街ですね」。見るもの全てが新鮮な、初めてのイタリア・ミラノ。「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)」のショーに出席したラウールさんは同日、暖かい光に包まれた夜の街に繰り出しました。ピンストライプのシングルブレストスーツに、首元にはDGロゴをあしらった細身のチェーンネックレスが光ります。
荘厳な大聖堂を臨むドゥオーモ広場を歩き、世界最古のアーケード「ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガッレリア」へ。ダンススキルを活かしたポージングが、ミラネーゼの注目を浴びて「素晴らしいわね!」と声をかけられる場面も。
JW アンダーソンへ
「JW アンダーソン(JW Anderson)」のショー会場に向かうラウールさんは、深いVネックのカラフルなニットを着用。パッド入りチューブディテールが目を引く「バンパー」バッグと、チェーンディテールのサンダルは鮮やかなブルーで統一。ポップな装いに合わせたカラーメイクが、フレッシュな魅力を引き立てます。
ジョルジオ アルマーニへ
17世紀に建てられた邸宅パラッツォ・オルシーニ内のシアターで行われる「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」のショーへと向かうラウールさんの姿をキャッチ。2024年春夏コレクションで発表された艶やかなレザージャケットに、シルクのジレとパンツ、そして一粒パールのネックレスを合わせたスタイル。髪はタイトになであげ、成熟したムードを漂わせます。ショー会場では、今年90歳を迎える"モード界の帝王"、ジョルジオ・アルマーニ氏とのグリーティングがかないました。
Retour à Paris
アミ パリスへ
ミラノのファッションウィークの終了後、パリへと移動。まず出席したのは、フランスのエスプリが漂う「アミ パリス(AMI PARIS)」。ネイビーのセットアップにロング丈のテーラードコートを肩掛けした上品なスタイルでショー会場に姿を表すと、大きな歓声とフラッシュの光に包まれました。シルバーのランチボックスバッグとチェーンネックレスには、ブランドの頭文字であるAとハートを掛け合わせたアミ パリスのシグネチャー「AMI DE COEUR(=心の友)」があしらわれています。
ショーの後に行われた、デザイナーのアレクサンドル・マテュッシ(Alexandre Mattiussi)氏とのグリーティングでは、和やかに笑い合いながら2ショット撮影するシーンも。
ケンゾーへ
ヨーロッパ最古の図書館で行われた「ケンゾー(KENZO)」のショーでは、デザイナーのヴェルディ(Verdy)とのコラボレーションから生まれたKIMONOジャケットを着用。ストーンウォッシュ加工のデニムの胸元と背面に 「KENZO by Verdy」 の刺しゅうが施されています。ヴィンテージのミリタリーウェアからインスパイアされたショートパンツを合わせ、ワイドレッグのカーゴスタイルが完成。「BOKE FLOWER」がモチーフとなったキルトピンのきらめきがアクセントに。
ヴァレンティノへ
ピエール パオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)が手掛ける「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のショーが行われたのはパリ造幣局。立体的な花の装飾をあしらったホワイトジャケットの清楚な装いが、歴史的な建造物に映えます。ボトムに合わせたバミューダパンツが新鮮。手に持っているのは、2024年春夏コレクションで注目を集めた「ポーター(PORTER)」のコラボレーションバッグ。「V-LIGHT」オーバーサイズ スクエアフレームのサングラスがエッジを効かせます。
サカイへ
ラウールさんにとってパリでのラストショーは「サカイ(sacai)」。ボタニカルモチーフをパッチワークしたトープ×グリーンのスタイリングで姿を表しました。風になびくナチュラルなヘアスタイルが爽やかな印象です。
会場の外でラウールさんを待ち受けていたのは「ラウール 3秒笑って!!」のボードを持ったファン。ラウールさんが2016年にジュニアBoysのメンバーとして参加したシングル「3秒 笑って」から引用した模様。とびきりの笑顔を見せてくれました。
人間椅子(一)
江戸川乱歩
佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。
奥様、
奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。
私という男は、何と因果な生れつきなのでありましょう。そんな醜い容貌を持ちながら、胸の中では、人知れず、世にも烈はげしい情熱を、燃もやしていたのでございます。私は、お化ばけのような顔をした、その上極ごく貧乏な、一職人に過ぎない私の現実を忘れて、身の程知らぬ、甘美な、贅沢ぜいたくな、種々様々の「夢」にあこがれていたのでございます。
私が若し、もっと豊な家に生れていましたなら、金銭の力によって、色々の遊戯に耽ふけり、醜貌しゅうぼうのやるせなさを、まぎらすことが出来たでもありましょう。それとも又、私に、もっと芸術的な天分が、与えられていましたなら、例えば美しい詩歌によって、此世このよの味気あじきなさを、忘れることが出来たでもありましょう。併しかし、不幸な私は、何いずれの恵みにも浴することが出来ず、哀れな、一家具職人の子として、親譲りの仕事によって、其日そのひ其日の暮しを、立てて行く外ほかはないのでございました。
私の専門は、様々の椅子いすを作ることでありました。私の作った椅子は、どんな難しい註文主にも、きっと気に入るというので、商会でも、私には特別に目をかけて、仕事も、上物じょうものばかりを、廻して呉くれて居りました。そんな上物になりますと、凭もたれや肘掛ひじかけの彫りものに、色々むずかしい註文があったり、クッションの工合ぐあい、各部の寸法などに、微妙な好みがあったりして、それを作る者には、一寸ちょっと素人の想像出来ない様な苦心が要るのでございますが、でも、苦心をすればした丈け、出来上った時の愉快というものはありません。生意気を申す様ですけれど、その心持ちは、芸術家が立派な作品を完成した時の喜びにも、比ぶべきものではないかと存じます。
一つの椅子が出来上ると、私は先ず、自分で、それに腰かけて、坐り工合を試して見ます。そして、味気ない職人生活の内にも、その時ばかりは、何とも云えぬ得意を感じるのでございます。そこへは、どの様な高貴の方が、或あるいはどの様な美しい方がおかけなさることか、こんな立派な椅子を、註文なさる程のお邸やしきだから、そこには、きっと、この椅子にふさわしい、贅沢な部屋があるだろう。壁間かべには定めし、有名な画家の油絵が懸かかり、天井からは、偉大な宝石の様な装飾電燈シャンデリヤが、さがっているに相違ない。床には、高価な絨氈じゅうたんが、敷きつめてあるだろう。そして、この椅子の前のテーブルには、眼の醒める様な、西洋草花が、甘美な薫かおりを放って、咲き乱れていることであろう。そんな妄想に耽っていますと、何だかこう、自分が、その立派な部屋の主あるじにでもなった様な気がして、ほんの一瞬間ではありますけれど、何とも形容の出来ない、愉快な気持になるのでございます。
私の果敢はかない妄想は、猶なおとめどもなく増長して参ります。この私が、貧乏な、醜い、一職人に過ぎない私が、妄想の世界では、気高い貴公子になって、私の作った立派な椅子に、腰かけているのでございます。そして、その傍かたわらには、いつも私の夢に出て来る、美しい私の恋人が、におやかにほほえみながら、私の話に聞入って居ります。そればかりではありません。私は妄想の中で、その人と手をとり合って、甘い恋の睦言むつごとを、囁ささやき交かわしさえするのでございます。
ところが、いつの場合にも、私のこの、フーワリとした紫の夢は、忽たちまちにして、近所のお上かみさんの姦かしましい話声や、ヒステリーの様に泣き叫ぶ、其辺そのあたりの病児びょうじの声に妨さまたげられて、私の前には、又しても、醜い現実が、あの灰色のむくろをさらけ出すのでございます。現実に立帰った私は、そこに、夢の貴公子とは似てもつかない、哀れにも醜い、自分自身の姿を見出みいだします。そして、今の先、私にほほえみかけて呉れた、あの美しい人は。……そんなものが、全体どこにいるのでしょう。その辺に、埃ほこりまみれになって遊んでいる、汚らしい子守こもり女でさえ、私なぞには、見向いても呉れはしないのでございます。ただ一つ、私の作った椅子丈けが、今の夢の名残なごりの様に、そこに、ポツネンと残って居ります。でも、その椅子は、やがて、いずことも知れぬ、私達のとは全く別な世界へ、運び去られて了うのではありませんか。
私は、そうして、一つ一つ椅子を仕上げる度毎たびごとに、いい知れぬ味気なさに襲われるのでございます。その、何とも形容の出来ない、いやあな、いやあな心持は、月日が経つに従って、段々、私には堪え切れないものになって参りました。
「こんな、うじ虫の様な生活を、続けて行く位なら、いっそのこと、死んで了った方が増しだ」私は、真面目に、そんなことを思います。仕事場で、コツコツと鑿のみを使いながら、釘を打ちながら、或は、刺戟しげきの強い塗料をこね廻しながら、その同じことを、執拗しつように考え続けるのでございます。「だが、待てよ、死んで了う位なら、それ程の決心が出来るなら、もっと外に、方法がないものであろうか。例えば……」そうして、私の考えは、段々恐ろしい方へ、向いて行くのでありました。
丁度その頃、私は、嘗かつて手がけたことのない、大きな皮張りの肘掛椅子の、製作を頼まれて居りました。此椅子は、同じY市で外人の経営している、あるホテルへ納める品で、一体なら、その本国から取寄せる筈はずのを、私の雇われていた、商会が運動して、日本にも舶来品に劣らぬ椅子職人がいるからというので、やっと註文を取ったものでした。それ丈けに、私としても、寝食を忘れてその製作に従事しました。本当に魂をこめて、夢中になってやったものでございます。
さて、出来上った椅子を見ますと、私は嘗つて覚えない満足を感じました。それは、我乍われながら、見とれる程の、見事な出来ばえであったのです。私は例によって、四脚一組になっているその椅子の一つを、日当りのよい板の間へ持出して、ゆったりと腰を下しました。何という坐り心地のよさでしょう。フックラと、硬こわすぎず軟やわらかすぎぬクッションのねばり工合、態わざと染色を嫌って灰色の生地のまま張りつけた、鞣革なめしがわの肌触り、適度の傾斜を保って、そっと背中を支えて呉れる、豊満な凭もたれ、デリケートな曲線を描いて、オンモリとふくれ上った、両側の肘掛け、それらの凡すべてが、不思議な調和を保って、渾然こんぜんとして「安楽コンフォート」という言葉を、そのまま形に現している様に見えます。
私は、そこへ深々と身を沈め、両手で、丸々とした肘掛けを愛撫しながら、うっとりとしていました。すると、私の癖として、止めどもない妄想が、五色ごしきの虹の様に、まばゆいばかりの色彩を以もって、次から次へと湧わき上って来るのです。あれを幻まぼろしというのでしょうか。心に思うままが、あんまりはっきりと、眼の前に浮んで来ますので、私は、若しや気でも違うのではないかと、空恐ろしくなった程でございます。
そうしています内に、私の頭に、ふとすばらしい考えが浮んで参りました。悪魔の囁きというのは、多分ああした事を指すのではありますまいか。それは、夢の様に荒唐無稽こうとうむけいで、非常に不気味な事柄でした。でも、その不気味さが、いいしれぬ魅力となって、私をそそのかすのでございます。
江戸川乱歩
佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送って了しまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、とじ籠こもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、此この頃ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
今朝けさとても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。
簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。別段通知の手紙は貰もらっていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈だけでも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
それは、思った通り、原稿用紙を綴とじたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持前もちまえの好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。
奥様、
奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、此様このような無躾ぶしつけな御手紙を、差上げます罪を、幾重いくえにもお許し下さいませ。
こんなことを申上げますと、奥様は、さぞかしびっくりなさる事で御座いましょうが、私は今、あなたの前に、私の犯して来ました、世にも不思議な罪悪を、告白しようとしているのでございます。
私は数ヶ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論もちろん、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。若もし、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起りました。そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懺悔ざんげしないではいられなくなりました。ただ、かように申しましたばかりでは、色々御不審ごふしんに思召おぼしめす点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。そうすれば、何故なぜ、私がそんな気持になったのか。又何故、この告白を、殊更ことさら奥様に聞いて頂かねばならぬのか、それらのことが、悉ことごとく明白になるでございましょう。
さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面おもはゆくて、筆の鈍るのを覚えます。でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起りから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。
私は生れつき、世にも醜い容貌の持主でございます。これをどうか、はっきりと、お覚えなすっていて下さいませ。そうでないと、若し、あなたが、この無躾な願いを容いれて、私にお逢あい下さいました場合、たださえ醜い私の顔が、長い月日の不健康な生活の為ために、二ふた目と見られぬ、ひどい姿になっているのを、何の予備知識もなしに、あなたに見られるのは、私としては、堪たえ難がたいことでございます。
私という男は、何と因果な生れつきなのでありましょう。そんな醜い容貌を持ちながら、胸の中では、人知れず、世にも烈はげしい情熱を、燃もやしていたのでございます。私は、お化ばけのような顔をした、その上極ごく貧乏な、一職人に過ぎない私の現実を忘れて、身の程知らぬ、甘美な、贅沢ぜいたくな、種々様々の「夢」にあこがれていたのでございます。
私が若し、もっと豊な家に生れていましたなら、金銭の力によって、色々の遊戯に耽ふけり、醜貌しゅうぼうのやるせなさを、まぎらすことが出来たでもありましょう。それとも又、私に、もっと芸術的な天分が、与えられていましたなら、例えば美しい詩歌によって、此世このよの味気あじきなさを、忘れることが出来たでもありましょう。併しかし、不幸な私は、何いずれの恵みにも浴することが出来ず、哀れな、一家具職人の子として、親譲りの仕事によって、其日そのひ其日の暮しを、立てて行く外ほかはないのでございました。
私の専門は、様々の椅子いすを作ることでありました。私の作った椅子は、どんな難しい註文主にも、きっと気に入るというので、商会でも、私には特別に目をかけて、仕事も、上物じょうものばかりを、廻して呉くれて居りました。そんな上物になりますと、凭もたれや肘掛ひじかけの彫りものに、色々むずかしい註文があったり、クッションの工合ぐあい、各部の寸法などに、微妙な好みがあったりして、それを作る者には、一寸ちょっと素人の想像出来ない様な苦心が要るのでございますが、でも、苦心をすればした丈け、出来上った時の愉快というものはありません。生意気を申す様ですけれど、その心持ちは、芸術家が立派な作品を完成した時の喜びにも、比ぶべきものではないかと存じます。
一つの椅子が出来上ると、私は先ず、自分で、それに腰かけて、坐り工合を試して見ます。そして、味気ない職人生活の内にも、その時ばかりは、何とも云えぬ得意を感じるのでございます。そこへは、どの様な高貴の方が、或あるいはどの様な美しい方がおかけなさることか、こんな立派な椅子を、註文なさる程のお邸やしきだから、そこには、きっと、この椅子にふさわしい、贅沢な部屋があるだろう。壁間かべには定めし、有名な画家の油絵が懸かかり、天井からは、偉大な宝石の様な装飾電燈シャンデリヤが、さがっているに相違ない。床には、高価な絨氈じゅうたんが、敷きつめてあるだろう。そして、この椅子の前のテーブルには、眼の醒める様な、西洋草花が、甘美な薫かおりを放って、咲き乱れていることであろう。そんな妄想に耽っていますと、何だかこう、自分が、その立派な部屋の主あるじにでもなった様な気がして、ほんの一瞬間ではありますけれど、何とも形容の出来ない、愉快な気持になるのでございます。
私の果敢はかない妄想は、猶なおとめどもなく増長して参ります。この私が、貧乏な、醜い、一職人に過ぎない私が、妄想の世界では、気高い貴公子になって、私の作った立派な椅子に、腰かけているのでございます。そして、その傍かたわらには、いつも私の夢に出て来る、美しい私の恋人が、におやかにほほえみながら、私の話に聞入って居ります。そればかりではありません。私は妄想の中で、その人と手をとり合って、甘い恋の睦言むつごとを、囁ささやき交かわしさえするのでございます。
ところが、いつの場合にも、私のこの、フーワリとした紫の夢は、忽たちまちにして、近所のお上かみさんの姦かしましい話声や、ヒステリーの様に泣き叫ぶ、其辺そのあたりの病児びょうじの声に妨さまたげられて、私の前には、又しても、醜い現実が、あの灰色のむくろをさらけ出すのでございます。現実に立帰った私は、そこに、夢の貴公子とは似てもつかない、哀れにも醜い、自分自身の姿を見出みいだします。そして、今の先、私にほほえみかけて呉れた、あの美しい人は。……そんなものが、全体どこにいるのでしょう。その辺に、埃ほこりまみれになって遊んでいる、汚らしい子守こもり女でさえ、私なぞには、見向いても呉れはしないのでございます。ただ一つ、私の作った椅子丈けが、今の夢の名残なごりの様に、そこに、ポツネンと残って居ります。でも、その椅子は、やがて、いずことも知れぬ、私達のとは全く別な世界へ、運び去られて了うのではありませんか。
私は、そうして、一つ一つ椅子を仕上げる度毎たびごとに、いい知れぬ味気なさに襲われるのでございます。その、何とも形容の出来ない、いやあな、いやあな心持は、月日が経つに従って、段々、私には堪え切れないものになって参りました。
「こんな、うじ虫の様な生活を、続けて行く位なら、いっそのこと、死んで了った方が増しだ」私は、真面目に、そんなことを思います。仕事場で、コツコツと鑿のみを使いながら、釘を打ちながら、或は、刺戟しげきの強い塗料をこね廻しながら、その同じことを、執拗しつように考え続けるのでございます。「だが、待てよ、死んで了う位なら、それ程の決心が出来るなら、もっと外に、方法がないものであろうか。例えば……」そうして、私の考えは、段々恐ろしい方へ、向いて行くのでありました。
丁度その頃、私は、嘗かつて手がけたことのない、大きな皮張りの肘掛椅子の、製作を頼まれて居りました。此椅子は、同じY市で外人の経営している、あるホテルへ納める品で、一体なら、その本国から取寄せる筈はずのを、私の雇われていた、商会が運動して、日本にも舶来品に劣らぬ椅子職人がいるからというので、やっと註文を取ったものでした。それ丈けに、私としても、寝食を忘れてその製作に従事しました。本当に魂をこめて、夢中になってやったものでございます。
さて、出来上った椅子を見ますと、私は嘗つて覚えない満足を感じました。それは、我乍われながら、見とれる程の、見事な出来ばえであったのです。私は例によって、四脚一組になっているその椅子の一つを、日当りのよい板の間へ持出して、ゆったりと腰を下しました。何という坐り心地のよさでしょう。フックラと、硬こわすぎず軟やわらかすぎぬクッションのねばり工合、態わざと染色を嫌って灰色の生地のまま張りつけた、鞣革なめしがわの肌触り、適度の傾斜を保って、そっと背中を支えて呉れる、豊満な凭もたれ、デリケートな曲線を描いて、オンモリとふくれ上った、両側の肘掛け、それらの凡すべてが、不思議な調和を保って、渾然こんぜんとして「安楽コンフォート」という言葉を、そのまま形に現している様に見えます。
私は、そこへ深々と身を沈め、両手で、丸々とした肘掛けを愛撫しながら、うっとりとしていました。すると、私の癖として、止めどもない妄想が、五色ごしきの虹の様に、まばゆいばかりの色彩を以もって、次から次へと湧わき上って来るのです。あれを幻まぼろしというのでしょうか。心に思うままが、あんまりはっきりと、眼の前に浮んで来ますので、私は、若しや気でも違うのではないかと、空恐ろしくなった程でございます。
そうしています内に、私の頭に、ふとすばらしい考えが浮んで参りました。悪魔の囁きというのは、多分ああした事を指すのではありますまいか。それは、夢の様に荒唐無稽こうとうむけいで、非常に不気味な事柄でした。でも、その不気味さが、いいしれぬ魅力となって、私をそそのかすのでございます。
#樱田通ins更新# CLARINS
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特別感もアップして嬉しいです!
さらに『リップコンフォートオイル 18 7mL』はヘーゼルナッツ マカロンのようなシックでトレンド感あふれるカラーに!ヘーゼルナッツ マカロンの香りがとても甘く柔らかな印象でした! たっぷりのトリートメント成分が唇をやさしく包みこみ長時間保湿し守ってくれます✨
他にも、『ウォーターリップ ステイン 10 7mL』 『UV-プラス マルチ デイ スクリーン N ロージーグロウ P SPF50/PA++++ 30mL』 『ハンド/ネイル トリートメント クリーム P 30mL』 など、クラランス パティスリー コレクションは5つのアイテムからその世界観が構築されています! 自然由来の製品なので肌にも気遣いながら、バレンタインの季節にぴったりの可愛らしいアイテムを楽しむことができるのが嬉しいです
バレンタインギフトにもおすすめです✨ ポップアップは2月14日(水)から2月20日(火)まで、伊勢丹新宿店本館 1階 化粧品/プロモーションにて開催されています! 百貨店では初のフィックス メイクアップ Pの刻印サービスや8250円(税込)以上ご購入いただいた方へのプレゼントなどもあるので是非遊びに行ってみてくださいね✨ #PR #クラランス #クラランスパティスリー
スキンケア&メイクアップの両方に力を入れていて、自然由来の成分にこだわった製品を展開し続けている今年70周年のブランド『クラランス』から、スプリングコレクション『クラランス パティスリー コレクション』が登場します!
コレクションを記念した新宿伊勢丹で開催されているポップアップにも行ってきました!
フランスでも特に愛されているスキンケアブランドであることから、今年はフランスが誇る"パティスリー文化"とコラボしたコレクションとなっています✨
中でも『フィックス メイクアップ P 50mL』はまるでローズソルベを味わうような華やかフレッシュさで、化粧崩れ対策から乾燥対策までしてくれます!
皆さんにもこのローズソルベのような香りと細かいミストをぜひ試してみてほしいです!
そして限定の刻印サービスでキャップ部分に’DORI♡’と刻印もしてもらいました
特別感もアップして嬉しいです!
さらに『リップコンフォートオイル 18 7mL』はヘーゼルナッツ マカロンのようなシックでトレンド感あふれるカラーに!ヘーゼルナッツ マカロンの香りがとても甘く柔らかな印象でした! たっぷりのトリートメント成分が唇をやさしく包みこみ長時間保湿し守ってくれます✨
他にも、『ウォーターリップ ステイン 10 7mL』 『UV-プラス マルチ デイ スクリーン N ロージーグロウ P SPF50/PA++++ 30mL』 『ハンド/ネイル トリートメント クリーム P 30mL』 など、クラランス パティスリー コレクションは5つのアイテムからその世界観が構築されています! 自然由来の製品なので肌にも気遣いながら、バレンタインの季節にぴったりの可愛らしいアイテムを楽しむことができるのが嬉しいです
バレンタインギフトにもおすすめです✨ ポップアップは2月14日(水)から2月20日(火)まで、伊勢丹新宿店本館 1階 化粧品/プロモーションにて開催されています! 百貨店では初のフィックス メイクアップ Pの刻印サービスや8250円(税込)以上ご購入いただいた方へのプレゼントなどもあるので是非遊びに行ってみてくださいね✨ #PR #クラランス #クラランスパティスリー
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